報告書93枚目 針と歯車が無い時計
前回の大攻勢に勝利した結果、ジリジリとではあるが領土を取り戻しつつある。相手の大艦隊はどうやらすぐに生産できたものではないのも判明した。結果的にアルゲイン、メリアラインの提唱した補給ラインが繋がり、マーリン、タケシが前線で大暴れしている。最終的に敵はこちら側の星系の破棄を決断したのか現在は中央星系でにらみ合いを続けている膠着状態となっている。
「一時的にではあるが銀河の半分を取り返したことになるな・・・・・・」
「捕虜の開放、星の再開発やることは山盛りかと」
「内政チームはデスマーチの連続ですね」
ファーナ内務卿を筆頭に内政チームはいったい何時寝ているんだの悪循環に突入している、最近ではこれを敵が狙って撤退したんじゃないかといぶかしがるほどである。その内政陣をデスマーチに追い込んでいる最大の原因は、生産需要と戦争特需で落ち込んだ経済景気が強制的に上向きにさせられたことにあった。それに引っ張られるように解放された捕虜達は、表現や比喩ではなく本当にあっという間に手の足りない仕事に就いて手勢が余るという状況は帝国領殿のどこにも存在していない。
「ファーナは確か・・・・」
「はい、フォルナスの様子を見に行ってそのまま仕事でとんぼ返り後監禁されています」
「マーリン元帥も数日滞在後とんぼ返りで戦場に呼び戻されました」
それらの報告書と皇国が置かれている現在の結果からみると今現在で打てるであろう最善の手であるが・・なぜだろう、マーリンとファーナがフォルナス達を見に行って僅か数日後のとんぼ返りの強要であったことを考えると、何やら計画的なにおいがする。更にそのとんぼ返りに伴って最大限の利益を受ける事になるある二人組の薄暗い笑顔が頭から消えない、そしてその二人組から連名で届けられている報告書を読むと数日中にフォルナスの専属秘書官の面談を行うと書いてあった。
「ディア局長とローフル大将が一緒に面談するそうです」
「それ以前に面談に進んだ人間が三人だけだとか・・」
「あいつらの基準は何かおかしいのぉ・・・・・・・まぁ確実にフォルナスの益になるものを選ぶだろうがのぉ」
その一点については間違いなく行われるであろうという確信から苦笑をすると、マリスとメイファも困ったような顔で苦笑する。変なところで変な信用を持っている二人組であるからな。彼らに言わせればご主君や国に対して不利益を行うぐらいなら全てを灰燼に帰すほうが余程の有益と言い切るディア局長、皇国の置かれている現状が明確に読み切れないなら特攻して自沈して頂いたほうが士気高揚に役に立つのではと笑うローフル大将・・・・うん、何方にしてもろくなものではないな。
「この報告どう見る?」
二人組の真意はどのラインか図りかねているのでお茶を飲みながら傍で報告書を仕分けしているメイファとマリスに話を振ってみる。
「恐らくですがメイファにフォルナスが劣等感を持っているからじゃないかと」
「自分の目から見て最大の脅威が自分の妹では後の悲劇を生みますからね」
「段階を踏まえて今後のフォルナスの為に相談ができる護衛兼腹心を育てさせる気だと思います」
「三人とも合格するような気がしますけどね」
まぁあの二人組ですからと困ったようなそれでいてなんとも意図の読めない苦笑を再び浮かべる。恐らくマリスとメイファの読み通り三人とも受かるのであろう、ディア局長が推薦している時点で膨大な候補者を細かい査定のもとに容赦なく切り捨てた結果であることは火を見るより明らかである。
「ディア局長の新人類計画が此処にきて最大の効果を出すとは・・・・・・解らんもんだな」
「遺伝子強化人間を廃止して幼少時から個人の能力を徹底的に強化と要人防衛訓練の実施でしたね」
「そして膨大な資料とデータからの内政教育、戦略教育、戦術教育を叩き込む」
「それでいて幼少時から鋼の忠誠心を叩き込む・・・・・」
その忠誠心のカリキュラム類はもう少し穏やかにしないか?と一度ディア局長に対して口を挟んだ結果、藪から蛇どころた八岐大蛇が出てきて五時間にわたっていかに私が素晴らしいかを泣きながら演説された。結果的にディア局長が演説し、周りの聞いているディア局長新派は号泣しながら聞き入っており、更に口々に私を称えるという悪循環に陥っていたのだが、その演説を聞かされている側の気分としては最悪を通り越し、絶望をすっ飛ばし氷点下以下になったのを身をもって覚えさせられた。
「実際にアース様の周りを固めている近衛兵もその人たちですね」
「この前ミーティングを見ていたらアース様の為に死ぬはの義務と唱えてましたが・・・」
「初耳レベルの物騒なミーティングであるなぁ」
「常に捨て身だからかなり襲う側からしたら脅威かと」
マリスが何気なしに軍刀を整備しながら数も多いし本当に厄介だよといつもの口調でボソッとつぶやく、それを受けてメイファも自分ですら銃を懐に入れていたら相当警戒されるという話をしてくる。一体彼らはどの程度の身分の人物を守っているのだろうか?、そしてその厳戒態勢が原因で今は戦場のど真ん中にこの執務室が置かれているのではないかという思いが湧き上がってくるが気合で押し込める。
「それにしても中間の人材としては全員優秀であるからな」
