報告書09枚目 枠の外の戦争
フェインノートの艦長室で何故かマリスに膝枕をされつつ、待っている間の時間をつぶしていた。マリスはなんだか上機嫌そうに私を観察しつつ髪の手入れをしている。多分傍にアトリが居れば怪獣大戦争になるし、ネコヤが居れば苦い珈琲入れてきますねと苦笑するのだろう。
「アース様、一応アルゲインにつけている諜報員から現在会議中と報告がきております」
「だろうなぁ・・・・・」
マリスの頬を撫でながらぽつりと呟く、いくらアルゲインが優秀であろうと三人の合議制なのだからそうそう決着はつくはずはない、その為の見せしめの防衛艦隊壊滅であったのだから。
「なぁマリス私の事は好きか?」
「はい」
何と無しの質問をぶつけると屈託のない笑顔で返ってきた。あれから何度も手を出してきて今更だが意味が解らない、どう見ても釣り合いが取れていない美女とうだつの上がらないおっさんなのだ、唯一釣り合っているのは階級程度である。
「・・・うだつ上がらんおっさんなのだが・・・」
「全てを含めて好きです」
「・・・・・・命が欲しいと言ったら?」
「それでお役に立てるのなら」
そう言い放つと躊躇なく短刀を自分の首に充てるので慌てて冗談だと止める。まとまらない考えと共に頭を上げると、少し拗ねたように無理やり膝枕に戻された。
「アースライト様、通信が入っておりますが」
コンソールが開かれ下士官が敬礼をしながら報告をする、何故か私が横になっているのを少し訝しげに見ているが仕事優先らしく報告と共に画面が砂嵐になった。ため息をつくと起き上がりコンソールを起動させる。
「えっと、旦那、説得はしたんですがとりあえずフェイスンとメリアが直接会って話をしたいと・・・・・」
「構わんよ、連れてくればいい」
「旦那の旗艦に連れてくればよろしいんで?」
「ああ、会議室はあるし身をもって知れば降伏もしやすかろう」
「へい、ご用意いたしま・・・」
「そうだアルゲイン、フェイスンとメリア、何方が馬鹿だ?」
「フェイスンは軍事馬鹿ですかねぇ、旦那」
「そうか、もういいぞ」
アルゲインが仰せのままにと一礼するとコンソールが再び砂嵐になる。手早くネコヤとアトリを呼びだし旗艦に集合するように命令をする。後忘れないようにマーリンにしばらく艦隊司令を任せて会議に出るという報告をしておく。
「さて、何方にせよ降伏しなければ・・・・・」
「事故はあるものですよね、アース様」
上目遣いで撫でられて目を細め、甘えながら副官のメッシャー達に海賊の偽装を準備させている。ちなみにこの後、数分で疾走してきたアトリに部屋に乱入され何回目かわからない怪獣大決戦とネコヤの苦い珈琲のくだりを見ることになった。
「我が旗艦にようこそ」
「お招きいただき光栄です」
「・・・侵略者が・・・・」
アルゲインに案内されて現れたメリアとフェイスンは真逆の対応をしつつ用意してある椅子に座る、付き人は両名とも連れてきているし見れば護衛であるとも十分解る。アルゲインは降っているのでこちら側の椅子に堂々と座った。
「どの様に聞いたか知らないが我が国は貴国の裏切りに対して行動に出た、これはまずよろしいかな?」
「どれだけ言っても侵略だろうが・・・・・」
「証拠もそろっていますよ、スリースター公国の生き残りが司法取引で証言しています」
「言わせただけだろうが、勝てば何とでも出来る」
メリアは小さな眼鏡を掛けなおすと自分の紫色の髪を撫で無言を貫く、フェイスンはあくまで侵略者に戦う意志であるを繰り返す。段々と意図が見えてくるという物である。アルゲインはその二人にこれ以上戦えば間違いなく滅ぶと何度も説明している。
「メリア殿は言いたいことがあるのでは?」
「・・・・とくにはございません」
見下したような目で拒絶のセリフを言った瞬間、後ろのアトリとマリスが同時に銃に手をかけたので右手で制す。ため息をつきつつアルゲインは退出していいぞというと、助かったと言わんばかりに一礼して退出していく。
「今降れば地位は約束するし無駄な戦闘もない」
「確かに防衛軍はボロボロだが侵略者に屈する弱腰は居ない」
「の割にはアルゲインはさっさと降りましたが?」
扇子を開いて仰ぎながら相手の出方を探る。メリアは面白くなさそうに、フェイスンは憮然とした表情を崩さない。ため息をもう一度つくとお仕事する事を宣言するかのように扇子を音を立てて閉じた。
「わかりました、ではまずフェイスン殿は戻って軍をまとめるとよろしいでしょう。全滅覚悟で戦う相手をこれ以上懐柔するのは気が引けますからな」
「ぐ・・・む」
恐らく強硬姿勢を崩さない事で交渉を有利にしたかったのであろうがもうよかろう、本音で言えば管理者は二人でいいのだからな・・・。
「アト・・いや、マリス少佐お送りして」
「畏まりました、此方に」
恐らくは正確に理解したであろうマリスが案内をする様に見せかけ、静かに軍刀を抜き去ると一刀両断に護衛と共にフェイスンを切り捨てた。
「ひっ」
「アース様やはり持ち込んでおりました」
