114話 妹
「ふぅ……」
ヒカリさんが友人たちを見つけて走り出し、ようやく一人になれた。
俺『タロウ』は安堵のため息と同時に、セイナに対しての嫌悪感を募らせていた。
「あの女……」
事あるごとに『あの伯爵が』『ヒカリとかいうひっつき虫が』と妄想を膨らませていたが、監禁までするとは。
冗談抜きで俺のいる部屋引き当てなかったらどうするつもりだったんだ。
ようやく賑やかな四人の声がなくなり、徐に階段に座る。
すると、タイミングを測ったように不愉快な女の声が聞こえて来た。
「お兄様、何してるんですの」
「セイナ。何故あんな真似をした」
「質問してるのは私ですわ?」
「……」
セイナ・スカラ侯爵令嬢。この世界の俺の妹で、正直一番嫌いな相手だ。
こんなのと血が繋がってるなんて冗談じゃない。
「監禁なんて、生徒会だけで片付く事じゃない」
「あら? 誰がやったかの証拠なんて残ってないでしょ? いくらヒカリ・ウィンガートが『犯人はセイナ』って言っても、証言できる人なんていないもの?」
傲慢な態度で、自分の全てが正義で、何もかもが気に食わない。
「それに、お兄様がヒカリ・ウィンガートを外に出しちゃったから事件なんて起こってないわ?」
「そうだな。何度妹の尻拭いをしたんだろうな俺は」
「あら『妹の邪魔』の間違いではなくて?」
「……」
こいつ、事の重大性を理解していない。
監禁なんて前世じゃ警察沙汰の事件なのに、それをなんとも思わないのか。
「はぁ……」
久しぶりに前世なんて思い出した。
スマホもテレビも何もない世界で、妹を可愛がることだけが楽しかったのに『貴族至上主義』と俺の甘やかしでここまで拗れてしまった。
「もう良い。もうお前の尻拭いをするつもりはない」
「『邪魔するつもりがない』なら私も好都合ですわ? いつまでもうざったいお兄様でいては私も嫌ですもの」
重たい腰を持ち上げて立ち上がり、そのまま階段を下る。
「ルージー、いくわよ」
「わかりました。ではまた会いましょうね?」
ルージー嬢は律儀に俺に一礼をする。
「フィル・スカラお兄様?」
*
「気に食わない」
さっきの地下室まで戻り、同じようにソファに寝転がる。
妹も、ルージーもだけど、この環境そのものが気に食わない。
不便なのは百歩譲って良いとして、平民を蔑ろにする『貴族至上主義』ってのが気に食わない。
自分の考えと家族の考えに乖離があり過ぎて居場所がないように感じる。
妹も自分のせいであんな性格になってしまい、気付けば家族から逃げるように、暗くて静かな場所を好むようになっていた。
それでも嫌いな妹の尻拭いをしてしまうのは、まだ何処かに愛着や愛情といったものがあるからなのか……。
「はぁ……」
やめよう。自問自答しても答えは出ない。
ソファの居心地の良さに瞼が重くなり、俺は眠りに落ちる。
どれくらい経っただろう。
扉の外からたったっと軽快な足音が聞こえて来てノック音と共に扉が開く。
「あ、いた!」
やって来たのはさっき閉じ込められた『ヒカリ・ウィンガート伯爵令嬢』。
「どうした?」
重たい瞼をこじ開け、ピンク髪の少女を見つめる。
「ちゃんとお礼言えてなかったから! 助けてくれてありがとうタロウさん!」
「別に良いのにそんなこと」
ドレス姿じゃなくて制服姿だから、きっと社交界は終わったのだろう。
そのまま直帰すれば良いものを、律儀にお礼を言いにくるなんて。
妹も見習ってほしい。
「ヒカリちゃん?」
「ごめん直ぐ戻るね?」
遠くからもう一人女性の声が聞こえて来た。友人と帰る直前だったのか。
「それじゃあまたね!」
「またな。セイナの乗る馬車に轢かれないようにな」
バカみたいなことを行って見送ろうとする。
すると、何か思いついたようにニコリと笑う。
「『僕は死にましぇーん!』なんてね!」
「え……?」
そのままたったっと地下室を去っていった。
あまりの衝撃に身体が固まってしまった。
なんで知っている? あの人も転生者?
そんな気持ちもあるが、わざわざ感謝を言いに来て、前世のネタを持ち出して。
薄暗い空間の中で、やけに輝いて見えたその子の笑顔はーー
「……可愛いな」
不覚にも、心に焼き付いてしまった。




