↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼神殺し―リリアと十六夜の物語―  作者: 水彩月子
―第一章―リリアの野望編
44/84

超級編―国家を転覆させよう2

「アズリルね~」


 居酒屋の店主は嫌な顔をした。ちなみに朱熹から美味しいお酒もあると教えてもらった十六夜は、いろいろ酒を試すようになっていた。今は西方の国から取り寄せたらしい蒸留酒を飲んでいる。


「15年前かな。前の王様が突然鬼を国から追い出したんだよ」

「前の王?王が代替わりした時ではなくてか?」

「ああ、今の王様になったのは確か5年前だ。でもその前から鬼はアズリルには入れなくなっていたよ」

「そうなのか」


リリアはジンジャーエールを傾けながら、店主の話に耳を傾けていた。


「でも、アズリルから追い出された鬼がこの辺にも押し寄せてね。一時期は治安がそりゃ悪かったんだよ」

「今はそんな様子はないが」

「俺たちも頑張ったんだよ。腕っぷしはどうやっても鬼には敵わないからよ、逆に鬼を民兵として雇ったのよ。それで万事解決だ」

「なるほど、鬼の悪さを鬼に止めさせたんだな」

「そういうこった」


店主は鼻高々という風にうなずいた。


(確かにこの辺りは鬼が多い)


見渡せばこの居酒屋も3分の1ほどが鬼だ。そのせいか、鬼用の強めの酒も置いてある。十六夜は蒸留酒の前はその酒をちびちびと飲んでいた。


(本当なら、私も酒が飲めるくらいには成長していて良いのだがな)


小さな手のひらをあきらめの表情で見つめる。酒など別にどうでもいいと思っていたのだが、十六夜がおいしそうに飲んでいるのを見ているうちに、自分も飲んでみたいと思うようになっていた。


(まあ、時々外れもあるようだが)


まずいと顔に書いてある時がある。それを思い出して、ふふとリリアは笑った。


「まあ、人間でもそう簡単には入れてはくれない。アズリルは避けていきな」

「ああ、そうすることにするよ」


リリアはスラリとうそをついた。無理やり国境を越えて入るつもりですなどと、誰が聞いているかわからない場所で言えたものではない。


リリアは勘定を払うと十六夜を連れて店を出た。会話に入ってこなかった十六夜は、案の定酒に酔っていて眠そうに首が揺れている。それを引っ張りながらゆっくりと歩く。


月が高く昇っていた。静かな夜だと思った。


「お嬢さん」


暗がりから突如声がかかった。視線は感じていたリリアは驚かない。半分寝ている十六夜を支えながら、影になっている場所に視線をやる。


老婆が、骨のような手で手招きしていた。


「アズリルに入りたいんだろう?道を教えてあげるよ」


無視しようとしたリリアだったが、持ちかけられた話が話だったため足を止める。それに老婆が笑ったのが分かった。相手の思い通りに動いてしまったことに機嫌を悪くしつつ、リリアは十六夜を引っ張りながら老婆に近寄った。


「私はね、国境が封鎖された後にアズリルから逃げてきたんだよ」

「その時の道が今も使える保証はどこにある」

「これだよ」


老婆は小さな鍵を取り出した。


「アズリルは外へつながる道を結界で閉ざした。常時閉ざしているということは、魔術師が直接貼っているんじゃなくて魔道具で塞いでいるんだ」

「その魔道具を止めるための鍵だと」

「そういうことだよ」


ひっひと老婆は笑った。リリアは目を細めた。


「その話が本当だという証拠は」

「ないね」


老婆は濁った瞳でリリアを見つめる。どうするんだい?と空気で尋ねてくる。


「―なぜそんな話を私に?」

「裏の世界では有名になっている。黒い主人と黒い鬼には気をつけろってね」

「…それがどうしたんだ」

「今まで裏の覇者は翡翠だった。それを殺した腕を見込んでるんだよ」

「腕を見込む?」


リリアは眉根を寄せる。それではこの老婆は何か依頼があると言うのだろうか。


「そうだよ。王と、その周辺に仕える者たちを殺してほしいんだ」

「クーデターでも企んでいるのか?」

「私は自分が生まれ育った土地に帰りたいだけだよ」

「ならなぜ出たんだ」


そう尋ねれば、老婆の様子が変わる。わなわなと細い体が震えだす。


「王族は、鬼を追い出すと同時に鬼と深い関係のあった人間も追放したんだ」


(これは長くなるな)


聞くのではなかったかな?とかくりかくりと揺れている十六夜を見上げる。


「私たちは抵抗したよ。私たちはアズリルの土地しか知らないんだから。そうしたら―」


わっと老婆は泣き出した。


「国は私たちを処刑し始めた!」

「そして命からがら逃げてきたと」


老婆はうなずいた。


「国を出ていかない鬼と、鬼と交友のあった人間は殺された」

「なぜそんなことを?」

「知るわけないだろう!」

「とりあえず、鍵をやるから復讐の代理で王族を殺して来いということだな」

「やってくれるのかい?」


老婆はリリアの手に自分の枝のような手を絡めた。肌はカサカサに乾燥していた。


「―私が、その鍵だけを手に入れて逃げるとは思わないのか?」

「私はあんたのような強い奴を待ってたんだ!今まで色んな腕利きを自称する奴らを見てきたけれど、みんな大したことのない奴だった」

「翡翠を殺したからか?」

「おまえさんは、まだアズリルに入ることをあきらめていないだろう?鬼も、鬼と親しい人間も殺されると知っても。目を見ればわかるよ」

「まあ、確かにアズリルは通りたい」


リリアは考える。この老婆の話は嘘か真実か、真実のつもりで話している偽りではないか、疑うべき余地はたくさんある。


(引き受けたふりをして鍵だけ手に入れるか?その鍵も本当に使えるのかわからないのに?)


さすがに王族に手を出すのは危険だ。賞金稼ぎが賞金首になる可能性がある。


「―時間が欲しい」

「私は毎晩ここにいるから、その気になったら話しかけておくれ」

「助かる」


(この街でアズリルについて調べられるだけ調べていこう)


老婆は最後の手段だ。そう結論を出して、リリアはすっかり寝てしまった十六夜を引きずり宿まで帰った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。