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星の子 〜護るとは、一緒にいたいと願うこと〜  作者: 猫様のしもべ
第3章 “星の子”が灯すもの
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第32話 人を治す魔族

朝陽の眩しさに、静かに目を開けた。

最初に映ったのは、瞳の色と同じ青色の宝石。

差し込む陽光に照らされ、小さく煌めいている。


(……夢じゃなかった)


“ルフィーナ副団長”のために用意された誕生日会。


破壊された厨房の壁。

大きなケーキと、小さなケーキ。

色彩豊かな星の飾り。


そして、セルヴィーロからのプレゼント。

銀色の鎖と、施された星の意匠が可愛い。


(ティターニアは、起きてるかな)


ルフィーナは、窓とは反対側に寝返りを打った。


そこには、淡いピンク色の星光を撒く羽。

限りなく白に近い青色の毛並みは、宝石よりもずっと、柔らかくて優しい色合いをしていた。

小さな手は、忙しそうに動いていた。


じっと見つめてみると、ブレスレットと耳飾りをとても丁寧に磨いていた。

ルフィーナが起きたことに気づかないほど、真剣に。


あまりにも可愛くて、微笑んだ。

そして、少しちょっかいをかけたくなった。


そ〜っと身体を起こし、後ろに立つ。


そして。


「……わっ!」

「ひゃっ!?」


ティターニアが、慌てて振り向いた。


「あ、あるじさま……」

「ふふ、ごめんね。すごく真剣だったら、つい」

「つい、じゃないですよ。もう」


僅かに頬を膨らませて、ぷいっと後ろを向く。

それでも、磨くことをやめない姿がまた可愛かった。


ルフィーナが着替えているうちに、ティターニアは磨き終えたらしく、ブレスレットなどを陽光に照らして反射具合を確認していた。

いつも同じことをやっている。


一連の行程が終わったら、飾りをつける。

ルフィーナも着替え終わり、腰に剣を提げた。


階段から降りると、妙に風通しの良さを感じた。


本部には、昨日の名残が残されていた。

星飾りの多くは片付けられていたが、床に散らばった紙吹雪やぎゅうぎゅうに詰められた箱が、昨日の出来事は夢ではなかったと教えてくれる。


そして何よりも。


厨房に空いた、大きな穴が目に留まる。

改めて見てみると、被害の甚大さが伝わってくる。


レンガ造りの壁を貫いたのだろう。

壁に穴が空いてしまっただけじゃなく、上の階まで崩れ落ちかけて、本部前の道路も焦がしている。


むしろこれほどの火力を出せることにびっくりだ。


「……シェウ、よく無事だったなぁ」


炎の技を使うフェルと、相性がいいわけだ。

ここまでの爆発を直に受けては、魔族も無事とはいかないことだろう。


「あ、副団長!!」


噂にすればなんとやら。

頭に布を巻きつけ、木材を担ぎ上げたシェウが来た。


その姿は、さながら建築作業員のよう。

騎士としての鎧を身につけていなければ、とてもじゃないが騎士には見えなかっただろう。


「おはよう、シェウ」

「おはようございます!ってそうじゃなくて!!」

「1人ツッコミ?」


シェウの隣には、いつもツッコミ役のフィニス。

やけに静かだなと思って見てみたら、シェウの守護武器を咥えて大人しくお座りしていた。


剣がなければ技は使えない。

フィニスは監視役に抜擢されてしまったのだろう。


顔から不満が溢れ出していた。


だが、一応ふたりは長年の相棒だ。

そう簡単に仲違いすることはないと知っているからこそセルヴィーロは、フィニスに任せたのだろう。


「副団長、俺が祝いたいと思っていた気持ち、伝わっていますよね!?」

「……うん」

「なら、少しだけでいいんで……!」


ルフィーナは、少し考える。


確かにシェウは、甚大な被害をもたらした。

だが、それは全てルフィーナの誕生日を祝うため。


「まぁ、少しだけなら……」


その瞬間。


「ダメだよ」


優しい、だけど妙に圧の強い声が響いた。


言わずもがな、セルヴィーロの声だった。

穏やかな笑顔でありながら、シェウに威圧する。


「シェウ、分かるよね?」

