超級編―国家を転覆させよう5
男はベンド・マーラという名で、今は街で古本屋を営んでいるとのことだった。リリアは古ぼけた扉を開く。ちりんと客が来たことを扉についた鈴が知らせた。
「いらっしゃい」
初老と思われる男が出てくる。聡明そうな光が瞳にあった。
「ベンド・マーラか」
「そうですが」
「お前か?ユージの祖母に私たちのことを教えたのは」
そう問われ、男はリリアの手首にあるブレスレットを見た。後ろにいる十六夜のことも見る。そしてあきらめたように笑った。
「ええ、そうですよ。ここで立ち話はなんです、奥にどうぞ」
奥の、店主しか入れない部屋に案内される。小さなテーブルと椅子があって、そこに座るよう勧められた。ふたりは並んで座る。
「リィサばあさんに声をかけられたと言っていましたね。何から話しましょうか」
「あの老婆はリィサというのか。リィサだが、アズリルに入る地下通路を知っていると言ってきた。結界を解く鍵も持っていると」
ベンドは目を丸くした。
「鍵のことまで!」
予想を超えていたのか、ベンドはうつむき何やらぶつぶつと繰り返す。
「私はそれが本当なのか知りたい。また、リィサは私に王族の暗殺を依頼してきたが、それは受けることができない。しかし本当にその地下通路と鍵を使いアズリルに入れるなら入りたいんだ」
「―今のアズリルがどのような国になっているのかは誰にもわかりません」
ベンドはため息を吐いた。
「私たちは、貿易商をしていました。その護衛を鬼に頼んでいたのです」
「それで国を追い出されたのか」
「ええ、しかし生まれ育った土地だったので抵抗はしましたがね」
「中の様子がわからないとは?」
「入ることもほぼ不可能ですが、出ることも難しくなっているようですね」
「そういうことか」
(情報の統制でもしているのか?)
リリアは考える。思ったより面倒な国になっていそうだと眉根を寄せた。
「それで、おばあさんが言ってた鍵と道を使えば入れるの?」
「あの道が見つかり封鎖されていなければね」
「行ってみないとわからないんだ」
それは困ったと十六夜はリリアを見た。
「まあ、最悪侵入したことが見つかっても、国外に逃げ出せば兵は追っては来れないんだがな」
「お強い人は言うことが違う」
ベンドは笑った。十六夜もつられたのか笑う。
「―道を教えてもらうことは可能か?」
「―良いでしょう。この街の人間が不法に入ろうとしたからといって、このコーサス国にケンカを売れる国力はアズリルには無いでしょうから」
「鍵は?」
十六夜はそこが問題だと口をはさんだ。ベンドは首を横に振った。
「鍵はリィサが持っています。彼女から受け取らなければなりません」
「でも、お願いは聞けないよ?」
「そこが問題だな」
「―私が説得してみましょうか」
「できるのか?」
リリアは疑わし気にベンドを見た。
「ええ。腹いせに襲われては敵いませんから」
どこまでも静かなベンドの表情が胸につっかえたけれど、利用できるものはしなければと、リリアは飲み込んだのだった。
※
「これが鍵ですよ」
「あっさり手に入ったものだな」
「昔から知っているのでね。扱い方も知っています」
リリアはベンドに街の墓地で待つように言われていた。そこで落ち合うと、ベンドはリリアにリィサから受け取ったという鍵を渡した。
「抜け道はこちらですよ」
ベンドは案内する。街の集合墓地は、きれいに整備されていた。その一番右奥の小さな墓石にベンドは二人を導いた。岩壁の影になっていて目立たない場所だった。
「ここを」
ベンドは墓石を押す。石は重くなかなか動かない。十六夜が変わると申し出て、軽々と横に移動させてしまう。
「開いたね」
十六夜は梯子の付いている深い穴を見下ろした。リリアも感心している。
「ここを進んでいけば、アズリルの国境の町の館に出られます」
「助かった」
恩に着ると言えば、ベンドは穏やかに笑むだけだった。
「リリア、行こう!」
「お前、中に入ったらフードをかぶるのを忘れるなよ」
「そうだね!」
十六夜はリリアを先に行かせ、自分は次に入ると墓石のふたを閉めた。
「健闘を祈ります」
ベンドはにっこりと笑った。




