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鬼神殺し―リリアと十六夜の物語―  作者: 水彩月子
―第一章―リリアの野望編
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中級編—賞金首を捕まえてみよう3

「この宿の近くに、笛吹でも住んでいるのか?」


宿で昼食をとりながら、リリアは女将に聞いてみた。女将ははてと首をかしげる。


「笛吹かい?ラッパなら持っているのはいるがね」

「あの音はラッパではなかったな」

「笛がどうかしたのかい?」

「いや、昨日の夜聞こえてきたものだからね」


ちょっと気になったんだ、とリリアは話を終わらせた。


「笛の音が気になるの?」

「お前が倒れても起きなかったんだぞ?何かある」


食事中でも十六夜はフードで顔を隠している。食べにくそうだとリリアは思っている。


「俺、何かあったらすぐ起きるのに」

「そうだろう?」

「うん」


リリアに言われて、十六夜もおかしいと思い始めたようだ。


「少し外を歩こう」


情報がまだ少ないと、リリアは十六夜にそう提案した。十六夜は残ったパンをぺろりと平らげると、立ち上がる。


「行くでしょう?」


リリアもリンゴジュースを飲み干して立ち上がるのだった。



ふたりは街を歩く。リリアは書類を見て、いなくなった子どもたちを確認していた。


(性別や住所には関連はなさそうだな)


頬を指先でたたく。


(話を聞ける状態だろうか)


子どもがいなくなり、きっと多くの関係者から話を聞かれているはずだ。疲れ切っているかもしれない。


「きゃあああああああああああああああ!」


突然の甲高い悲鳴に、リリアと十六夜は両耳をふさいだ。頭にガンガンと響く。涙がにじむ目を開けると、女を人質にしている男が見える。ほどなくして警官が追い付いてくる。


(あれに追われていたのか)


逃げきれなくなり、通りの女を人質に取ったのだろうとリリアは読んだ。


「落ち着け!」

「要望はなんだ!」

「その人を離すんだ!」


警官が説得を始める。


「足だ!足を用意しろ!」

「馬を連れて来い!」


逃げる手段を男は確保したいようだ。当然と言えば当然だった。警察も一応言うことを聞くことにしたらしい。


「リリア、あれは何をしているの?」


十六夜がフードが飛ばされないよう抑えながら尋ねてくる。リリアは説明してやる。


「悪いことをすると捕まるだろう?」

「うん」


このあたりのことは教えたことがあった。


「あの男は悪いことをして逃げていたんだが、逃げきれなくなったんだ。関係のない者を巻き込み、危害を加えられたくなかったら自分を逃がせと言っている」

「迷惑だね」

「そうだな」


「何見てるんだ!あっちに行け!」


男の声が響く。たくさんのやじ馬たちが足を止めていて、男はそれに取り乱しているようだった。警察が離れるように指示を出し始める。聴衆は距離をとり始めるが、それでもこの騒動を見ようと人だかりは大きくなるばかりだった。


「見るなと言っているだろうが!」


男にはわずかばかりの魔力があったようだ。隠していたナイフを浮かすとそれらを飛ばす。途端にあちらこちらから悲鳴が上がった。


ナイフが一本、リリアに向かって飛んできた。リリアはそれを止めようと結界を張る準備をする。しかし、その必要はなかった。十六夜が素手で掴み止めてしまったからだ。


(まずい!)

「十六夜!」


呼んだ時にはすでに遅し、十六夜は男に肉薄していた。赤い瞳が男を射る。男は突如現れた青年にヒッと悲鳴を上げた。十六夜は男の腕をつかむ。男はナイフを取り落とし、解放された女はヘロヘロとその場に座り込んだ。


十六夜は足を払うと男を背負い投げして地面に押し付けた。


「リリアに何するの?」


突然のことに誰も動けない。この状況で動けるものはただ一人。


「十六夜」


リリアが十六夜の肩にポンと手を置く。


「そいつは警察に渡して、行くぞ」


リリアの言葉に固まっていた警官たちが仕事を始める。男を警察に引き渡して、リリアは十六夜を連れてそそくさとその場を去った。



「悪目立ちするのは良くない」


リリアは十六夜をそう注意した。十六夜は不服そうだ。


「でも―」

「私たちは追うものだ。目立っては獲物に見つかってしまうだろう?」


そう言えば少しは納得したようで、十六夜は口をつぐんだ。


「あんた、鬼使いかい?」

(ほら来た)


なるべく騒動から遠ざかったつもりだったが、ふたりを見かけたものがまだいたようだ。


「そうだが」


かかった声にリリアは答えた。リリアに話しかけてきた男の手は、小刻みに震えていた。


「息子を。息子を探してほしい」

「名前は」

「アッシュ・ランデンだ」


リリアは役所でもらった紙を見る。確かに男が言う少年の名が書いてあった。姿を消したのは先月のことだ。


(都合が良いといえば良いか)


「そのことについて情報が欲しい。話は聞けるか」

「ああ」


男はふたりを家に招いた。裏道に面する家は少々日当たりが悪かった。男の妻がお茶を出してくれる。


「朝起きたら、すでにアッシュはいなかったんだ」

「部屋もきれいなままで、荒らされた様子はありませんでした」


男と妻はそう説明した。


「家出をした可能性は?」

「お金も置いていったままだったので、それはないかと」

「ふむ」


リリアは考える。


「どんな小さなことでもいい、変わっていたことはないのか?」


ふたりは押し黙る。必死に思い出そうとしているのだろう。リリアは待つ。リリアの隣で十六夜がどこかのんきにお茶を飲んでいた。


「―鍵が」

「鍵?」

「窓の鍵が開いていました。もうそろそろ涼しくなるから、開けて寝る必要はなかったと思うんですけど」

「窓の鍵―」


リリアは十六夜をちらと見た。


(こいつも窓に近寄っていたな)


「窓から出ていったのかとも思ったのですが、あの子の部屋は3階ですし」

「人の子が下りるには少々高いな」

「ええ」


妻はうなずいた。


「ちなみになんだが」


リリアはコホンと咳払いをした。


「アッシュがいなくなった夜、奇妙な笛の音を聞かなかったか?」

「笛か?」


男はまた記憶に検索をかけているようだ。目を閉じている。しばらくしてその目が開いた。


「いや、俺は笛の音なんて聞いたことはない」

「私もです」


「そうか」


読みが外れてリリアは少々肩を落とす。これ以上いても、情報は増えそうになかった。


「何か思い出したらまた話を聞かせてほしい。東の宿に泊まっている」


それだけ言い残すと、リリアは十六夜と男の家を去った。


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