119話 リョウ・ミドロ侯爵
俺は一人になった教室で、運動部のマネージャーらしき人と話している『スティア公爵令嬢』『シャイナ公爵令嬢』そしてヒカリちゃんを見つめている。
「……上手くいかないな」
俺『リョウ・ミドロ』には婚約者がいる。
お互いが七歳だった頃に決まった婚約だった。
家の都合、釣り合う格、世間体。
そのための婚約とはいえ、顔合わせの時は楽しみだった。
しかし蓋を開けてみればーー
「お父様! 私はレオン様と婚約するのよ!」
「ルージー、お前は切られたんだ! レオン王子のことは諦めーー」
「嫌よ! 何のために今日まで平民なんかの流行りを勉強したと思ってるの!」
「ルージー!」
相手は目の前にいる俺を認知すらしていない。
「懐かしいこと思い出したな……」
あれから名目上婚約者にはなったが、第一印象が最悪すぎて、それからの日々はもっと最悪でーー
そんな中、学園の入学式の日、偶々公爵家の人間『スティア・オーラライト』が歩いている姿を見かける。
ルージーと同い年なのにレオン様に選ばれて、ルージーよりも格が高い公爵。
「隣にいるのは……」
もう二人。一人は『アリア・セルライト』だ。
だけどもう一人の方が見たことない。
桃色の髪でふわふわした少し幼い外見の女の子。
「あれが『ヒカリ・ウィンガート』」
噂に聞く『伯爵なのにレオン様の婚約者候補に残った女』。
そして、ルージーがことある毎に恨み節を呟いていた令嬢。
「なら……あっちでいいじゃん」
不意にそんなことを思ったのだ。
レオン様の婚約者候補に残る女だ。顔はかなり良いし、本人同士の格は釣り合うだろう。
そして、そんな女性と結ばれれば世間体も悪くない。それどころかかなり登り詰める可能性もある。
もうルージーにはうんざりしていたし、何処かで声をかける機会があればーー
が、チャンスは直ぐに訪れた。
学力テスト直前、ミカ侯爵がヒカリ・ウィンガートを罵っており、僕が助ける構図が出来上がった。
しかも隣の席だ。
社交界の時も、最初に踊る相手はスティア公爵で、ヒカリ・ウィンガートはまだ踊っていない。
「ヒカリちゃんが最初じゃないんだね? 本当に好きなら最初に踊らない?」
「私が譲ったの。一緒に踊ってくれるなら最後でも良いって」
少し揺りを入れるつもりだったけど、ムッとしたように返された。
これはちょっと、本気でレオン様好きなのかな?
そんなを思ったが翌日。
「俺さ、友達全員下のクラスに行っちゃったから知り合いいなくてどうしようかと思ったけど、ヒカリちゃんがいて良かったわぁ!」
「そ、そうなんだね……?」
クラスが同じどころか、席まで隣。
レオン様の婚約者候補だし、ある程度頭良いとは思ってた。
俺も勉強は頑張ってきたし、最上位クラスに入ればクラスが同じかもーー
とは思ってたけど、これはあまりに運が良すぎる。天啓かと思うほどに。
ただ……公爵二人が邪魔だ。
幸い二人とも『公平主義』だから身分で物を言わせる人じゃない。
でも、まるでヒカリちゃんを守るようにいつもべったり張り付いている。
「大丈夫、まだ二日目だ」
学園生活は始まったばかり。ヒカリちゃんが一人になるタイミングだってあるはずだ。
ルージーとの婚約を破棄するためにも、あの子の存在は僕にとって必須。
何としてでも、手に入れないと……。
『リョウ・ミドロ』は気付いていなかった。
この手の女性を攻略するには、まず周囲の人、公爵二人とのコミュニケーションを重視しないといけない事実に。




