報告書92枚目 現状把握の重要性
廊下の陰から見ていた小さな影は慌てて自分の部屋に駆け込む、相手はおそらく自分に気づいていた、なのに苦笑してそのまま歩いて行ってしまった。要は自分はまだ同じ場所にすら立っていないということをその態度によって顕著に教えてくれたのである。人の好い笑顔の陰に何を考えているかさっぱり読む事が出来ない。ディア局長とローフル大将はこれ見よがしに相談をしている、それを周りに見せてことさらアピールしているようにも見える。
「・・・・現状を纏めませんと」
溜息をつくとそんな状況そ少しでも打破しようとメモを取り出し静かに細かく記入していく、帝国のトップは間違いなくマオ皇帝陛下、その下にお父様であるアースライト王、マーリン元帥、ファーナ内務卿を筆頭に王を支える綺羅星の士官群、そこまでは理解ができる。
「でもどれほど考えてもやっぱりこちらの方々はさっぱり解りません・・・味方なのはわかるのですが」
ローフル大将とディア局長の二人は皆無と言っていいほど自分たちの動機をさっぱり掴まさせない、普段の行動や言動を見てもお父様や自分達の味方なのは誰が見ても間違いない、だが他の方々と比べると仕える理由が全くと言っていいほどわからないのである。その結論が周りを余計に迷わせ、動きを阻害する要因となっている。現状あの二人はフォルナス兄様の後見人として権力を握ろうと思えば握れるのでそちらは完全にスルーしている。権力を動かす大義名分を握っているにもかかわらずそれを使用する事もなく漠然と自分達の進道をわき目も降らずに歩き続ける。
「彼らの目的はお父様に対する妄信的な忠誠心によって動いています・・・これはお兄様のためになるのでしょうか」
深いため息をつくとともにこの後の事を考えると部屋に閉じこもっていたくなる。時間はそれを許してくれない、きっとお兄様はもっと追い詰められていく、それを少しでも手助けしなければいけないしもっとお兄様の腹心を私以外にも作らなければいけない。
「父様の後を継いだ時には今いる綺羅星も引退するでしょう、母上達は残ってくれるかもしれませんが期待は薄いです。そうなると必然的にお兄様だけの懐刀がいります、いつまでも私がそばにいて支えられればいいのですがそれも難しいし・・・」
考えれば考えるほど思考の沼にはまっていく、こう言った時にいい考えなどは大体浮かぶはずがない。わかっているのだが気ばかりが逸ってますます思考回路が働かなくなっていった。
「ああ・・・・誰でもいいから答えを教えてほしいなぁ・・・・」
深いため息とともに吐いた弱音が誰に聞こえるでもなく空しく部屋に響くのであった。
・・・・フォルナス執務室・・・・
「さて、フォルナス様交通整備が完成した後のことをそろそろ指示しませんと」
「一応鉄道網を整えて鉱山と空港を結ぶように指示したんだけど」
どうかなとローフル大将に首をかしげるように書類を渡し答えを求める、少しだけずり落ちた眼鏡を手で上げながら対面に座っているローフル大将が書類を受け取り、それに目を通して答えてくる。
「それだけではあっという間に終わってしまいますなぁ、次のその先まで用意いたしませんと」
「でも鉱石を運んで加工する工場はまだ早いよね?他の惑星に速やかに輸出するのが正しいと思うんだけど」
手元の書類をもう一度見直しながら目の前でお茶を飲んでいるローフル大将に地図を開いて説明という名前の答え合わせをする。湯呑を手元に置きながら地図を見て説明を聞き目を細めている、あの感じの時は大体自分の考えと模範解答を照らし合わせている時なんだとこの前気づいた。
「其処までならあと一週間あれば終わってしまうのですなぁ、そのあと民の働く場所をどうなさるので?」
「鉱山と鉄道整備と・・・・・後宿泊施設と街の整備をさせようかなと思っているんだけど」
其処までの答えを聞いて少し考えるように動きを止めると後ろに手を差し出す。ふと手の先を見ると、いつの間にかそばにいたメーニャ補佐官とアーニャ補佐官が細かい資料をローフル大将に渡していた。その資料を眺めながらも何かをその書類に記入すると二人に渡してこちらに向き直る。
「成程、二カ月はこれで行けるでしょう、後は周りの町をどうやってまとめるかですな」
「其処はローフル大将に先ぶれとして町に向かってほしいんだけどどうかな?」
「・・・・・・・・ふむ、承りましょう」
顎に手を当てて満足そうに微笑むとその場で立ち上がり敬礼をしてくる、この行動が出たというのならローフル大将の中では合格点なんだとこれもまた最近気付いた。至らぬ点や足りなければさっきみたいに頑として目の前から動こうとしないのも併せて気付いた。自信はないけどおそらくローフル大将が言葉でいうより、僕自身が考えて、訂正して、自分自身で行動する大切さを教えてくれているんだと思う・・・・多分。
「ありがとう、それではお願いします・・・・・それと申し訳ないのですがディア局長を呼んでもらえるかな」
「委細かしこまりました」
