113話 嫌な予感
「ねぇユアン様、ヒカリちゃん遅くない?」
「そうだな……」
私、スティアは若干、いや、かなり嫌な予感が暴れていた。
「この社交界って、新入生と二年生と生徒会以外入れないのよね?」
「あぁ。どれだけ広くても流石に全員入るスペースはないしな」
「……」
だからアリアさんが社交界の外からヒカリちゃんを呼ぶのは不思議なことじゃない。
それを差し引いても遅い。
だってもうレオンとシャイナのダンスが終わっちゃったもん。
「あれ、ヒカリちゃんは?」
「さっきアリアさんが呼んでるって言われて出て行ったんだけど……」
私は不安を隠せない声でシャイナに言葉を返す。
「あれ、アリア様って帰られたんじゃ?」
「え?」
「そうなのか……!?」
レオンの呟きに背筋が凍る。
「じゃあさっきの……」
ユアン様も顔が強張り、焦りの表情が表に出てくる。
「シャイナ、私探しに行ってくる!」
「待ってスーちゃん、私もいく!」
「僕も行かせてもらう」
もしかして侯爵に捕まったかもしれない。そんな思考が全員に過ぎる。
「俺も行きたいところだけど、会場でトラブルの可能性もあるから出られないんだ」
「大丈夫ですわユアン様! 直ぐにヒカリちゃん見つけて直ぐ戻って来ますわ!」
一言ユアン様に残して、三人で社交界を後にする。
*
「ヒカリちゃん!」
「聞こえる!?」
「ヒカリィィィ!」
三人で大声を出しながら校内を走り回る。
正直三手に別れる方法もあったけど、見つかった後どう伝達すれば良いのかわからなかった。
どこかに集合という手もあるが、学園に疎い私とシャイナがそのまま迷子になる可能性もある。
効率は良くないけど、一緒に探すことにした。
けど……。
「いない……どこだ!」
五階、四階と声を上げて探しているけど返事がない。
「はぁ……はぁ……」
幾ら軽いといえど、ドレスで走るのはしんどい。
不意にカツカツと主張の強い足音がこちらに迫ってくる。
「あら、レオン様ではありませんか!」
媚びたようなうざったい声が聞こえたと思ったら、案の定うざったい奴が軽快な足取りで歩いて来た。
「セイナ嬢……。それにルージー嬢」
セイナ・スカラ侯爵令嬢。貴族至上主義の筆頭で、明確に私たちの敵。
そして最も公爵に近い侯爵だ。
そしてセイナのひっつき虫のルージー・セッカ侯爵令嬢。
純粋に媚を売るのが上手な世渡り上手の侯爵。
「あら、それから公爵様もいらしたんですね?」
「セイナ? 学園では身分なんて肩書よ?」
「いいえ? どんな場所でも敬意を払う相手には敬称をつけるべきよ?」
「敬意ね……」
そんなもの払ってないくせに。
「ねぇレオン様、どうしてこちらに?」
「探し人がいてね」
「まぁ! まさか私を?」
「残念ながら違うんだ。ヒカリ・ウィンガート伯爵を見てないか?」
「はぁ……」
露骨に嫌そうなため息を一つつく。
「すみませんが見ておりませんわ? 私も見かけたら知らせますわ?」
代わりにルージーが答え、まるで適当にそう返す。
「そうか、ありがとう。急いでいるからこの辺で」
「あ! 待っーー」
セイナの声に全く反応せずに三階へと向かう。
かなりむかつくけど、今はそれどころじゃじゃない。
「もしかして、地下か?」
「地下?」
「うん」
レオンは足を止めて呼吸を整えて話し出す。
「資材庫っていうべきだろうか。新書や器具を保管する地下室があるんだが、それが幾つもあって……」
「幾つも……」
一つじゃないのか……。探すのが大変だけど、そんなことを言ってる場合でもない。
「先に地下を探しに行きましょう! いなかったら一階から上がっていけば良いことですわ!」
「あぁ」
「あれ、もしかして!」
方針が決まったところでシャイナが下の覗き見する。
「あ、シャイナちゃん!」
「ヒカリちゃん!?」
すると、一個下の二階にヒカリちゃんの姿を発見。
「直ぐそっちいくね?」
カラッとした活気のある声は間違いなくヒカリちゃんで、たったっと階段を駆け上がって来た。
やばい、安堵で少し泣きそうだ。
「ごめん、心配かけちゃった」
「本当よ! 大丈夫?」
「うん、タロウって人が助けてくれたから!」
「「タロウ?」」
「うん! ってあれ、いない……」
ヒカリちゃんはキョロキョロと探しているが、人っこ一人見つからない。
「なんにせよ無事でよかった。何があったか教えてくれる?」
「うんわかった。でも、取り敢えず社交界に戻りたいな?」
「あはは、そうだね? まだヒカリとダンスもしてないし?」
取り敢えず、何がなんだかわからないまま解決した。
一安心ではあるけど、ヒカリちゃんは事件を引き寄せ過ぎて目を離しちゃダメそうだ。