懐から盗聴器を取り出してショックで血の気の引いたメリアに見せる。困りましたなぁ、会議の内容をどこかに流していたみたいですなぁと目を細めてメリアに向き直す。其方が話したいというので用意した席でこんな裏切りを受けるとはと大げさにネコヤとアトリが騒ぎ出す。
「さて、改めてメリア殿・・・」
「は・・・はぃ」
先ほどとは打って変わって真剣に此方を向く。その顔には先ほどまでの余裕は一欠けらもなく顔面蒼白である。再び扇子を開いてネコヤとアトリに指示すると二人とも面白くなさそうに黙り込む。
「おやおや、折角の美人なお顔が台無しですのぉ」
「お・・・お構いなく」
「化粧直しを用意いたしましょうか?」
「ひっ・・・・・大丈夫です」
もはや自分の護衛では自分の命を守れないのを悟り小さく震え出した。これくらい脅せば自分の立場も解ったであろう。ひたすらカタカタと震えているメリアを笑顔で促す。
「さて、会議に対する裏切り者は消えました、改めて話しましょうか」
「な・・・何をでしょうか・・・」
「あなたが降るかそれとも徹底抗戦かのお話ですよ」
直ぐに命を取られないと解り少しだけ安堵の表情を浮かべる、まぁ、美人と言えば美人であるのだが血の気が引いている分三割減と言ったところか、そのまま椅子の背もたれに体重をかけて言葉を選びながら相手を追い詰める。
「私としましては別に一度更地にしてアルゲインに支配させても良いのですよ、それで裏切りには見せしめになりますからねぇ」
「そ・・それは」
「ただ、出来ればこれ以上無益な戦争で時間を取るのも望んでいません」
「ご・・ごもっともかと」
「最後にしましょうか、生き永らえて花実を咲かすか、散り急ぐかご決断を願いましょう」
「アース卿、急ぎ過ぎかと、まずは一度考える時間を差し上げてはどうかニャ」
狙ったようなタイミングでネコヤが助け舟を出す。もっとも茶番なのであるが向こうには救いの神のように見えたであろう。必死にうなずいている。
「では三十分ほど休憩を取りましょう、マリス少佐悪いのだが女性同士お相手して差し上げて」
アトリとネコヤを引き連れ部屋を後にする、今のマリスなら私の意図を見抜いて正確に事を運ぶであろうと今は信用できる。零れる笑みを扇子で隠して指令室に向かうのであった。
「メリアさん」
「な・・何でしょうか」
「命令がない限り何もしないから少し雑談しましょう」
緋色の目を細めてニッコリ微笑むとメリアの付き人に出ていくように促す、困惑の表情を浮かべて棒立ちになっているので少し睨むと、慌ててメリアが出ていくように指示する。
「ありがとう、女性同士の会話がしたかったんです」
「はぁ」
メリアは少し意図が測り兼ねるように首をかしげて返事を返す。
「意地張る場所間違ってると思うな」
「え?」
「アース卿は逆らう人間には苛烈だけど従う人間には甘いよ」
「そ・・・・その保証は」
「アルゲインさんがそうじゃない、降った瞬間管理者の一人だよ?」
今度はマリスのほうが不思議そうに小首をかしげて答えた。メリアはそれを見ると考えこむように紫の髪を再び弄りだした。
「私も最初は逆らっていた人間だからね」
「そうなんですの?」
「今じゃ腹心の一人に取り立ててもらっているけど・・・・」
何かを思い出したように顔を真っ赤にしながらぼそぼそと呟く、それを見てメリアは何となく想像ができたらしくようやっと笑顔を見せた。
「あなたは大事にされているのですね」
「どうだろう、人遣いは荒いし意地悪だよ?」
「でもあなたは忠誠と・・・自身を捧げていらっしゃる」
年齢の差であろうかそのものをサラッと言ってのける。それを聞いてさらに顔が真っ赤になるのを見て、とてもさっきの行為をやってのけた人間と同じとは思えなくなった。
「・・・・・・・降りますわ」
「え?」
「あなたの口添えなら悪くはならないでしょう、御執り成しを」
「良いの?」
「これで貴方はさらにアース卿の寵愛を受けれて、私は貴方に恩が売れる」
「え・・・・いや、その」
「何かの時は助けてくださいますよね」
「うん・・・・約束する」
さらに真っ赤になったマリスを見ながら、自分でも驚くほど素直になれたなとメリアは初めて置いてある紅茶に口を付けた。
「卿、時間です」
アトリに促され懐中時計を見ながら会議室にやってくると何だか空気がおかしい、扉の前でメリアの付き人が何も聞いてませんと耳をふさいでいるし、傍にいたアルゲインは耳栓をしている。
「ゆっくり髪を撫でてくれるんだ~綺麗だって」
「女性なら憧れる状況ですわね」
中で繰り広げられている女子会の内容を聞いた瞬間垂直に倒れる。慌ててアトリとネコヤが助け起こすが精神的ダメージは計り知れない。今まで築き上げた空気は全部壊れ、完全に恋バナと桃色の空間になっていた。思わず吐血しそうなくらいのストレスを瞬時に感じ眩暈を起こす。
「アース卿しっかり」
「卿、傷は・・・・深いか・・・・」
アトリとネコヤが支えながら必死に励ますがすでにある意味精神には致命傷が入っているので割と無駄であった。因みに宣言通りメリアは降伏をマリスを通して伝え、アルゲインと共に領土を二分割後、セラフィアム帝国准将の地位を拝領し将軍兼管理者として登用される事となった。蛇足だがマリスはこの後私にお仕置きされる事になったことを記す。




