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ありふれた報告書  作者: マンボウ紳士
第一章  群雄割拠と獅子身中
11/110

報告書08枚目 交換レートは命の値段

「ほう、損害は2500で相手はほぼ壊滅」

「はっはっはどうよ、見直した?」


高級士官が集う酒場のさらに奥のVIPルームに普段は喧嘩をしている二人が酒を飲みつつ談笑していた。


「その間に背後から攻められ国土の三分の二を失うとか悲惨よね~」

「涙目だな」

「で、あたしらが必死に戦っている時にあんたは部下にサックリやられたと」

「うっさいわ」


さも愉快そうに金髪のヴァルキュリアは大笑いしながらグラスを傾ける。


「あんたを一瞬でも欺くなんて見込みあるんじゃない?」

「あの後部屋でアトリと怪獣大決戦が起きて大変だったんだからな」

「自業自得ねぇ、色男外務省」

「喧しい、襲うぞ」

「あら、どうぞ?」


出来るならどうぞ~と笑いながら目をつぶって挑発する。相変わらず此方の性格を読み切ってくる、此れだから戦上手はと唸らずにはいられない。


「お前にまで手を出したら節操無し確定だろうが」

「あらぁ、つれない」

「まぁいい、うちは鉱山地帯を分捕る、向こうは商業港を奪うそうだ」

「トントンかしらね」

「向こうに華を持たせないとな・・・・・どうせ奥にはあいつ等が居る」

「・・・・親玉かぁ」


その言葉を聞いてつまらなそうに、ハムを軍刀で綺麗に切り落として食べる、とりあえずこいつは美人の部類なんだがなぁ・・・・残念美人?というんだろうなぁ。


「で、アースちゃんは失礼なことを考えてるみたいだけど次の手は?」

「アースちゃんは辞めろ、まったく・・・この勝利をもって全艦隊を国境に集結させて、惑星連合国家を脅す」

「ああ、例の巡洋艦のラインに乗ったんだ~」


隠れて開発していた高速高火力巡洋艦の完成を掴まれていたらしく少し顔をゆがめる。その顔が見たかったと言わんばかりに傍にあったワインを飲み干して再び笑顔になる。


「良い耳をお持ちで」

「アースちゃんには負けるわよん」

「だから・・・お前は飲むと生き生きとしてくるな」

「あらん、あの意味の無い戦いを切り抜けて生きた仲間じゃない」

「・・・・・・・・・」


一瞬で空気が凍りお互いの顔色が変わる。偽情報に踊らされてまったく無関係の星系滅ぼした群雄割拠時代の引き金になった戦争、別名「ホイールofセルペンディア事件」今では全ての記録が閲覧禁止になり調べる事すら許されない闇の中の事件。


「あの事件の時アースちゃんは少尉、私は中尉だったわよねぇ」

「・・・・過去の話だ」

「あの事件以降アースちゃんは情報と戦略に傾向して、惑星テラを私と一緒に出奔したわよねぇ」

「お前はあれ以降武力と戦術に全力だったのは知っている・・・・・」

「で、アースちゃんが隠遁生活しているときにパンドラ様と私で迎えに行ったわよねぇ」

「よ~く覚えているぞ、人の家の扉を居留守するなで軍刀で16分割してくれおって」

「その後パンドラ様と二人で何か話していたけど・・・・おね~さん興味あるなぁ」

「私はまったく興味がない」


何時の間にやらお互いに酒瓶片手ににらみ合いに突入していた。給仕に入ってきたメイドが一瞬固まって時間停止するくらいは空気は凍っていたらしい。考えればわかる事である、国内でも有名な喧嘩している派閥の長同士が酒瓶片手ににらみ合っていたら確実に喧嘩でも起きると思う。私でも思う。


「ま~いいや、いつかおね~さんに話してくれる日も来るわよね~」

「生涯来ないな」

「あららん、出奔の時私の胸で泣いていた可愛いアースちゃんが強くなったわねぇ」

「・・・・・・その話を持ち出すのはずるくないか」

「じゃ~アースちゃんが今コッソリ作っている戦艦の内容教えてくれたら止める」


その発言と共に綺麗に頭を机にぶつける、うちの諜報部隊は無能だらけなのであろうか。


「私の旗艦だ、航空戦艦で今まで以上の艦載機と火力、装甲、出力を持たせる為に金をかけているだけの話、特におかしくなかろう」

「あららん?アースちゃん嘘はいけないな~主力兵器が抜けてるじゃない」

「な・・・・え・・・それをどこで」

「引っかかった~」


満面の笑みで再び酒瓶ごとワインを飲み干すとびしっと酒瓶を突きつけてくる。本当にこの金髪のヴァルキュリアは飲ますと直感がやばくなる。


「ぐ・・・・・ぬぅ・・・・・粒子砲の上の粒子キャノン砲、口径も従来のものの3倍だ・・・艦載機の収納に力を入れたら火力不足を補うためには新兵器開発がどうしてもついて回る。」

