決着編―リリアの願いを叶えよう2
自身が生まれ育った村が近づくにつれ、リリアの顔色は悪くなっていった。黒い鬼を探しに旅に出てから一度も戻ったことがないとリリアは不安を口にした。珍しく、十六夜に自分から運んでもらうことをねだった。当然十六夜は喜んでリリアを抱き上げた。今リリアは耐えるように、十六夜の首に両腕を回して首元に顔を押し付けている。
シルビアは心配そうにアストラスを見たが、何もできることはないとアストラスは首を横に振るだけだった。
「あれかしらね」
鬼の目にはとっくに見えていた集落を、ルーシアが捉えた。リリアはピクリと肩を揺らした。十六夜が大丈夫というように背をなでる。リリアはゆっくりと顔をあげた。集落の奥に森が、さらにその奥に石造りの城が見える。それは間違いなく
「リディスの村だ」
どこか呆然とすら聞こえるその声音。誰もがこのまま進んでいいのか迷っていると、その雰囲気を壊すのはやはり十六夜なのだ。
「あれがリリアの生まれたところなの?俺楽しみ!」
「そうか?」
「俺はずっと鬼の里にいたけど、リリアも結構あの村にいたんでしょう?気になるよ!」
十六夜は一人うきうきしている。
(十六夜だって、鬼の里にいい思い出があるとは思えない)
それでも彼は浅葱を慕い、劉輝と顔を合わせて笑う。だったら
(私も、あの村を好きになることができるかもしれない)
顔は青白いままだったけれど、黒い瞳に意志が垣間見れて、一行はこのまま進んでも大丈夫そうだと判断する。
まっすぐ道に沿って歩き、昼前にはリディスの村に着いた。
※
雰囲気はあえていえば、ユーリを助け出した村に似ている。どこか土着の信仰や風習がありそうで、少し、よそ者に冷たい空気だった。
「お前たち、なんだ?」
リリアの外見年齢と同じくらいの年に見える少年が話しかけてきた。その瞳はリリアたちを怪しがっていた。
「商いに来る奴らとも違うな」
そう疑りながらも、話しかけてくるあたりは以前よりオープンになったのかもしれないとリリアは思っていた。ルーシアたちがどう答えようか迷っていると、少年は十六夜に抱かれたリリアに視線を向けた。
「―お前、俺と同じくらいだろう?抱っこされて恥ずかしくね?」
(―十六夜が怒るか?)
それはよろしくない気がして、リリアはそろりと自分を抱き上げている青年の顔を見る。案の定その顔には不愉快だと書いてある。しかし、少年に文句を言ったのは十六夜ではなかった。
「見た目で判断するのはよくないぞ」
するりと少年と十六夜の間に体を滑り込ませたのはシルビアだ。少年は長身の年上の少女にいさめられピクリと肩を揺らす。
「もしかしたら足が悪いのかもしれないだろう?」
「じゃあ、そいつ足悪いのかよ」
「いいや、ちょっと体調がすぐれないだけだ」
「ふーん?」
まだどこか疑うような目で少年はシルビアの後ろにいるリリアを見上げる。それを見て、シルビアはふむ、と頷いた。
「―うらやましいのか?」
「な!」
「図星か」
「―そんなことない!」
「素直じゃないなー」
シルビアはこの少年が少し可愛くなってきたようだ。くつくつと笑っている。それに少年はムキになる。
「お前なんて、でかくてかわいくない女のくせに!」
「そう来たか」
つい一歩踏み出しそうになるアストラスを手で制しながらシルビアは何と言い返そうかと考える。
「確かに私は長身の部類に入る」
「女は小さい方がかわいいってみんな言ってるぞ!」
「みんなって誰だ?」
「それは、エドの父ちゃんとか、ラザルスのじいちゃんとか」
「背が高いだけでかわいくないと判断するのもいただけないな」
シルビアはかがんで少年と目線を合わせる。長い1つに結っている髪をひと房手に取る。
「自分の容姿がすぐれているとは思わないが、この髪には自信があるんだ」
湖畔の妖精と歌われた母上譲りの髪だぞ?と笑って言えば、少年は顔をカッと赤くして村に向かって走り出した。
