112話 タロウ
「どうやって出よう……」
小さいけど一応灯りはある。
「絶対鍵とかないもんな……」
雰囲気だけ見れば禁書庫みたいだけど、全部新入生に配る教材だ。
「こんなところに放っても明日には……えぇぇ!?」
適当に徘徊していると、何故か眠っている人がいた。
「誰だ……五月蝿いなぁ……」
「えぇ……人……人ぉ!」
思い切り尻餅ついて声を上げる。なんでこんなところに?
ゆっくり目を開いてこちらを見つめる。
「……本当に誰だ?」
「こっちの台詞!? あなた誰!? なんでこんなところに!?」
あまりの事態になにも気持ちが追いつかない。
いやセイナよりビックリだよ! セイナが前座になっちゃったよ!
暗くてよく見えないが、青っぽい髪をしているけど……。
「んんっ!」
マイペースに大きく伸びをして眠気を飛ばしている。
「えっと、そろそろ誰か教えて欲しい……」
「あぁすまん」
目を擦って立ち上がり、綺麗な礼を一つ。
「俺は……そうだな……『タロウ』とでも呼んでくれ」
「えぇ……偽名……」
『呼んでくれ』って言った時点で偽名確定じゃん。そしてなんで太郎なの?
「んで、君は……噂の『ヒカリ・ウィンガート』伯爵令嬢か」
「私のこと知ってるんですね?」
「まぁね。妹がいるんだけど、君のことを一方的によく知っていてね?」
「うわぁ……」
妹さんはストーカーか何かでしょうか。
「それで、タロウさんはなんでこんなところに?」
「ここなら基本誰も来ないから居座ってんだ」
「あぁ……なるほど」
確かに空気が悪いわけでもなく、程よく灯りもあり、心地よさそうな場所ではある。
僕からしたら閉じ込められた最悪の場所だけど。
「んで、ヒカリさんはどうしてここに?」
「えっとーー」
取り敢えず一通りの事情をタロウに説明した。
「あのやろう……」
セイナに対してあのやろうって言ってる。
「念の為聞くけど、目撃者は?」
「いません。社交界を出てから貴方としか会ってませんし」
「なら訴えても無駄か。白ばくれてお終いだ」
「そうですか……」
予想はしてたし悔しいけど、セイナたちにお咎めなしだ。
多分セイナとルージーもそれをわかってて僕を連れ出した。
「マジでこの世界不便だ。防犯カメラとか何にもないし」
「…………え!?」
「すまん独り言だ、忘れてくれ」
防犯カメラって言ったこの人。この世界不便って……。
「とにかくここ出るぞ」
「……」
「ヒカリさん?」
「あ、そ、そうですね!」
凄く気になるけど、今は一旦社交界に戻って皆んなと合流するのが先だ。
「でも、鍵かけられて」
「大丈夫。鍵ならある」
ポケットから鍵を取り出し、鍵穴に刺して『ガチャリ』と音が響き、扉が開く。
「あなた何者?」
「ただの生徒だよ。ずっとここに居座ってるから先生が諦めて鍵を渡してくれたんだ」
「……不良?」
「な訳あるか! こう見えてアリアさんの次に頭良いんだ!」
「つまり?」
「学年二位」
「アリアちゃん凄ッ! 学年一位なんだ!」
「いや俺を褒めろよ!」
「はいはい凄い凄い」
「この女可愛いの顔だけか?」
「失礼な! 性格も可愛いわ!」
「自分で自分を可愛いなんて言わんよ普通!」
扉が開いた安心感からか、思わず会話が弾んでしまった。
「送って行こうか?」
「うーん……」
少し頭に手を当てて考える。
もしもまたセイナとルージーに遭遇したら最悪だ。
「お願いしようかな?」
「そんじゃ、会場までエスコートしますね、お姫様?」
「口説いてる?」
「送ってやんねぇぞ?」
「ふふっ! 冗談よ!」
タロウの手を取り、軽い足取りで地下から登る。
「ありがとう?」
「どういたしまして?」




