106話 実質宣戦布告
「ヒカリ知らなさそうだから教えるけど、候補とはいえ婚約者のいる身で『最初に婚約者以外の人と踊る』事って、婚約破棄に近いんだ」
「……嘘」
僕は思わず目を見開き、手が震え出す。
「王族は『婚約者候補』の形を取ってるから特別扱いなんだけど、基本的には『私は婚約者の貴方を好いていません』って受け取られるね」
「……あの侯爵の人って」
「余程箱入りじゃなければ、知ってたと思うよ。純粋にヒカリを奪いに来てたと思う」
「怖いなぁ……」
この数時間で、自分がどれだけ世界を知らないか身に染みて理解出来た。
この世界の人から見たヒカリちゃんって、頭は良いけど賢くないんだ。
スーちゃんとシャイナちゃんは『危機感持って』って何度も言ってた理由がよくわかる。
「ねぇヒカリ」
「何……?」
レオンは座っている僕の前に座り直し、見つめ合う姿勢になる。
「……二人だけの内緒ね?」
「っ!」
僕の顎を指で添え、そのまま唇が触れ合う。
そういえば、初めて魔法の実践した日もこうやってキスしたっけ……。
でもなんで今キスしたんだろう。
少しして唇が離れ、優しい笑みを向けるレオン。
「少しは元気になった?」
「…………うん」
元気どころか、最初のキスの記憶まで蘇ってきて、さっきまでのこと全部流れてしまったよ……。
「もう少し頑張る」
「無理はしないでね。スティアとシャイナと合流するまで一緒にいよう」
「ありがとう?」
不思議なことに一気に気持ちが戻り、自然と折れた膝は軽やかにピンと伸びてくれた。
少し歩くと同学年がたくさんいる周辺まで戻ってきて、色んな人から『レオン様がいるわ!』だったり『あの人がヒカリ・ウィンガートか!』だったりで、歩いているだけなのに、恐ろしいほど目立っていた。
そんな現状が功を奏したのか、直ぐにスーちゃんとシャイナちゃんが僕らを発見。
「どこ行ってたのヒカリちゃん!」
「抜け駆けでもしてたのぉ?」
「違うよ! 色々あって、ちょっと迷っちゃって。後で説明するね?」
心配するシャイナちゃんと、抜け駆けとか言っておちょくるスーちゃん。
一時間前まで一緒にいたはずなのに、凄い安心する。
「もう直ぐお昼よね? レオンは一緒に来るかしら?」
「そっか、もうそんな時間か。じゃあ一緒に行こうかな?」
「よし!」
気付けば四人で食事を摂ることになり、レオンの案内も元、食堂へ到着した。
*
「何この『しょっけん』って!」
スーちゃんは物珍しそうに札を見つめる。
「食べ物を買うための札だよ。これを渡せばここの料理人がその料理を作ってくれるんだ!」
「なるほどね? 決まった食べ物しかないのはつまらないわね?」
「一応日替わりで変えてくれるんだけど、同じメニューのローテーションだね」
「そうなのね?」
なんと言うか、スーちゃんらしい感想だ。
そんなこんなで全員で同じメニューを注文して席を取る。
そして、何があったのか二人にもちゃんと話した。
「やってくれたわね? 私のヒカリちゃんに手を出すなんて!」
「スーちゃん、皆んなのヒカリちゃんだよ?」
「誰のものでもないよ!?」
スーちゃんはともかく、シャイナちゃんはボケか本気かわからない。
「実質宣戦布告じゃない! レオン、コテンパンにしなさい!」
「何もしてない相手を追い詰めるのは少し気が引けるね?」
「ヒカリちゃんを奪おうとしたのよ! 許せないわ!」
「別にやっちゃいけないことではないからね?」
「ぐぬぬ……!」
学園前にも何度か言われてきた。あくまで婚約者『候補』だから、充分狙われる可能性があると。
それに、自分で言うのも変な話だが、今の僕はかなりのプレミアだ。
この先もこんなことが何度も……。
「今日の社交界、不安だなぁ……」
華々しい社交界は、不安の種にしかならなかった。