「うるさいうるさーい!このデカ女!」
そう言い残すともともと一緒に遊んでいた子どもたちだろうか―こちらの様子を遠目に伺っていた―のところに戻っていった。
「―何だったんだ」
嵐が通り過ぎたような状況に、シルビアは目を丸くした。
「許してくれればげんこつのひとつでも見舞ってやったものを」
「やめろ、本気で泣いてしまうぞ」
「かまわん」
アストラスは不機嫌だったが、シルビアは涼しい顔だ。
「何の用だ」
子どもが一人、父親だろうか、男を連れてきた。男は娘を後ろにかばいながら、リリアたちが怪しいものではないか確認しに来たようだった。
「ちょっと、旅をしていて。食料が尽きそうだから、買い物させてもらえると助かるのだけれど」
少年とシルビアが舌戦を繰り広げている間にそういう設定にしたらしい。シルビアが代表して口を開いた。
「ここを通る旅人は少ない」
「そうなの?」
「ああ。鬼の王の城を通ることになるからな」
リリアは十六夜の肩に添えている手にギュッと力を込めた。
(この村の人間は、父さまを忘れてはいない)
それはうれしいことでもあったし、鬼の王という呼び方は懐かしいものだった。
(あいかわらず鬼神とは呼ばないのだな)
頑固なものだと思いもする。
「あら、そうなの?―でも戻るにしても物資が足りないし、できたらお世話になりたいのだけれど」
「まだ時間もあるだろう。急げばひとつ前の村まで戻れるんじゃないか?」
(それは無理だな)
鬼が走ればいけるが、人間の足では少々遠すぎる。この男にリリアたちを受け入れる意思はない。
(どうしましょう)
どうこの男を攻略しようかとルーシアがアスランに視線を投げた時、先ほど聞いた声が耳に届いた。
「じいちゃん!こっち!俺のこと馬鹿にしたやつら!追い帰して!」
「そう急ぐな」
シルビアと口論を繰り広げた少年が、杖を突いて歩く老人を連れてきたところだった。リリアたちを追い帰そうとしていた男が老人と少年の方に振り返る。
「長」
「この者たちは」
「旅のものだと言いますが、入れる筋合いはないかと」
そう言われ、老人は旅の一行を視界に入れた。とたん、目玉が零れ落ちるのではないかというほど目を見開いた。
「リリア―」
老人に名を呼ばれ、今度はリリアが目を丸くする。リリアは急いで過去の記憶を引っ張り出す。村の長をやっていたのは誰だったか、その子どもは誰だったか。自分はいったい、どれほどの時間旅をしていた?
「テオルド―」
当時の村の長をしていたサダの孫かひ孫だったはずだ。記憶に浮上した名を口にすれば、老人は最大に開いていたはずの目をさらに見開く。そしてすぐに地面に膝をつき頭を下げた。この展開はリリアたちだけではなく、村人たちも予想していなかったようで男も、男の娘も、少年も驚いた顔をしている。
「―すまなかった!お前にはひどいことをした!罰は私が受ける!だからどうか、村だけは!」
その言葉に、突如はらわたが煮えくり返るような怒りをリリアは覚えた。あの仕打ちを、今更謝られたところで許せるわけがない。それを、己一人で引き受けるというその傲慢さにも腹が立つ。気づけば叫んでいた。
「どの口がそれを言う!母さまはお前たちのために尽くしたというのに!与えられる食べ物はわずか!家は汚され、物は壊され!それなのに父さまのもとに行くことは許さなかった!」
「本当に、本当にすまない!」
「母さまは死んだ!本当はもっと生きれたはずなのに!父さまと幸せに生きられたはずなのに!父さまだって、母さまが死んだ傷で鬼神としての務めを果たせなくなってしまった!」
「私のことは殺してくれて構わない!」
「お前を殺したところで時間は巻き戻るものか!」
リリアは泣いていた。一行は状況を把握しつつあった。どうやら男は昔リリアとその母を虐げていたこと、その復讐に村を滅ぼしにやってきたと思っていること。それを理解した瞬間に、怒りがわくのが分かった。