「指揮官を補佐する、護衛、パイプレーターとしては素晴らしいと思います」
「それの頂点がディア局長というのもなかなかだと思われますが」
「忠誠が変な方向向いておるからのぉ」
「間違っても敵対していないのが心からの救いですね」
「今はフォルナスに全部向いているのがせめてもの救いであるな」
ため息をついているアース王の背後で近衛兵が全て録画してディア局長に送っているとは言えないので、何とも言えない複雑そうな笑顔で答える。マリスもメイファも知ってはいるもののさして害のある事でもなく、情報漏洩といえばそうであっても基本はディア局長が確かめて崇拝する程度なので微妙のラインから出ないのである。またこれによって忠誠がまた増えることを考えれば不利益より利益が多いので黙ってみているのである。
「まぁよい、今は内政充実をローフルとディアに任せたと思えば良い話だ」
「それにフォルナスとメルティアを鍛えてくれるのですから良い教師かと」
「フォルナスはあの腹黒さを、メルティアは相手に合わせて察する能力を学べば今後も何とかなろう」
「メルティアは一見万能ですがまだ周りを慮る能力が低いのでお恥ずかしい」
メイファが申し訳なさそうに目を伏せる、それに対してマリスがいやぁうちの子も直線で考えるからお互い様だよねと苦笑する、お互いの評価がアース王なのですさまじく高いというのは実は本人たちは解っていないのである、そんな二人を苦笑しながら年齢相応で考えればすさまじく優秀であるとフォローを入れる。少し不服そうな顔をするものの、その意見を正確に理解して修正するのは流石といえよう。
「メルティアも秘書ができればそれを見て勉強ができる」
「フォルナスは相談できる相手ができる」
「まぁ丁度良いといえば丁度いい機会ではあるな」
「あとはまぁ・・・・・・・・」
「ね・・・・」
マリスとメイファがお互いに顔を見合わせてディア局長に性教育を丸投げしたのを少しだけ心苦しく思いながら目線をそらす。二人ともアース様の子供なのだからというので自分を納得させ、ディアの命令書に書き加えたのである。実際の心境で行けばまだまだ早いと断言したいところだが現状はそれを許してくれない。いつフォルナスが繰り上がるかもしれない、いつメルティアが婚姻を結ばなければいけないかもしれない、そんな状況は突然来るかもしれないのだ。太平のころならその親の心境で許されたのであろうが、現状は厳戒態勢で常時戦場の状況である、最悪の常に先を用意しないといけない。
「時代がね・・・・・・」
「許してくれませんからね」
ため息をつくいつの間にか妻の顔になった二人に口を出したらまずいと直感で感じたので、なんとなしに手元の湯飲みに手を伸ばしお茶をすする。先が見えない戦争を続け、いつかは相手を追い詰め、そして今までの代償を払わせなければいけない。それがどれほど大変であろうともそれを成し遂げないことには戦争は終わらないだろう。それまでに消える資源、人材、費用を考えるとげんなりとする。どれほど少なく見繕っても戦後十年は祟るだろう。
「勝っても地獄・・・・負けたら壊滅か・・・・質の悪い戦争だのぉ」
「得るものは平和、代償は莫大な戦後処理」
「領土は元通りとしても荒れ果てた領土復興は急務」
「なんとも頭が痛い話だ・・・・・」
この会話を始めると相手がうらやましくて仕方なくなる、訳の解らない戦艦、資源を使わなくとも大量生産を行い、大艦隊を失ってもすぐに補給できる無尽蔵の生産ライン、打ち取っても打ち取っても沸いてくる通常より優秀な指揮官クラス。こちらは失えば失うほどジリ貧になるというのに、前回の大攻勢でかなりの数を削り取ったというのに中央銀河出こちらと睨み合ってけん制できるだけの兵力をまわせる事実。
「もっともこちらの領土に攻め込める兵力までは確保できていないのだけは良い材料だな」
「言っていて悲しくなりますがそれが最大のメリットかと」
「資源惑星を同時に管理発展させているアルゲイン、メリア、ローフル、ディアには頭が上がらんなぁ」
「今度メリア資源管理総督が報告に来るそうですよ?お一人で」
「メリアさんもアース閣下の妻の一人ですからね・・・・・ごゆっくり」
さりげなく嫉妬するのをやめてほしいものだ、それを引いたとしても資源惑星からの輸出された鉱石はすべて生産工場に運び込まれている。戦艦、各種建築材料、民間流通の増産スピードを上げ続ける要因の一つだ。メリア資源管理総督、アルゲイン生産管理総督、ローフル惑星管理総督、ディア惑星副総督それらの上がフォルナス臨時内務宰相である。いささか強引な手段ではあったが増え続ける資源惑星の管理をまとめる為には一枚岩が必要だったので無理を言ってローフル、ディアに手回しをさせた。
「睨み合いは持って二か月程度だろう」
「それまでが勝負ですか」
「また部の悪い賭けですね」
本当に偶には楽に勝てる勝負、というかすでに勝利している勝負になって欲しいものだと苦笑すると再び書類整理に戻るのであった。この時すでに勝負の段階は終了しており、暗躍二人組のローフル&ディアがフォルナスに箔をつけるために今までにない程の暗躍しているのを知るのはほんの数か月後のことであった。




