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109話 会場


「このドレス、着るの意外と簡単ね?」


 スーちゃんは一人でパッパと着替え出す。


 コルセットがどうのこうのって感じのドレスじゃなさそうだからキツくも苦しくもないし、背中側のチャックを閉めるだけ。


 スーちゃんのお母様凄いな……。


 そんなこんなで僕も着替えようとする。


「……」


 しかし、ちょっとイタズラしたくなってしまい、さっき二人が赤面した方に急いで着替える。


「ねぇシャイナちゃん」

「どうしたのヒカーー」


 まだ着替えていないシャイナちゃんに声をかけ、最大限の笑みを作る。


「ご主人様、ヒカリ可愛い?」


 適当に前世から引っ張り出した雑な設定でシャイナちゃんを誘惑してみる。


「え!? え!?」


 そしたら何故かソファに押し倒され、顔を真っ赤にして物凄い眉間に皺を寄せている。


「ねぇヒカリちゃん、悪いお友達にはお仕置きしないといけないんだよ?」

「あ……あはは……」


 あら〜、もしかして僕が思ってたよりこの服ってやばい?


「反省しなさぁぁぁぁい」

「ぎゃぁぁあああ! ごめんさない!」


 ソファの上で思い切りくすぐりをされ、必死にのたうち回る。



「ちょっと二人とも早く着替える! 時間はあるけど余裕ないんだよ!」

「だってヒカリちゃんが!」

「ご……ごめんなさい…………」


 スーちゃんが怒っちゃったので、そのままじゃれあいを終えて二人でドレスに着替える。


「このドレス動きやすいね?」

「確かに!」


 ゴワゴワしていないし、純粋に軽い。


「うん! シャイナもヒカリちゃんもよく似合うわ!」

「スーちゃんも凄く似合ってるよ!」

「うん! 赤のイメージだったけど、黒も凄く似合う!」

「ありがとう二人とも! さ、行きましょう!」


 デザインは少し違えど、三人揃って黒いドレスを見に纏い、外で待つレオンと合流。


「あれ、ユアン様も残ってたのね?」

「まぁな。アリアに『レオン様一人じゃ目が回らないからヒカリちゃんについてて!』って言われてな」

「アリアちゃん……!」


 もうアリアちゃん大好き!


「三人ともよく似合ってるよ!」

「本当に?」

「本当さ。時間があれば一人一人褒めたかったけど……」


 レオンはぶら下がっている時計を見つめる。


「あと十五分だ。なんならもう前倒しで始まってるかもしれないね。あくまでダンス開始が十五分後だから」

「ダンスかぁ……」


 一応淑女教育の中にダンスレッスンがあったが、あんまり上手に出来なかったんだよな……。


「とりあえず行こう。今日の主役がこんなところでのんびりしててもあれだしな?」


 ユアン様に促されて、五人で雑談しながら会場へ向かう。


 因みに会場は、社交室という場所が最上階の六階を独占しているらしい。





 エレベーターやエスカレーターといったものがないこの世界。


 全員でゆっくり階段を登り、ようやく最上階の六階に到着。


「さて、入ろうか」


 重苦しい扉をゆっくり開き、徐々に光が差し込む。


「これが……社交界……!」


 天井から幾つものライトが照らし、綺麗に着飾った紳士淑女がグラスを片手にお喋り。


 模範的な光景なのに、初めて生で見ると魅入ってしまう。


 レオンとユアン様についていきながらも、何度も辺りを見回す。


 そしてあいも変わらずすげぇ見られる。


「お三方、ご入学おめでとうございます」


 お盆を持った人、恐らく生徒だろうか。その人からジュースの入ったグラスを受け取り、そのまま満足そうに去っていった。


「新入生の社交界デビューの用意は毎年二年生が担当するんだ」

「じゃあ今日レオンが壇上で挨拶したのって」

「去年の主席が僕だったからさ」

「「おぉ〜!」」


 三人揃って声を漏らす。


「皆んな気合い入れて準備してたから、僕らの方が緊張してるんだよね?」


 レオンは照れくさそうに頬をかく。


「因みに、その間に先生たちは必死に採点してるから、何かあった時の対処は生徒会に一任されている。だから、俺らの胃を守ってくれ!」

「ユアン様……」


 この第二王子自衛しか考えてないのかよ!


「それで、誰が最初にレオンと踊るんだ?」

「「あ……」」


 誰も何も考えておらず、再び三人揃って声が漏れる。


「私はいつでもいいかな? 最初でも最後でも、一緒に踊ってくれるなら満足よ?」


 変な空気が流れる前に自分から離脱。わざわざ最初に拘る必要はない。


 まだ婚約者『候補』だし、レオンも『あなたとは結婚する気ありません』の意思を持ってないことくらい知ってる。


「なら最初は私が貰おうかしら! 前座が私で、シャイナがメインディッシュで、デザートがヒカリちゃんね!」

「スーちゃん、触れずらいよ……」


 自虐がエグい。スーちゃん本当にレオンのこと好きなんだよな?


「贔屓なんてしないよ。全員大切な時間だ」

「あらありがとう! ダンスで応えて頂戴!」


 レオンはスーちゃんの手を取り、愛しむような視線で見つめる。


 そして、社交界が始まる。

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