そのまま一礼をするとローフル大将が執務室から退出していく、その後ろを再びいつの間にかついてきた二人の補佐官が一緒についていく、どっちにせよローフル大将はこのまま僕の後ろ盾でいてくれるのを願ってやまない。僕が一人前になったらこの後見人の人が消えてしまうなど恐怖でしかない、いつか認めてもらって僕の副官にしないといけない、メルティアにもそう言われているしやることは山積みだ・・・・・・。
「やぁ、およびと聞いて急いで参上したのですな」
「ディア局長ご苦労様です」
白衣をたなびかせ体格からして大きめの眼鏡をかけた小柄な女性が書類を片手に息を切らせて走りこんできた。礼をして息を整えるとこちらに視線を向けてくるので、静かに椅子を進めると丁寧にお辞儀をした後に音を立てるのを嫌がるかのように静かに座るのだった。
「ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
「何なりとおっしゃってくださいなのですな、必ず叶えるのですな」
頼られたのが嬉しいのか満面の笑みで自分の胸をたたいている。この部分だけ見るととてもさっきのローフル大将とともに暗躍しているようには見えない、実際には僕ができない裏側を全て受け持っているのだから底知れない部分がある。彼女とローフル大将が密談しているのは季節の風物詩のようによく見られる光景になっている。内容はまぁ・・・・・知らないほうがいいことから本当につまらない話だったりするんだけどね。
「えっと・・・メルティア以外のその・・・補佐がね」
「成程、秘書が欲しいのですな?ふむ・・手配するのですな」
勢いよくパラパラと手元の書類をめくると何枚かを抜き出して、懐から取り出したメモに何かを書き加える。そのあと再び書類を探し始めるのだが途中ふと止まって通信機を取り出して何かを指示すると彼女の目の前に部下が持ってきた書類がまた増える。
「いやぁ、フォルナス様を立てるタイプでおとなしい女性を探すのですな」
「あ、いや・・・うん、能力重視でディア局長に任せるよ」
その言葉を聞くと再び満面の笑みでご期待に必ず応えてみせるのですなと断言すると、物凄い勢いで書類を片付け始めた、目の前での作業を呆然として眺めていたが、時間にして大体三十分ぐらいだろうか、あれだけあった書類は目の前の三枚の書類になっていた、残っていた書類を見ると少し恥ずかしそうにディア局長が首をかしげてきた。
「いやぁ・・・・推薦できる人間が三人しかいないとはこのディア不手際の極みであります、申し訳ないのですな」
深々と頭を下げてくるので、気にしなくていいと言葉をかける。いったいどんな基準で選んだかを聞いてみたいのだが、大量にはじかれた書類を見ていると細かな欠点でもはじいたのではないかと思えてくる。ディア局長は父上や僕にはなぜか絶対服従をしている、もっと違う人にも仕えればいいのにといったところ一度ご子息は私がいらないのですな?と悲しそうな眼をして短刀を取り出したので慌てて訂正したのを覚えている。
「その三人はどんな感じなのかな」
「それはですな、まず頭脳明晰なのは前提として衆目美麗であり立ち振る舞いにも無礼がない者が最低基準なのですな」
うん、最初から色々おかしい、だけどここで突っ込んだらまた最初から探し始めるだろうからしばらく言葉を聞くことにする。
「フォルナス閣下の後ろでお守りできる能力を有し、さらに閣下に対して微塵も悪い感情を抱かないもの、叱咤激励が出来て、閨に誘われても断らないものを加味したのですな」
「ちょっと最後!!、最後がおかしいから!!」
思わず最後の答えに突っ込みを入れる、閨とか早いから、意味が分からないからとわたわたしているとディア局長がまじめな顔で答えを返してくる。
「何をおっしゃるのですな?偉大なるアース王のご子息ともなれば有象無象は必ず沸いてくるのですな!不肖このディア、内外に渡り粉骨砕身でお守りいたしますが残念ながらこの身ではそちらまで手が回らないのですな!」
「えっと・・・割とディアさんも美人さんだと思うんだけど・あ、違うそうじゃない」
一瞬だけディア局長が顔を輝かせたがそのあと寂しそうにため息をつくともう一度だけこちらに向かい合って説得するように話してくる。
「私は年齢的に釣り合わないのですな、とにかく御身を守る人間がメルティア閣下だけでは足りないと考えていたのですな、これは渡りに船なのですな」
「まぁまぁ、面接してとりあえずあってみるのがよろしいのですなぁ」
あ、だめだ一番揃っちゃいけない二人組が揃った。声のしたほうを見るとのんびりと一礼してローフル大将が入室してくる。おそらく補佐官のどちらかが報告に行ったんだと思う、一応僕の利益になるように動いてくれているのはあの二人も間違いない、きっと今回の件は利益になると思われたんだと思う。
「えっと・・・・・面接はすべきなのかな?」
「すべきですな」
「損はないでしょうのぉ少なくとも利益にはなるかと思いますのぉ」
結局ディア局長とローフル大将が付き添っての面談を行うことに決定した。多分これが現状僕ができる最大の交渉だと思っている。ただこれからの事を考えると二人が揃って進めるというのなら、最善の事になるんだろうと思っている。今の僕は少しでも信じて周りから吸収して勉強しないといけないのだから。メルティアの為にも、母上や父上の為にも僕は頑張らなければいけない。




