上級編―集団行動をしてみよう7
「ちゃんと獲物持ってきたのね」
偉い偉いとでも言うように、朱熹が暗がりの中で微笑んだ。十六夜は満足そうにうなずく。
「なんだかんだタカラベの刀を手に入れたんだな」
「桜花っていうんだよ」
朱熹の隣に控えるジェドの言葉に、十六夜はそう答えた。
「ンなことはどうでもいいんだよ」
街から外れた廃墟と、そこを出入りする人や鬼をにらみつけながら穂村がうなった。それに面々はまたかとでも言うように肩をすくめる。ラドリアと白磁だけがびくりと体を震わせたのだった。
(白磁はともかく、それでいいのかラドリア)
一番後ろに控えているリリアには全員の姿がよく見える。十六夜はリリアから離れ朱熹と一緒に前に張り付いていた。
(獲物を試したくて仕方がないのだろうな)
リリアはふっと笑みをこぼして、さて、と考え始める。
(場所は街外れの廃墟)
視線を仲間からさらに前に投げると、そこには確かに出入りする者がいる。
(今日昨日で作った拠点でもなさそうだ)
と思いつつ、リリアは不思議だと思考を続ける。
(ならず者がこんなに近くにいるにしては、街は荒れていない)
となると
(街を荒らすことは目的ではないということか)
だとすると
(思ったより以前から狙われているということか?)
穂村が今日になって翡翠の居場所をつかんだが、リリアは掴まされたと思っている。己が名乗った次の瞬間の出来事だ。
(こちらがあちらを狙っているように、あちらもこちらを狙っているのは簡単に推察できる)
問題は、再びいつから狙われているかということだ。こちらが先手を取っているつもりだったが、案外踊らされているかもしれない。
(慎重に、行かねばな)
そう考えながらも十六夜を見つめて浮かべる笑みは、どこまでも好戦的だった。
※
(さすがは翡翠の首を狙うだけあるということか)
三匹の鬼とその主は、ばっさばっさと翡翠の手下だと思われるゴロツキを倒していた。その手腕は確かなもので、今のところスムーズに建物内に侵入し進んでいる。
(といってもただの正面突破だがな)
それで問題ない面子だった。むしろ意外だったのは十六夜だった。襲ってくるものは蹴り飛ばすなり殴り飛ばしたりはしているが、自分から仕掛けにはいかないし、むしろ視線が定まらず落ち着きがないようだった。
(さっきまで元気だったんだがな)
何か変なものでも食べさせたのだろうかとリリアは今日一日のことを思い出す。振り下ろされた棍棒をひょいとよけながら決める。
(心当たりはない。本人に聞くか)
「いー」
「十六夜!」
十六夜。そう呼ぶ前に穂村の怒号が飛んだ。
「てめえ持ってきた獲物抜かないとかどういうつもりだ!」
めずらしく泣きそうに顔をゆがめる。
「だって!桜花が翡翠以外切りたくないって!」
「何わけわかんないこと言ってやがる!!」
その会話でリリアは合点がいく。
(桜花とは、鬼にしては優しい心根の持ち主だったらしい)
まだあの刀に魂が残っているのだとしたら、桜花が切る者をえり好みしている可能性は十分ある。
(翡翠への恨みと殺意はあるが、それ以外への敵対心はないと)
「十六夜、問題ない。素手で殺せ」
「おい!」
「そうする!」
リリアが穂村に怒鳴られながら許可を出すと、十六夜の瞳は一気に紅に染まった。ダンと地を蹴り肉薄すると首を鷲掴みし、胴を蹴り飛ばす。十六夜の手にはきれいに首だけ残った。
「鬼らしい残忍さだな」
ひゅ~とジェドが口笛を吹きながら茶化すように言った。リリアは静かに笑みを深める。
「本当は獲物など要らなかったんだがな」
「言うな」
「あんまり穂村を刺激すること言わないでくれる?」
ラドリアが小さく二人の会話に入ってくるが、それは少々遅かった。ダンと穂村が大剣を床にたたきつける。ちなみに、敵はきれいに蹴散らしてある。
ずんずんと十六夜に近づくと穂村はその胸ぐらを掴む。
「なめた真似するじゃねえか」
空気がぴりつく。ラドリアは口をパクパクとさせ、白磁が震えてシルアの後ろに隠れる。十六夜は赤い瞳のまま、穂村の手に己のそれを重ねる。
「邪魔しないで」
ぐっと力を籠めると、痛みに穂村の手が離れる。その足を払い巨体を倒すと、穂村から離れ壁から現れた敵の心臓をその腕で貫く。
「悪いな」
これは場を乱してしまったとリリアは謝る。さてどうするかとリリアは考える。ちらと3人の鬼を見るが、確かにそれぞれ武器を手にしている。
穂村は大剣を、朱熹はレイピアを、白磁は意外にもグローブを。
(鬼の里の鬼たちは素手だった気がする)
格の差か?浅葱も腰に差してはいたが使っていなかった記憶がある。
(まあ、あいつは指揮者だからな)
それは置いておいて。リリアはここでは足並みをそろえさせることにしようと、視線を改めて十六夜に向けた。黒い髪が舞っていた。
「十六夜」
呼べば、赤い瞳のまま振り返る。なんだとその顔に書いてある。
「おいで」
十六夜は、後ろから襲い来る敵のあごに蹴りを決めてから帰ってきた。
「なあに?」
「ここは皆で協力しなければならない。一人で突き進むのは良くないな」
「ーごめんなさい」
自分以外の鬼が固まっていることに気づいて、小さく謝罪の言葉を口にした。
「だーかーらー」
どろどろと声を低く這わせながら、穂村が立ち上がる。一応仲間から足払いを受けたのが衝撃的だったらしい。
「あるなら獲物を使え!」
「倒せてるなら武器でもそうじゃなくてもいいじゃない」
朱熹がこの場を収めようとしているのかどうどうと両手を持ち上げる。白磁はシルアの後ろで小さくなったままだ。
「でも、桜花は翡翠しかー」
「仕方あるまい」
リリアは両手を伸ばすと、己の魔力で長剣を作り出した。刃から時々パチパチと雷がこぼれる。その雷ですら魔力と同じ赤黒い色なのが見る者を不思議な気分にさせた。
「初めからそうしろよ!」
「他人に貸すのは難しいんだ」
「魔術師にも魔術師の理由があるんだよ」
珍しくラドリアが穂村をなだめる。しかし、その瞳は少々恐ろしそうにリリアを見ていた。
(小娘が己の力を形にして人に譲り渡すなど、信じられぬだろうな)
それは上級者である証拠であった。この、魔力に色を持つこと自体が力を証明している。だから、人の前では力を使いたくなかったのだ。
(いや)
「後々見せつけるつもりだったか」
「?」
リリアの言葉にシルアが首をかしげたが、何もないと首を横に振り十六夜に長剣を渡した。
十六夜は掲げて刃まで赤い剣を見る。パチパチと小さく音を立てる剣に、十六夜は落ち着きで黒くなり始めた瞳を再び鮮血の色に染めた。ちろりと唇をなめる。
「リリアの剣」
「思う存分やれ」
「うん!」
十六夜は赤い瞳できらきらと笑った。




