超級編―国家を転覆させよう3
「え~そんなことになってたの?」
翌朝ベッドから起きだした十六夜に老婆の話をすると、十六夜はそれは残念だという顔をした。
「それでどうするの?」
「老婆の鍵を使うのは、他に手段が見つからなかった時だ」
「じゃあ、別の手段を探すんだね!」
十六夜は外套を手に取り羽織る。ばさりと外套が巻き込んだ長い髪を外に出す。
(いくら酒に酔っていたとはいえ、十六夜は一回も目を覚まさなかった。あの老婆は少なくとも私たちに悪い感情は持っていないはずだ)
リリアも黒い袖のない上着を身につける。
「行くぞ」
「うん!」
ふたりは情報収集のために、街に繰り出した。
※
「図書館など久しいな」
リリアは広い部屋中に数えきれないほど立っている大きな本棚に胸を高鳴らせた。どの本棚にもぎっしり本が詰まっている。
リリアは図書館の館内図を見て、めぼしい情報が載っている本はどこにありそうか見当をつけようとする。
(地理か?歴史か?)
「わー読めない」
見れば十六夜が分厚い本を手に取りぺらぺらとめくっていた。リリアは十六夜の手元を覗き込む。確かに小さい字がみっちりと詰まっていて、十六夜にはまだ読めないだろうとリリアは思った。
「あっちに絵本がある。それなら読めんじゃないか?」
「行ってみる!」
「ああ」
本から情報を探すのに十六夜は戦力にならないから、暇をつぶしておいてもらおうと子どもたちがいる絵本コーナーにおいて行く。
(今は字を教えている余裕はない)
リリアはとりあえず歴史のコーナーに足を進める。そこには国内・国外問わず様々な国の歴史にまつわる本が置いてあった。
「隣国だから、コーサス国の本にも出てくるか?」
手始めに、ここ数年の歴史についての本を手に取る。
(鬼が追い出され始めたのが15年前だから―)
ぺらぺらと本をめくっていく。めぼしいページに行きつき、手を止める。
『アズリル王国からアイデン地方への難民流入について
アズリル王国で何らかの混乱が生じ、特にアイデン地方にアズリル王国から鬼が流入している。治安が悪化しており、何らかの対応が必要と判断される。』
(酒場の店主が言っていたことと変わらないな)
その「何らかの混乱」が重要なのではないかと、ため息を吐きながら本を閉じる。本棚に戻すと、隣を見れば「アズリル王国の歴史」という本を見つける。
「―これか?」
手に取ってみる。10年程前までの歴史が王国建立時から書かれている、とても厚い本だった。それを持って閲覧席に行く。まだリリアには大きい椅子と机だったが贅沢は言っていられない。本を開いて読む。
「唯一神リズナロを信仰する王族により統治されている―」
神に選ばれた王が云々言ってたなとリリアは入国を邪魔してきた兵士の言葉を思い出す。
「王族は、リズナロを信仰する信者でありながら、リズナロの血を引く現人神でもある。―どこの国にも同じような話があるものだ」
(国民の過半数も、リズナロ神を信仰していると)
「宗教色の強い国だったんだな」
気づかなかったと、一度は行ったことがある身として少々恥じる。
(まあ、はじめの方ばかり読んでいても意味はないだろう)
思い切り後ろまで飛ぶ。知りたいのは15年前のことなのだ。
「鬼は神聖なアズリル王国を汚すものとして、国外退去を命じられる。鬼と接触のあった人間も穢れとして国から排除された」
(なぜ突然、鬼は穢れとされたんだ?)
数ページ前と先も見てみるが、その疑問に答える内容はなかった。本を閉じようとすると、巻末に年表がついていることに気が付く。何とはなしにそのページを眺める。
(この国、1000年以上の歴史があるのか)
小さい国だから目立たないが、大層長い歴史を持っている。
「父さまの統治の前からこの国はあったのか」
へーと感心する。何か面白いことは書いてないかと流し読みをしていく。ふと、リリアは目を止めた。
「第一王女誕生。これが17年前。―近いな」
これが何らかのきっかけだったのかと考えるが、王女の誕生と鬼の迫害が結びつかない。仕方なくリリアは本を元に戻し、別の本を探しに行った。
※
「十六夜帰ろう」
結局分かったのは、あの竜神の川がアズリルにもつながっていて豊潤な水があること、多数の川が流れ込む国で水路が張り巡らされていること、鬼を追放後は厳重に結界が張られていることくらいだった。
「リリア!」
十六夜はプレイマットの上に子どもたちと座り込み、何やら絵本を覗き込んでいた。
(やはり、精神年齢は子どもなのだろうか)
「見てこれ!これにも黒い鬼が出てくるよ!」
「なんだと?」
リリアは眉をひそめて十六夜から絵本を受け取る。内容はこうだ。
「黒い鬼の姫は人間の王子と恋に落ち、王子の国へ嫁ぎ、幸せに暮らした―」
(父さまの前の鬼神の話か)
リリアも聞いたことのない話だった。相当昔の話だろう。絵本も色が落ちている。
「リリア知ってる?」
「いや、知らないよ」
「兄ちゃん帰るの~」
少年が十六夜の服を引っ張る。まだ一緒に遊びたいらしい。
「うん。俺行かないと」
「えー」
少女も不服そうに声を上げる。仲良くなったようだ。リリアは微笑ましくなる。
「悪いな。しかし、私たちは帰らないといけないんだ」
「ちぇー」
「また遊ぼうな!」
「またね」
子どもたちに十六夜は手を振る。子どもたちも手を振り返してくる。十六夜はうれしそうに笑う。
「何かわかった?」
十六夜は図書館と出てからリリアに尋ねてくる。
「そうだな。侵入するなら水路からだが」
「だけど?」
十六夜が続きを促す。
「結界が邪魔をする」
「壊しちゃダメなの?」
「壊すと侵入したとバレるだろう」
「バレちゃダメなの?」
「追われてしまう」
「倒しちゃえばいいじゃん」
「ははっ!」
鬼らしい発想に、リリアは笑った。目を細めて十六夜を見上げる。
「そう簡単にはいかないものだよ」
「そうかな」
「ああ」
リリアはうなずく。まだ日が沈む前だったけれど、調べ物で疲れたリリアは十六夜とまっすぐ宿に帰った。




