超級編―国家を転覆させよう6
抜け道は意外と石で作ってあった。崩れないようにだろうか。
(ここが崩れたらさすがに私たちでも危険だ)
早く抜けてしまいたい。リリアは暗い闇の中で目を凝らした。といっても、十六夜には敵わなくても、鬼の目には普通に見えているのだが。
てくてくと明かりも持たずにふたりは歩く。空気はじめじめと湿っていた。壁に触れると、濡れているのを感じた。
「どうやって説得したんだろうね」
「さてね」
(扱い方を知っていると言っていたが、本当に何と言ったんだか)
少々疑わしいとリリアは思っていた。
(話が都合よく進みすぎている)
あのリィサが彼女の要望を飲まれない状況で鍵を渡すとは思えなかった。
(何かはあるのだろうが)
石畳がコツコツと鳴る。
「どんな国なんだろうね!」
後ろを歩く十六夜はワクワクしているようだ。十六夜にとっては何でも見るのも触れるのも初めてなものばかりだ。それは楽しいだろうと、リリアもついつい頬が緩む。
遠目に青い光が見え始める。近づくと、それは扉の形をしているのが見えた。
(あれが結界か)
リリアは鍵を取り出す。青く発光する扉はドアノブはなく、鍵穴だけがあった。ぜひ触ってみたいと思ったが、自分たちの存在が感知されるのは嫌なので、素直に鍵を差し込む。
かちゃりと音が鳴り、扉が滑らかに開く。
「本物だったんだね」
「まったくだ」
もしかしたら嘘かもしれないと、リリアも十六夜も思っていたのだ。鍵がきちんと使えたことに驚きと安堵を感じる。
結界を通り過ぎると上に一振動を感じるようになった。人の往来がある場所に出たのかもしれない。
(アズリルの街の下なのだろうか)
振動を感じ始めて数十分進めば、登るための梯子があった。それに手をかけて、ぴたりとリリアは止まった。後ろを振り返る。十六夜も同じもの感じ取ったようだ。
「人がいる」
「ああ」
十六夜はリリアに梯子から離れるように言うと、自分が先にゆっくりと登った。登ると目の前に扉が現れる。それをそっと押すと、同じような扉がたくさん並ぶ小部屋に出た。ひとまずここには何もいない。十六夜はリリアを手招きした。
「これは。ダミーの扉か、全部どこかの出口につながっているのか」
リリアはささやく。
「向こうに人はいるみたいだね」
十六夜も小声でリリアに話しかける。リリアはうなずく。そして、どうも人の気配がするほうが出口のようなのだ。
(リィサが使ったときは無人だったと言っていたが、今はだれか住んでいるのだろうか)
ふたりで壁に耳をつける。特段話し声は聞こえなかったが、確かに人の気配がある。
(立っているだけか?人間が?話もせずに?)
―待たれている。
直感した。
カチャリ
金属がぶつかる音がした。国境の兵士を思い出す。
(あれは確か鎧を着ていた―兵が待っているのか?だとしたらなぜバレた?)
リリアは考える。そして一つの考えに思い至る。
「はめられたな」
「どういうこと?」
リリアはちらと隣の十六夜の顔を見た。心底不思議だと顔には書いてあった。
「ベンドあたりが国境の兵士に密告したんだろう。私たちが捕まれば、きっと王のもとへ連れていかれるから」
「捕まったら王様のところに連れていかれるの?」
「だって、一人も鬼がいない国だぞ?」
「―連れていかれると、ベンドたちに良いことがあるの?」
「私たちが逃げるために暴れまわると思ったのさ」
十六夜はもう一度壁に耳をつける。そして言った。
「そんなに強くなさそう」
「振り切れそうか?」
「できると思う」
「数はそう多くはないな。姿は見られないに越したことはない。最初から全力で突っ切ろう」
「分かった」
2対の赤い瞳が闇に浮かび上がる。今から逃走劇が始まると思うと、ワクワクする。それは戦いのときのものとは劣るが、充分二人を興奮させるものだった。
「出るぞ」
「うん!」
十六夜はフードをかぶると壁を蹴った。くり抜かれていた壁は扉のように簡単に開いた。
「本当に来たぞ!」
「捕まえろ!」
そんな声がした。リリアと十六夜は待ち構えていた兵士の横をするりと抜けると、古い屋敷の廊下を駆けた。ここは二階らしい。
嘘か本当かわからない話に兵士はそんなに割かれなかったようだ。数が少ない。
「待て!」
後ろからガチャガチャと音がするが、人間の足が鬼の足に追いつけるはずがない。金属音は徐々に遠ざかっていく。
窓の外を見れば、遅れてきた兵士が玄関から入ってくるのが見えた。
「もうここから出てしまおう」
「分かった!」
十六夜はうなずくや否や窓に体当たりをする。ガシャーンと窓が割れ、十六夜は庭に下り立つ。リリアもそれに続いて、十六夜の隣に着地する。
「おい!外だ!中じゃない!」
「なんだと!」
「本当だ!」
一階から入った兵士に、二階で待ち構えていた兵士が怒鳴り声で伝達する。玄関から入ったばかりの兵士は後ろを振り向き長身と小さな影を見つける。
しかし、気づいたときには遅く、二つの影は庭の階段を飛び下りて行ってしまい姿を見失ってしまった。
「ちくしょう!なんて足だ!」
「人間じゃないみたいだったな」
「赤い光が見えたぞ」
「それより早く上に報告だろう!」
兵士は各々に地団駄を踏み、上司に報告するために詰め所に戻っていった。




