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125話 顔を覚えた


「しかし、偶然ですわねレオン様! こんなところで会うなんて!」


 セイナは不愉快なほどに甘ったるい猫撫で声をあげてレオンに迫る。


「悪いけど、今は婚約者のヒカリを案内しているところでね、また今度にしてくれないか?」


『このあと一緒に』の一言すら呟いていないのに、もう既に退散モードのレオン。



「そうですか、ヒカリさんはどうですか?」

「え……?」


 既に眼中にないと思われていたのに、まさか話しかけられるとは。


 というか正直眼中に無い方が有り難かった。


 セイナからしたらこの状況は地雷でしかないのに、わざわざその地雷を踏ませる真似させないでほしい。


「どうせなら、同性と一緒の方が話が弾むと思いませんか? チュリーもそう思わなくって?」

「勿論です! 一度ゆっくり、話して見たいと思ってたんです!」

「……」


 完璧な作り笑顔が逆に怖い。


 後ろの四人も値踏みをするような目で見ている。どれだけ気が狂っててもこのメンツと居たくない。


「えっと、ごめんなさい……」

「…………あらそう」

「っ……」


 一気に低くなったトーンが威圧のように感じ、レオンと握る手に力が籠る。



「そういえば昨日、レオン様がヒカリさんを探しておりましたけどーー」

「え!?」

「どうかされまして?」

「い……いえ……」


 まさか自分からその話題を出すなんて。自白するつもりなんてないだろうし、なんなんだ一体。


「あぁ、お陰様で怪我もなく無事見つかったよ」

「そうでしたか。怪我しそうなことが起きたのですか?」

「…………そうだな。もう生徒会で処理したからいいが」

「そうですか」


 まぁそう簡単にボロが出るような人ではないよね。

 何せ監禁未遂なんて起きたこと知ってるのは、レオンの婚約者候補三人と生徒会の人たちだけなんだし。


「それでは僕とヒカリは失礼するよ」

「そうですわね? とても楽しい時間でしたわ!」


 ニコリレオンに向けて笑うセイナは、非常にキラキラしており、充実感に浸っていた。


「それにーー」

「?」


 不意に僕に目を向け、ニタァと笑う。


「皆様も、新しいご友人の『顔を覚えた』ようですし?」

「……」


(僕は一切顔なんて覚えてないけどね)


 そもそも覚えるつもりもありません。


「では、ごきげんよう!」


 そして上機嫌のまま、セイナと取り巻きたちは去っていった。



「……まずいね」

「……まずいの?」


 僕はレオンがどうしてそう呟いたのか理解出来なかった。


「非常にまずいよ。だって、セイナがヒカリを監禁未遂したんでしょ?」

「そうだけど……」

「今日までヒカリの顔を知ってるのはセイナだけだったんだ」

「……え?」

「そしてチュリーたちは今日までヒカリの名前しか知らなかった」

「でも……さっき名前も顔も……覚えたって……」


 それって、ヤバいのでは?


 嫉妬で事件を起こしそうな人が、セイナとルージーの二人から、セイナの取り巻きの人数分増えた……。


 そして初日に絡んできたミカ・オウレンも含めれば、八人。


「あの中には、最初の頃に足切りした元婚約者候補もいてね……」

「どうしようレオン……」


 単純に嫌がらせが四倍に増えるわけでもないだろうが、普通に学園生活に支障が出る可能性も……。


 ヤバいな、別に怖くて震えているわけではないけど、未来の不安が大き過ぎる。


「大丈夫だよヒカリ。絶対にヒカリは守るし、スティアやシャイナもヒカリ味方だ。アリア様もユアンお兄様もいる。何より生徒会長のユウお姉様もヒカリを気に入っている」

「うん……」

「何かあっても、絶対に皆んなでなんとかするから」


 まるでさっきの続きをするかのように頭を撫でる。


「ありがとね?」


 少し気が抜けてへにゃりと笑みを浮かべる。


「大丈夫。婚約者候補とか関係ない。好きな人は傷つけさせないよ」

「うん」



 あまりにも不安要素の多い未来だけど、王族や公爵が心強過ぎてどうにでもなりそうだ。

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