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天才マサ君はただの雑学王  作者: 御実ダン
~ホテル業心殿・ミッドナイトミステリー編~

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5/14

2日目 不穏なモーニング

 「スマホが圏外?」


 エリのスマホ画面を覗くと、今まで良好だった電波が無くなっていた。


 いつからーーまさか日付が変わった頃には既にそうなっていたのか?


「……俺のスマホも圏外だな」


「マサ、どうしよう……あたしなんか不安になってきちゃった」


「不安な気持ちはわかるが、どのみち朝にならないと部屋からは出られないからなぁ」


「ねえ、スマホまで通信できないのって、ミステリーに関係していると思う?」


 確かに、初日は至って普通のミステリーツアーだった。


 参加者にもイベント主催側にもいろいろ怪しい人物はいたけれど、ここまでするなんて狂気じみている。


「一応、実物は見たことないけど小さなアンテナ装置みたいなもので建物全体を圏外にすることは可能だ。コンサートホールなんかで使われているものだと直径100メートルを圏外にできるらしい」


「すごっ、あるんだ」


「……もう休みな。朝になったら起こすから」


 疲れもあっただろう。「頑張ってね」とニコッと無理に笑顔を作ったその後、エリはすやすやと眠ってしまった。


 俺は数学の問題を解くように淡々と謎解きをするしかない。


 仮に、今回の謎解きが失敗したとしても、無事に帰宅できるならそれでも良いと思い始めていた。


 ――時刻は朝の5時。再び鉄格子が動く音が聞こえると、眠るエリを確認して俺は部屋の扉を開けに向かう。



 ドンドンドン!!



「うおっ!?」


 扉の外からノックが響く。

 エリが起きないように、直ぐに扉を開けた。


「マサ……」


「ガイ! お前起きていたのか」


 そこには焦燥しきったガイがいた。制服姿で、スーツケースも引いている。

 なんだか様子がおかしい。


 廊下に出て周りを見わたすと、異常な光景が目に入ってきた。


「……これは嫌な予感がするな。ガイ、とりあえず部屋に入れ。エリを起こすなよ」


 廊下から見えた他の部屋は、1部屋を除いて未だに鉄格子が扉に重なったままだった。


 時間差で開くようには見えないのが気持ちが悪い。


 ――部屋で俺とガイの分のコーヒーを入れる。

 少し落ち着いて状況を整理することにしよう。


「ガイから話してくれ」


「わかった。まずはマサに謝っておきたいことが……」


 暗号を解いていた机に椅子を並べて座るガイは、どこか震えていた。


「すまん。タツヤは今回のイベントを降りた」


「なにっ?」


「あいつ、『僕には朝までにこの暗号は解けないから』って、0時直前で俺を廊下に追い出したんだ。せめてルールの穴を突きたいって言いながら、一人で部屋に閉じ込もった」


 なるほど、タツヤはガイと一緒にリタイアするのを避けたんだ。これはファインプレーなのかもしれない。


 いや、そうしたタツヤの行動も今は怪しく感じてしまう。それだけ今が異常事態なんだ。


「よし、ちょっと202号室に内線掛けてみよう」


 ――繋がらない。


 謎解きをしていた0時から5時には液晶に暗号が表示されたが、今は普通に通信不可状態のようだ。


 5時を超えても通信できないということは、失格者の烙印を押されたってことか。


「タツヤ電話でないのか?」


「いや、違う。通信が途切れてる。スマホも相変わらず圏外のままだ」


「……なんかアレだな、ヤバイ感じがするな。つか俺ここにいたらマサまでルール違反とかにならないよな?」


 その可能性は低いだろう。


 部屋に閉じ込めた構図は目に見えて失格ということなんだろうけど、問題は外部への連絡が不可能になっている点だ。


「そういえば、ガイは朝までどこにいたんだ?」


「いやそれがよ、なんもすることないから外に出てコンビニでも探そうと1階行ったらさ、玄関のシャッターが降りてて出られなかったんだわ。だから――」


「出られない!?」


 監禁。ホテル全体が巨大な密室になっている可能性がある。


 ガイの話をまとめると、結局5時まで、特設会場に置いてあった飲み物を飲みながらスマホゲームをやっていたそうだ。


「話はわかった。7時になったらエリを起こして3人で下に降りてみよう。他の参加者やスタッフの動きが気になる」


「あぁ。ところでマサはあのクソ難しい暗号、解けた?」


「……この暗号を作ったやつは、知識が古いってことまで分かったぞ」



 ――《ホテル業心殿 1階 特設会場》


 午前7時30分。俺たち3人は特設会場へ向かった。


 エリを起こした後、着替えの際は「男は出ていけ」と廊下に立たされる経験をした。


 人生で一度も廊下に立たされたことがない俺としては、新しい心境だったな。二度とごめんだ。


「うん、そこそこ人いるけど昨日みたいな数じゃないね」


「エリちゃんが寝てる時にさ、マサと各フロアを見て回ったんだけど、やっぱり牢屋みたいになってる部屋ばかりだったぜ」


「メモは取った。全部で42部屋あるうち、鉄格子が掛けられていないのが15部屋。参加客が宿泊している部屋は1階から4階の一部までで、俺たちを入れて7組しか残っていなかった」


 まさかスタッフの部屋にまで鉄格子があるとは思わなかった。確実にトラブルが起きている。


 今は残された人たちに声を掛けて情報交換をする必要がありそうだ。


「まって。あたしが寝てる時にガイも部屋に入ったってこと?」


 あ、それも問題?