(違う。リリアは、復讐のために頑張ったんじゃない)
ルーシアは唇をかんだ。しかし、それを言ってやる義理もないと、当然の報いだと思った。死ぬまで後悔していればいい。そう思ったとき。
「お前たちなんてどうでもいい」
十六夜の声は、今まで聞いたことのない冷たいものだった。視線が、十六夜に集まる。
「お前たちが死のうが生きようが、いくら詫びようが俺たちにはどうだっていい」
「なら、なぜ今―」
「俺は、リリアの時間を進めるためにここに来た」
「何を言って―」
リリアにテオルドと呼ばれた村の長は、顔を上げ、十六夜の冷たい視線に動けなくなる。
「リリアが、幸せになってもいいと思えるようにここに来た」
「―それは、どういう」
十六夜は、一度息を吐きだすと宣言するように言った。
「俺は、鬼の王を殺すためにここに来た」
「―鬼の王を、殺してくれるのか?」
おずおずと口を開いたのは、リリアたちを追い帰そうとしてた男だった。声音に違和感を覚えながらも、十六夜は頷いた。男は喜色を表す。
「そ、そうか!それなら話は早い!早いとこ殺してしまっておくれよ!恐ろしくておちおち眠れやしないんだ!」
その言葉に、一行は嫌悪感を募らせる。無知はこれほどに恐ろしい。
「勘違いするな」
「ひ!」
十六夜ににらまれて、男はしりもちをついた。怒りで十六夜の目は赤色を帯びつつあった。隠されていない怒気が村を襲う。
「俺は確かに鬼の王を殺す。でも、それで鬼の王がいなくなるわけじゃない」
「殺せば、いなくなるだろう!!」
少年が、力を振り絞って叫んだ。それは、より恐ろしい体験をすることにしかつながらなかったけれど。
「俺は、鬼の王を殺す。そして、俺が次の王になる。あの城から、鬼の王がいなくなることはない」
「―テオルド」
「はい」
リリアは乾いた声で呼んだ。テオルドは、深々と頭を下げる。
「私たちには、宿が必要だ。用意できるな」
「王の娘、リリアの仰せのままに」
村の空気は絶望を帯びた。
※
村に宿はなかったから、空き家を大急ぎで掃除して泊まれるようにしてくれた。その空き家は、リリアが母と過ごしたものだった。
「まだ、残っていたんだな」
リリアはいとおしそうに壁に触れる。
「とっくに壊されているものと思っていた」
「それもそれで恐ろしかったんじゃないか?」
シルビアが不機嫌そうな声で言った。リリアが後ろを振り向けば、皆良い表情とは言えなかった。苦笑する。
「―どういうわけか、この村の人間は鬼神を妙に怖がってな」
危害など加えないんだが、とリリアは心底不思議そうだ。
「なのに、鬼は怖くないんだね」
劉輝の不機嫌顔は珍しいのではないかとリリアは思った。言われればそうだと、リリアは首を傾げた。
「まあ、この村がおかしいのは今に始まったことではない」
どこで、何がねじれたのか。村人たちは鬼の王を殊の外恐れ、その手先である鬼を恐れているはずだった。
「城から逆の方角から来たから、鬼神に使える鬼とは思わなかったのかもしれない」
「仕えてるつもりもないけど、俺たちの王様であることには変わりないのにね」
劉輝が肩をすくめる。リリアもそれに困ったように笑うだけだった。
「―俺は」
母が毎日料理を作ってくれた窯に触れながら、十六夜が口を開いた。
「俺は、この村を簡単に壊せるけど、リリアは嫌なんでしょう?」
「―そうだな」
「なんか最初の心配と逆になっちゃったね」
はじめはリリアを止めるのが十六夜の仕事だったのに、と劉輝が笑う。確かに、とリリアは十六夜の顔に視線をやると、彼にしては浮かない顔だった。
「どうした?」
「なんか、ここ嫌い」
「気持ちはわからんでもないな」
浅葱が頷く。ため息を吐きながら適当な場所に荷物を下した。それに倣って、アストラスも床にテントや調理器具などを置く。
