中級編―賞金首を捕まえてみよう8
「よくもやってくれたな」
手品師は十六夜を蹴りつけた。服は汚れるが、堪えているようには見えない。手品師の男はそれに舌打ちする。
十六夜がおとなしく蹴られたのは理由がある。昨晩男がさらってきた子ども3人が人質にされていた。男の仲間が子どもたちに刃物を突き付けている。迷いのない空気から、十六夜が何か動けば間違いなく子どもを殺すだろう。
「まさか、窓の結界を壊すとは」
「案外弱かったよ」
「うるさい!」
怒鳴られて、十六夜は両眼を閉じる。昨日の笛と言い、なんだか耳に負荷をかけている気がする。
「笛で操れるからと甘く見積もりすぎた」
男はぶつぶつと何やら文句を垂れながら歩き回る。時折パキリと音がするのは、床から剥がれ落ちた素材を踏みつけているからだ。十六夜は息を吐いて、適当な椅子に腰かける。
ここは街から外れた廃教会だ。ぼろぼろのそれに、基本人は寄り付かない。屋根にも穴が開いていて、ところどころから日が差し込んでくる。
(ここ最近は、ずっと晴れだ)
そろそろ雨かと思ったが、空気はからりと乾きそんなそぶりは見せていない。
(気づいたらここにいた)
子どもたちを連れて裏道を歩いていた十六夜を襲ったのは、あの耳をつんざくような笛の音だった。動けなくなり、すぐにきっとまた操られると思ったから子どもたちだけ残してその場を立ち去った。
(ちゃんと、戻れたかな)
十六夜は片足を抱えた。
「これからどうするんだ、アルバ」
「子どもを逃がした。笛のこともバレるだろう」
手品師の男を、仲間はアルバと呼んだ。アルバは思案した。
生業は人身売買。行く先々で手品師をしながら標的を見繕う。アルバの笛の音は子どもにしか聞こえない。そして、子どもしか操れない。だから、今まで誰にもバレずに仕事ができてきたのだ。それが、今回の一件でパーだ。
アルバは八つ当たりするように十六夜を睨みつけたが、十六夜は気にする風もなく足をぶらぶらさせながら空を見上げていた。それにさらにいら立ちが募る。
(人質がいる分、攻撃はしてこないだろうが)
だからといって、十六夜はアルバたちを恐れているわけではない。まあ、鬼が人を恐れること自体ふつうあり得ないのだが。
そこで、ある考えが思い浮かび、アルバはにやりと笑った。
「その余裕、消してやるよ」
十六夜は、やっとアルバの顔を見たのだった。
※
リリアは宝石店を訪れていた。水晶を手に取り眺めていると、店主が話しかけてくる。
「お客様は魔術師なんで?」
「いや、鬼使いだ」
「はあ、お相手の鬼はどちらに?」
「―今は少し遊びに出ているよ」
冷たい笑みに、店主はびくりと震えた。
「この水晶、1ダース欲しい」
「1ダースですか!?」
店主はまた飛び上がった。これほど羽振りの良い客はそういない。しかし在庫はあったか。店主は従業員に確認してくるように指示を出した。
「そういえば、いなくなった子どもたちが見つかったようですな」
「ああ、全員ではなかったようだがな」
(確か、あの男の息子は見つかっていないようだったし)
いなくなったのは先月のことだった。もう売られてしまったのかもしれない。
「はあ。きれいな服を着せられていて、どうやら売られるところだったらしいですな」
恐ろしいことですと店主は首を横に振った。
「見る人間によっては、人間すら売り物ってことさ」
「そうですな」
そんな会話をしていると、ぱたぱたと店員が箱を持って駆けてきた。店主はその箱の中身を確認すると、リリアに見せる。確かにそこには1ダースの水晶が入っていた。リリアは満足げに笑う。
「充分だ」
すでに敵を捕らえた時のことを想像しているのだろうか、笑みは黒く、辺りの空気をズンと冷やした。店主と従業員はぶるぶると震える。
「助かった。金はこれで足りるか?」
金貨を数枚出す。店主は冷や汗をかきながらぶんぶんと首を縦に振った。
「少し多いくらいです」
「では釣り分は受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
「世話になったな」
リリアは店を後にした。