「で、そんな物騒な旗艦なんに使う気だ?アースが戦場に出るのはありえまぃ」

「・・・・・・攻められた時の防戦用ですよ」

「おや、鉄壁のアースが見れるのか、そりゃ珍しい」

「・・・・・・」

「突撃のマーリン、鉄壁のアース、テラ宙軍では有名だったからな」


やっぱり酔ってなかったかとため息をつくと、椅子に深々と腰かけて水を飲む。世間の噂は私がマーリンをやり込めてそれが因縁で仲が悪いと流布されているが、実際はまともにやれば私が勝てることはない。それほど実力は離れているのだから。


「明日からもまた不毛な派閥戦争か・・・降りていいかねマーリン」

「駄目だ、しっかりやれ、私達が目を光らせてる限り獅子身中の虫は出ない」

「実力が違う相手と喧嘩するの疲れるんですよマーリン」

「やれば出来る子だろうがお前は」

「守りたいもの作らないようにしていたのに背負うの疲れるんですよ」

「男の甲斐性だろうが・・・何なら私も背負ってみるか?」

「昔からマーリンだけは解らねぇ」


やっぱりマーリンは嫌いだ、人の心にずかずか入ってくる上に遠慮を知らない。なのに嫌な気分にならないしどこまで行っても勝てる気がしない。正直な話、派閥戦争の話もマーリンから持ってこられた、明確な敵をお互い作っておけば最悪の結果にはならないとの配慮かららしい。


「解散するか」

「ご自由に、迎え呼ぶわ私は・・・・・立てねぇ」


にこやかに笑うと部屋を後にするマーリン、途中で会計に自分のカードを投げ渡すところまで様になっている。ああ・・・・役者が違うのであろうなぁと心から思う。重い体に鞭打って通信機を取り出し迎えを呼ぶ。


「アース様お迎えに上がりました」


マリスがすっと部屋に入ってきて支えてくれる、あの夜以降二人の時はアース様と呼ぶようになった。結局私は誰かに頼らねば生きるのも辛いというのは昔から同じらしい。


「マリス・・・・・」

「御傍に」


呟きに応じるようにそっと傍によって顔を覗き込んでくる。綺麗な瞳だ・・・・・その瞳に私は一体どのように映って居るのであろうか。


「アース様は・・・・・その、アース様ですよ」


何かを察したように微笑むとマリスは私を担いで表の車にまで運ぶ、絵面をみると大変奇妙なことになっている、自分の背丈より大きい男を軽々と担いで店を出る美人・・・・・また噂になる事であろう。そんなことを思いながら意識は闇の中へと落ちるのであった。



「と、いうわけで完成しました」


技術士官フェイザーが開発書類をもって執務室で熱弁をふるう。書類には航空戦艦、本土決戦防衛兵器、オートプログラム防衛システム、新型巡洋艦、ミサイル艦、駆逐艦と割と勢ぞろいである。


「プロトタイプは既に完成しておりますのでこちらはそのまま使えます、また各新型艦はご命令通り製造ラインに乗せて現在製造中であります。」

「・・・・見たところ不具合はないようだが」

「流石に試行錯誤を重ね実戦運用をしておりますので問題ありません」

「いつ実戦運用を?」

「先日の戦いであります」


鼻息荒く自信満々に答えるフェイザーを牢屋にご招待してやりたい衝動に駆られるがぐっと我慢する。後ろを見るとアトリとマリスが張り付いた笑みを浮かべているのでこちらの心境を察してくれたのであろう。


「・・・・・新型戦艦は流石に」

「そちらはまだ調整段階が続いておりますがご安心を、従来の50%UPが現在の時点で判明しております」

「さて、ではラインに乗せた艦隊であるが希望の3万隻になるのに何日かかる」

「我が領土の製造ラインと上がった技術力があれば一週間いただければご希望に添えますとも」


取り出した電卓をたたき自信満々に即答する。こういうところは頼りになるのだが研究者というのはこちらの思惑を平然と超えた行動をするので油断ならない。最善と戦争をしない方法を考え、それらをまとめ後ろを振り返る。


「ネコヤ、元帥のところのライン借りてこい、この前の技術書の手前貸してくれるから」

「はいニャ」

「アトリ、陛下に総大将は私で目的地は惑星連合共和国と奏上を」

「直ちに」

「マリスは護衛と諜報部を預けるしばらく私の警護を頼む」

「御心のままに」


背もたれに寄りかかりながら背後に控える側近たちに速やかに命令を下す。ネコヤとアトリは先を争うように走りだし、マリスは手の届く範囲に武器を用意する。技術士官は既にネコヤに首根っこを掴まれて去っているので静かになった執務室でこれからの事を考えもう一度深くため息をついた。