「全体的に調子がいいというか」
「リリア、他に話していないことはないか?予想より、ずっとお前はひどい扱いを受けていたように思う」
「ああ~」
シルビアが黒い瞳を怒らせてリリアを見る。リリアは言葉を濁すしかない。母は村から出られないよう、足に枷をつけられていたと話せばテオルドが殺されそうだとリリアは冷や汗を流す。
「ここがリリアの家だと知っていて用意したのか、偶然なのか」
アスランも家の中を厳しい表情で見渡している。
「上に二部屋あったから、テントと同じ組み合わせで分かれましょう?」
二階から戻ってきたルーシアがそんなことを言う。誰も反対しなかった。
「浮かない顔ね~」
「殺しそうな勢いで長を睨んでいたお前が言うか?」
「あら、バレてたの」
浅葱の言葉に、ルーシアは悪びれる様子もない。台所から何やら大きな壺を引っ張り出すと、水を汲みに行くと言って出ていこうとする。浅葱はため息1つその壺をルーシアの手から奪って担ぐ。
「お前のその細い腕じゃ無理だ」
「見た目よりは力あるのよ?」
「無茶はするなと言っている」
「念のため、私も行きましょう」
「じゃあ、俺も行く~」
アスランが同行を願い出ると、劉輝もそれについていった。それを見送って、リリアは手近にあった椅子に座る。お茶でも入れたいと思ったが、水はないし火をおこしたいなら薪を準備しなくてはならなかった。
各々が疲れたと思っていると、玄関の扉が開いた。ルーシアたちはもう戻ってきたのかと視線をやれば、それはあの口の悪い少年だった。
視線が痛いはずだろうに、気にした風も見せずにリリアとは向かいの椅子に座る。そして口を開いた。
「お前、なんなんだ?」
「なんだというのは?」
この少年の相手は疲れそうだと、リリアは思った。
「だって、じいちゃんが頭を下げるくらいに偉いんだろう?お前」
「そう思うならもう少し口の聞き方くらい考えろ」
シルビアがあきれたように少年の隣の椅子に座った。お守でもするつもりなのだろうか。
「あと、鬼の王様を殺すとかさ!あそこにるのは鬼の王様だぞ!この世の何より強いんだぞ!」
「―昔々、お前の祖父がその王様を怒らせるようなことをしてたと聞いたらお前はどうする?」
「まさか!だって、誰もあの城には近づかないんだぞ!どうやって怒らせるんだよ!」
「そこは私もよく知らないだがな」
椅子の前にあるテーブルに肘をつきながら、シルビアはリリアを見た。リリアはうなずく。
「お前はリリアが何なのかと問うたな」
「そうだけど?」
「リリアはその鬼の王の娘だ」
少年は目を丸くする。
「王って、どこかの村の長の娘ってことじゃなかったのか?」
「それならそのまま長の娘と言うだろう」
シルビアのあきれたような口ぶりに、少年はまた顔を赤くする。何か怒鳴りそうになるが、ぐっとそれを飲み込んだ。
「―それで、そいつが鬼の王様の子どもだったら何なんだよ」
「母親はこの村の人間だったのか?」
「ああ、生まれも育ちもこの村だ」
シルビアの問いに、リリアは答えた。シルビアは視線を再び少年に戻す。
「そういうわけだ、リリアの母はこの村の人間だったからリリアと母親はこの村に住んでいた。その時、お前の祖父たちはふたりに意地悪していたのさ」
「鬼の王の子ども産むような奴、追い出しちゃえばよかったのに」
「そうしてくれればことは楽だったんだがな」
リリアはため息を吐いた。頭痛でもするのか額を押さえる。
「母さまはまあ、ありていに言えば魔術師だった。誰かに教わったわけではないから、治癒の術しか使えなかったが」
「ちゆ?」
「怪我や病気を治すということだよ」
シルビアが教えてやる。そういえば、なんとなくことが見えてきたのか少年は押し黙る。
「―お前の察している通り、リリアと母親を村人は疎ましく思っていた、けれど治癒の力を手放したくもなかった」
