102話 『ヒカリ』の存在
最王学園。
ポーンロンド王国で最も学びを得られる学園で、単純な賢さではなく、向上心の高い者やひたむきな努力をするもののための学園。
と銘打って作られた学園。
「今となっては貴族の争いの場ね?」
「切ないなぁ……」
まぁ政治の縮図と考えれば、これ以上にうってつけの場所はない。
平等や公平が聞いて呆れそうな現状という点には目を瞑ることになるけど。
そんなこんなで校門前で一緒に馬車を降り、学園に足を踏み入れる。
当然だが、沢山の人が城もとい校舎に向かっており、思わず前世の高校時代が脳裏によぎる。
しかし、それにしてはかなり見られている気がするのだが……。
「ヒカリちゃん見られてるわね?」
「や……やっぱり?」
何故? そんな悪目立ちしてないはずだけど。
「一つは、まぁ純粋に新入生の目新しさに惹かれてるのね?」
「なるほど」
確かに今日の社交界の主役は新入生だ。婚約者がいない、もしくはお目にかかる新入生は声をかけたい気持ちがあるだろう。
「もう一つの理由は、ヒカリちゃんだからよ?」
「私だから?」
まぁ伯爵の身で婚約者候補に残ったのは初めてらしいし、物珍しさで気になる人もいるかもしれない。
「ヒカリちゃんって、幻の人なんだよ?」
「幻の……あぁ……」
そういえばどこかで誰かから聞いたような……。
「でもなんで私が『ヒカリ・ウィンガート』ってわかるの?」
「わかるも何もバッグにもケースにも名前縫ってるじゃない!」
「え?」
思わず持っているバッグを見回すと『ヒカリ』とワッペンが貼ってある。
そしてよく見ればアリアちゃんにも、登校している全員に名前のワッペンが縫ってある。
そしてスーちゃんのくれたケースにも『ヒカリ』と書いてある。
スーちゃんのお母様が、自分のとシャイナちゃんのどちらのドレスかわかりやすいようにしてくれたんだ。
「本当だ」
「だからよ? 幻のヒカリちゃんがどんな人か気になるの?」
お茶会を開かず、伯爵でレオンの婚約者候補に残り、公爵と広い交友を持つ。
字面だけ見れば恐ろしい子だな。
「だから特に今日の社交界は気をつけてね? 絶対ヒカリちゃんは狙われるから」
「あはは……伯爵の身分って大変だぁ」
「そうじゃない! ヒカリちゃん可愛いから狙われるの!」
「えぇ……」
いつも可愛いって言い合ってるけど、お世辞じゃないのかな?
少なくとも僕は本気で可愛いって言ってるけど、アリアちゃんも本気?
そんな風に視線を浴びながらアリアちゃんと歩いていると、後ろから「おーい!」と元気な声が聞こえてくる。
「スーちゃん、おはよう!」
「スティアさん、おはようございます」
「おはようヒカリちゃん! アリアさんもスーちゃんって呼んで良いのよ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
声の主はスーちゃんこと『スティア・オーラライト公爵令嬢』だ。
ポーンロンド王国で最古の公爵で、王家の次に巨大な権力を持っている。
そんな傲慢を進むスーちゃんは、好きな人にはとてもフレンドリーだ。
「スーちゃん、シャイナちゃんは一緒じゃないの?」
「一緒じゃないわ? 初日はお兄様と行きたいって」
「あらぁ〜!」
素敵なきょうだいじゃないですか!
「だから二人を見つけた時はラッキーだったわ? このまま一人で歩いてても公爵目当てで話しかけてくる有象無象に呑まれちゃうもの!」
「おぉ辛辣……」
よく十二歳が有象無象なんて言葉知ってるなぁ……。
そしてしばらく三人で雑談し、城のような校舎に足を踏み入れる。
前世の大学を、より豪華に、より高価に、より綺麗にしたような内装。
「じゃあ在校生の私は別で準備があるからまた後でね?」
「うん!アリアちゃんありがとう!」
「スティアちゃんもまた後ーー」
スーちゃんにも挨拶しようとしたところで、何故かスーちゃんは頬をプクーっと膨らませる。
それをアリアはクスリと笑い、咳払いを一つ。
「スーちゃんもまた後でね?」
「はい!」
「ふふっ!」
どうやら『スーちゃん』と呼んで欲しかったらしい。
そしてアリアちゃんがちゃんと呼ぶといつものスーちゃんに戻った。
ちょっと可愛い。
「私たちは『たいいくかん』って場所に移動するのね?」
「そこで入学式をするらしいね? シャイナちゃんも待ってるかもしれないし、行きましょう!」
「そうね!」