「いやっ、その、だってよー俺ひとりじゃ心細いし……別にエリちゃんの寝顔は見てねーよ!?」


「ふーん? まあいいよ、今度ガイのバイト先のお店でなんかおごってもらうから」


「えぇ!?」


 よし、どうでもいい。

 俺はまず、近くのテーブルにいた若いカップルに声を掛けた。


「おはようございます。305号室の陽善(ようぜん)といいます。少し聴きたいことがあるのですがよろしいですか?」


「おはよう諸君! ハハッ、キミはとっても言葉遣いが丁寧だね!」


「若いうちからそのスタイル、とってもビューティーよ!」


 なるほど、濃いカップルだ。

 男は右目だけに金色の蝶の仮面を、女は両目を覆うように銀色の蝶の仮面をつけている。


 名前は知らんけど見た目は(たい)を表していそうだ。


「あの……失礼ですがおふたりは昨日の謎解き、どこまで解けましたか?」


「フッ、直球ストレートだね? よかろう、正直に答えてあげよう。スズ!」


 スズと呼ばれた女はその場で立ち上がると、腕を振り下ろして丁寧な礼をする。なんで?


「名探偵シオンの助手、スズがお答えしますわ。余裕を持って全て解き終わり、今は次の問題をモーニングを摂りながら待っていますの」


 聞いたことないけど、男の方は探偵なのか。


 いちいち決めるポージングが割と不快だが、答えをしっているなら更に聴き出したい。


 俺は探偵シオンにそっと耳打ちする。


「――うん、うん。……ほう! キミも中々やるようだね。私も同じ考えだよ。必要とあらば今後は手を組むのも悪くない。どうだい?」


「いえ、俺の考えだと明日またどんな結果になるのかわからないので、すいませんが今は遠慮しておきます」


「……グッド!」


 金鬼がこの世から消えて5年。前支配人が1年。

 この両名が事故死したとは考えにくく、殺害されたと仮定した場合、この会場内に金鬼の財宝を狙う人物が紛れ込んでいる可能性が否定できない。


 誰が犯人か分からない以上、今は探偵シオンと組むべきじゃない。


「ウフフ、いつでも声を掛けてちょうだいね。若い子は大歓迎よ」


「未来を担う探偵とは、案外彼のような人物かもしれないな、ハハハ!」


 クセが強過ぎて逆に読みづらい相手だった。

 彼らにお礼を言い、俺は次の情報収集にあたろうと辺りを見回す。


「ねえ、マサもしかしてあたし寝てる間に謎が解けたの? あの蝶仮面のふたりも凄いけど……」


「結構時間は掛かったけどな。前支配人のメッセージの謎が先に解けていれば、後はそれほど複雑じゃない」


 一旦、俺たちは特設会場の真ん中辺りにある10番の三角プレートが置かれたテーブルに陣取った。


 ガイは気を遣っているのか、手のひらで口元を隠しながら俺に小声で話した。


「つか、なんであいつらこの状況で平然としていられるんだよ。そっちのがおかしいっつーの」


「あぁ、それについては財宝を発見した時の『権利』が関係しているからだ。仮に、参加客50人全員で財宝を発見したらどうなると思う?」


「……あいつら人数減って喜んでんのかよ」


「まぁ、言わんとすることは分かるよ」


 俺はガイの肩にポンと手を置いた。


 ただ、俺と探偵シオンの考え、推理は一致していた。


 初日は無線LANも有り、電波も良好で外部への通信が可能な状態だったが、翌日にはそれら全てを封じられた。


「あくまでも俺の推理だが、俺たち参加客のうちの誰かが財宝を見つけるまで解放されないか、口封じのために()()()()()()()。恐らくはこの二択だと思う」


「ッ!? ……マサ、どういうこと?」


 俺は驚くエリの肩にも手をポンと乗せる。


「金鬼と前支配人は死亡している。これが殺人であれば、それを実行した犯人は生きていることになる。動機は『財宝の行方を知った』以外に考えられない。そしてこのホテル全体を密室化し、参加客やスタッフごと監禁した事実から推測できるのは、『犯人はこのホテルに財宝があると確信している』ということだ」


 エリとガイは口が開いたまま、俺を挟んで互いに顔を見合わせている。


「お、おい。それってどのみち俺ら全員危ないんじゃねーの? つーかホテル側に犯人がいるってことだろ? 俺たちを集めたのはそいつらなんだし」


「いや、犯人が1人ではなく主催者側全員なら話はわかりやすいが、その多くは鉄格子の奥だ。全員を巻き込んで、決死の覚悟で実行している人物が誰かわかるまでは、油断しない方がいい」


 俺は深夜解いた謎の答えを知っている。


「――推理の続きだが、その犯人は財宝の正確な在りかまでは探しきれなかった。だからこのミッドナイトミステリーを決行し、最も財宝に近しい参加客を集め、謎解きをさせている。そして次は……詳しい話をあの席の彼らに聴けばわかるはずだ」


 6番の三角プレートを置いた席に、サングラスを掛けた男がふたり、無言で佇んでいた。




予定通りに投稿できず申し訳ありません!

待ってくださった読者の方にお詫び申し上げます。


作者の励みになりますので

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