上級編―集団行動をしてみよう1
血が、舞った。
彼女のその名にふさわしく、その様は花弁が散っていくようだった。
それを自分はただ茫然と見ていることしかできなかった。彼女の体が頽れていくその向こうに、にたりと笑った緑の鬼がいた。その鮮やかな色と、下卑た笑みが頭から離れることはなく、己はのうのうとここまで生きた。
無謀にもとびかかった自分を、あの鬼は殺さなかった。その後に襲い来る苦しみに歪むその顔を待っているとでも言うように、あの男は己を殺さなかったのだ。
そしてそれは望み通りとなり、己は今もただ苦しみ続けている。苦しみ、もがき、死ねず、そして願わずにはいられなかった。
「あの鬼の首をここにー」
そう頭を抱える男のもとに、客人が来たのは久方ぶりのことだった。
※
「リリア、髪切りたい」
「どうした突然」
とある街の観光中、リリアは足を止め、十六夜を振り返った。十六夜は長い前髪をつまんでいた。
「前髪だけならいいぞ。後ろは妖力をためる場所だから駄目だ」
「大丈夫、邪魔なの前髪だけだから」
「そうか」
十六夜は外套のフードで顔を隠さなくなった。少し悔しいのだが、十六夜をさらった魔術師が何やら影響を与えたらしい。
「どこか、髪が切れるところはないかな」
リリアが店を探し始める。十六夜はその小さな背に続く。そして理髪店を見つけて、そこに十六夜を預ける。すぐ終わると言われたが、待つのが面倒でリリアは一人街に出る。
十六夜には悪いかと思いつつ、後から連れてくればいいと言い訳し、いろいろと買い食いをした。そろそろ理髪店に戻ろうかとしたとき、10代中頃と思われる少女たちとすれ違った。
「さっきの人、旅人さんかな」
「ああ、背の高い人でしょう?」
「耳見たら鬼だったよ」
「かっこよかったね」
「黒い髪が似合ってたよね」
珍しい色だよねーという言葉をリリアは聞いていなかった。
(あいつ、何目立って―っ!)
十六夜は理髪店の前で待っていた。料金はリリアが先に払っておいたから、あれは単純にリリアを待っている。
女性的だと思っていた顔は、前髪を程よく切れば案外男らしいのだと思った。整った顔をしていて、伏せられた目は長いまつげが影を落としていた。
(あれ?十六夜ってこんな感じだったか?)
「あ!リリア!」
リリアが十六夜の変化に戸惑っていると、十六夜がリリアに気づいて走り寄ってくる。子犬がしっぽを振るようににこにことリリアの前に立つ。
「あ、えーと、似合うな?」
「本当?お店の人もそう言ってくれた」
「そうか」
店員に先を越されてことが何となく面白くなくて、リリアはつっけんどんに答えてしまう。
「リリア、俺がいない間に何食べたの?美味しそうな匂いがする!」
「あ?ああ悪い」
でも、お前もつれていこうと思ってたんだよ?そう言うと、十六夜は瞳を輝かせた。そしてリリアの手をつかむ。
「どこ?早く連れて行って!」
期待に輝く顔に、リリアは自分がむくれていたことが馬鹿らしくなってくる。
「ふふ。―こっちだ」
リリアも笑って、十六夜の手を引いて街を案内した。