「だから、村に住ませたけど、いじわるしてた?」
「そんなところだ」
よくできましたとでも言うように、シルビアはポンポンと少年の頭をなでる。少年の顔は少し青く見えた。
「―じゃあ、なんで鬼の王は俺たちを殺さないんだ?」
「―母さまが、それを望まないからだよ」
少年は分からないという顔をした。
「そもそも、父さまはこの村に悪意など持っていなかった。母さまと一緒に守るつもりでいた」
「鬼の王様なのに?」
「お前は、自分の大切な人の大切なものを壊したいと思うか?」
「―それは、どうだろう」
少年は考えるように目を伏せた。思ったより思慮深いのかもしれない。しかし、すぐに顔を上げるとまた攻撃してくる。
「ていうか、鬼の王様はお前の父ちゃんなんだろう?なんで王様を殺そうとしてるやつらと一緒にいるんだよ」
「それが私の望みだからだ」
「は?」
リリアは頭をかいた。全部を全部説明してやらなければならないのか。骨が折れる。
「鬼の王―鬼神は世界の秩序を担う者だ。その乱心は、魔の気を世界に振りまくことになる」
「ん?」
少年は分からないと首をかしげる。
「父さまは母さまの死を知った。村の中で幸せに暮らしていると思っていた母さまの躯は痩せ細り、血色も悪く、髪も傷んでいた。父さまは何故気づかなかったのか、なぜ城に母さまをさらってしまわなかったのか、きっと後悔している。そしてこの村を壊してしまいたい気持ちもきっとある。しかし、それを母さまは望まない」
「じゃあ、どうしたんだよ」
「―動けなくなってしまった」
「は?」
「己の部屋の寝台に母さまの躯を寝かせて、ずっと床に座り込んでいる。ずっと苦しんでいる」
リリアは静かな瞳で少年を射た。少年は居住まいを正す。
「だから、私は父さまを殺したい。母さまのところに逝きたいだろうに、鬼神の責務を捨てるわけにはいかない。だから、私は父さまを殺し、次の鬼神を立てる」
「―そんなのおかしいだろう!」
「何が?」
立ち上がった少年を見るリリアの瞳は冷たい。
「だって、まだお前がいるのに!」
「そこまで」
「わ!」
ずっと黙って聞いていた十六夜が動いた。近づいてくると、ひょいとリリアを抱えてしまう。
「リリアはもう疲れたから休む。後は自分の頭で考えて」
突き放すように言い残すと、十六夜は黒い長い髪を揺らして階段を上って行ってしまった。リリアも驚いてはいたが抵抗はしなかったから、そろそろきつかったのかもしれない。
十六夜はベッドにリリアを座らせると顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「―十六夜」
「なあに?」
十六夜は、柔らかく答えた。リリアはどこか遠い目をしながらこぼした。
「私は、間違っているのだろうか。お前を探さないで、父さまのそばにいたほうが良かったのだろうか」
「―リリアは間違ってない」
十六夜はリリアを抱きしめた。
「リリアが探してくれなかったら、俺はずっとあそこにつながれていた。そうなったら、リリアの父さまはずっと鬼神でいないといけなかった」
「―ああ、そうだな」
リリアは十六夜の腕の中で静かに涙を流した。
※
「分からないから聞いてるのに!」
自分で考えろと言われてしまった少年は、憤っていた。まあ、仕方ないかと隣のシルビアは涼しい顔だったが、アストラスは厳しい顔をしていた。
「なあ、少年。お前、名前は何というんだ」
「あ?」
「私はシルだ。あの鬼はラス。お前にだって名前くらいあるだろう」
「―ジーク」
「ジークか。なかなか雄々しい名前じゃないか」
しぶしぶ答えたジークの頭をわしゃわしゃとシルビアは撫でた。
「子ども扱いするな!」
「子ども扱いも何も、お前は子どもそのものじゃないか」
「なんだと!」
ジークをからかいながら、そういえばルーシアたちは遅いなと思うシルビアであった。