「でだ、やりすぎだろ」


指令室で誰に言うでもなくコンソールに映って居るアトリ達に愚痴る。

旗艦 航空戦艦「フェインノート」 高速戦艦5千隻 装甲空母5千隻 重巡洋艦8千隻 巡洋艦7千隻 ミサイル艦8千隻 高速駆逐艦7千隻 駆逐艦1万隻の総勢5万隻の大艦隊を率いてすでに惑星連合共和国の国境に展開している。相手も必死に防衛艦隊を繰り出しているがすでに及び腰になっている。相手はざっと見ても4万隻で国境を挟んでにらみ合いになっている。


「ついでにだ、なぜ元帥が混じっているんだ?」

「ほう、元帥さんか珍しい名前の人が居るんだな」

「・・・・・」

「貴官所属と名前は」

「アトリ中佐配下ナゾ・ノ・キャーラであります」

「・・・・捻れよもっと」


素知らぬ顔をして自分の金髪を弄っているマーリンを見て頭を抱える。アトリは既に目線を合わずに脂汗をだらだら流している、きっとねじ込まれたんだろうなぁと心労を思うと、またため息が出る。


「アース卿相手から通信が入っていますが」

「繋いでくれ」


頭を抱えていると控えているマリスが報告を受け静かに告げてくる。眉間を抑えつつ、手でオペレーターに命令するとコンソールが開かれる。


「ちょっとちょっとフレンド、こりゃどういう事よ」

「よ~アルゲイン元気そうで何より、商売持ってきたぞ」

「え、や、なんだよフレンド儲け話かい?どんな奴だ」

「お前さんの命の保証と今後の立場の保証の両方だ、高値で買うといい」


暗に今から攻めるから態度決めろと言う最後通牒をさらりと行う。手元の扇子はいつも通り開いている。後ろに居るマリスが恍惚の表情を浮かべているが気にしないことにする。


「理由が解らないな~仲良くやってきた」

「よな、情報を全部流して物資も横流ししても目をつぶってきた」

「意味が解らないよフレンド」

「ただ、最後の要塞破壊の手引きと補給港の貸与は駄目だろ」


アルゲインの表情が見る見るうちに劇的に変化する。今までの飄々とした表情から一変して軍人の顔を覗かせる。


「いちゃもんつけるのはやめて欲しい」

「では正式に布告しようか?」

「あんた戦争はからっきしだよな、勝てる気あんのか?」

「マリス、布告」


相手の苦し紛れの発言を無視し、マリスが今回の戦争の理由と討伐を行う旨を全宙域に対して朗々と読み上げた。


「さて、始めようか、下手を打った商人」

「生きて帰れると思うなよ?頭でっかちが」


コンソールが消えるとともに相手の砲撃が始まる。一斉に大輪の花が宇宙に咲く・・・・・はずだった。こちらの艦隊は相手の攻撃を全て受けても一隻も沈まず何かやりましたか?状態で命令を待っていた。


「困ったな、いきなり攻撃されてしまったよ」

「仕方ありませんわね、防衛するしかありませんわ」


完全な棒読みと共に全艦隊に攻撃命令が下される。数十分後相手は壊滅に陥りアルゲインは退却するところを、良いところを掻っ攫うナゾノさんの活躍により捕縛。マリスに剣を突きつけられた状態で私の前に引き立てられた。


「直接会うのは久しぶりだなアルゲイン」

「だ、旦那、これは手違いでして」

「さえない遺言だったな」


右手でマリスに合図すると剣を振り上げる。後は右手を下ろせば剣も振り下ろされアルゲインは真っ二つになる訳であるが・・・・・・。


「降伏します、アルゲインはセルフィアム帝国に降伏します」


慌ててはいつくばって降伏するからと命乞いを始める。ある意味一番長生きするタイプであるなと苦笑すると右手を横に下ろす。マリスが察したようにアルゲインの縛っていたロープだけを器用に切って捨てる。


「とりあえずさっさと戻って残りの二人を説得しろ」

「へ?」

「説得できてもできなくてもその行動でお前の今後も待遇は約束しよう」

「ど・・・・・どの程度の」

「惑星連合の領土の半分を治める将軍なんて素敵であろうのぉ?」


その言葉を聞いた瞬間、慌てて立ち上がり自分の軍服をさっさとセラフィアムの軍服に変えるあたり目敏いと思う。必ず説得いたします、というと拿捕してあった自分の戦艦に乗り込み一目散に撤退していった。


「逃げたのでは?」

「それはない、立場が保障されたものはその立場にすがる、利に聡い人間ならなおさらな」


目を細め小さくなる戦艦を眺めつつ、傍にいるマリスの尊敬のまなざしをくすぐったく感じ残っているお茶を飲み干すのであった。

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