「は、はいっす……」


シェウが悲壮的な表情で、肩を落とす。


そのとき。

騎士団本部の中庭から、大きな声が響いた。


「我々は!」


ルフィーナは、嫌な予感がして耳を塞ぐ。

けれど、騎士たちの大声はそれを通り抜けた。


「護るためにここにいる!!」


昨日初めて披露された号令。

騎士たちはもう順応し、すでに朝訓練から出撃前まで、広く使われ始めている。

これでは、住民にまで広がるのも時間の問題だろう。


ルフィーナは、少し俯いて顔を隠した。

まだ少し恥ずかしくて、顔が赤らんでしまう。


これから毎朝、これを聞くことになるなんて、戦っているときは全く思っていなかった。

そのとき、訓練場から数人の騎士が駆け寄ってきた。


きらきらとした目で、ルフィーナを見つめる。


「副団長、おはようございます!」

「……おはよう、みんな」

「あの、本家のお手本やってください!」


言わんとしていることはわかる。


でも。


「やだ」


ルフィーナは即答した。

少し力のこもった、返答になってしまった。


シェウが、ばっと振り返った。

ティターニアは、目を丸くしていた。

セルヴィーロまで、少し驚いていた。


「珍しいっすね、副団長」

「主様が、こんなに強く拒否するなんて」

「ルナが即答なんて、俺もあまり見たことないな」


このときだけ、全員の意見が一致していた。


「うぅ……そ、それよりセル。昨日はありがとね」


ルフィーナは、咄嗟に話題を変えた。

これ以上は空気に耐えられる気がしなかった。


嬉しそうに目を細めるセルヴィーロ。

ルフィーナに向けられる笑顔は、普段騎士たちが目にしているものより、ずっと柔らかかった。

何かを言おうと、口を開いたそのとき。


「団長、副団長!」


焦ったような声で、騎士が駆け寄ってきた。


セルヴィーロの表情が変わる。

笑顔のままだったけど、団長としての目つきになった。

報告の騎士から、紙束を受け取る。


それを読むと、眉をひそめた。

セルヴィーロは、騎士たちに告げる。


「みんな、会議室へ」

「はいっす!」


他の騎士たちに合わせて、シェウは一時的にでも修繕作業をサボれると思ったのか、元気に答えた。


会議室には、数人の騎士たちが待っていた。


セルヴィーロは、机に置かれた地図を開く。

北18番地区にある村を指差し、口を開いた。


「ここに、魔族が住み着いているらしい」

「村人たちを脅しているとか?」

「いや、そうじゃない」


シェウの質問に、静かに答えた。


首を傾げるティターニア。

魔族がいるのに、被害がないことは珍しい。


「それどころかーー」


セルヴィーロは、ひとつ息をついた。


「村で、医者をしているそうだ」


誰も、すぐには言葉を返せなかった。


会議室は静まり返った。

魔族が、医者をして人を治療する。

誰も聞いたことがなかった。


人に紛れようとする魔族なら、かなりいる。

けれどルビアス魔族の気配がわかるためにほとんどは紛れ込むこともできず見つかってしまう。

ルフィーナの脳裏に、ひとつの言葉が蘇った。


『いっしょに遊んでたのに!』


たとえ、魔族でも堕落族でも。

必要とする人には、家族になれる。


(私は、記憶がなくてもティターニアの家族で……)


なら、堕落族たちはどうだろう。

人に攻撃さえしないなら、変わらないのではないか。


ルフィーナが俯いていると、セルヴィーロが言う。


「この村は、魔族の襲撃が多いのに治療師が少ない」


あまり珍しい話ではない。

泉が魔族を遠ざけてくれているアスティラ村と違って、普通の村は騎士たちが護らないといけない。

北になると魔族も多いから、治療師も限られる。


「そして、医師となる魔族が現れた」

「どんな魔族なの?」


ルナシアが、無邪気に問いかける。


ティターニアも、少し興味を示していた。

人を治癒する魔族がいるなら、その方法はいったいどんなものなのだろうと。


けれど。


「……その魔族は、自らこう名乗っている」


セルヴィーロが声を落とした。


「“幻夢の堕天”とーー」

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