037話(最終回) ただいまの場所
ひとまずの最終回となります。
ありがとうございます。
ヴォルカン消滅の翌朝、王宮前広場は未曾有の興奮に包まれていた。
ノヴァン・ド・オルドーさまは、集まった貴族、兵士、そして不安げな民衆を前に、高らかに宣言した。教皇庁の反対も、イリアス卿の戸惑いも、その圧倒的な聖君としてのカリスマでねじ伏せた。
「現王が不在である今、このノヴァンが『一日国王代理』として全権を掌握する」
(オルドーおよびリヴァース両軍の報復を恐れたアレクシスは、一時的に王都からの逃亡を図っていた)
――一日国王。
それは、この国の歴史上、最も短く、最も苛烈な専制統治の始まりを宣言するものだった。
主さまは、シルヴィア・フォレスト(=オレな)を国防の要に、ヒューゴ・ラウレルを法務・内政の顧問に据え、文字通り不眠不休の二十四時間で数十の法令を書き換えた。
そしてさらに翌朝。
「――本日、王制を廃止する。これよりこの国は、民が自らの代表を選ぶ『民選議会制』へと移行する」
またもや王都に衝撃が走った。当然、事前相談なんて何も無い。教皇庁の重鎮たちが「神への冒涜だ!」と叫び、こっそり舞い戻っていたアレクシスが「そんなデタラメを認めるか!」と血走った目で抗議したが、主さまは冷ややかに言い放った。
「認める必要はない。……私が今日から『王』でなくなるように、あなたものただの人間になり、これからはお互いに「選ばれる側」になる。――ただそれだけだよ、アレクシスさん」
◆◆
一ヶ月後。
主さまが制定した「新憲選挙法」に基づき、初の国政選挙が行われた。
アレクシスは、自らの血筋と王族が有していたコネに固執し、豪華な馬車で王都を行進。「有難く拝聴せよ。高貴なる余に跪け。それがお前たちの救いだ」と、高飛車演説を繰り返した。
だけれど。市民は、もはやかつての羊ではなかった。
ノヴァンさまたちが配った平易な言葉での政情説明の号外、そして何より、自分たちの手で未来を変えられるという希望を説いた街頭演説。それが予想以上に効いた。
「……開票結果が出たよ」
執務室でヒューゴが、呆れたように一枚の書類を放り出した。
アレクシスの得票数は、全市民2万人のうち、王都全域で50票。彼を支持したのは、特権を捨てきれない没落貴族たちと教皇庁トップたちだけだった。
対するノヴァンさま(が推薦した、現場叩き上げの文官たち)への支持は、全票の7割を超えた。
開票所の前で見かけたアレクシスは、石を投げつけられる……なんてことは無かったが、市民らから「邪魔だから、どいてくれ」と、路傍の石のように扱われていた。
「なぜだ……! 余は……余はっ、パーフェクトキングのはずだッ!」
彼の悲鳴は、お祭り騒ぎの歓喜にかき消された。
◆◆
選挙結果を見届けたオレらは、王宮の裏手にある小さな修道院に集まっていた。そこはかつて、ベアトリクスさんの修道院があった場所で、仮ながら急普請で再建したところだった。
「……本当に構わないんですか、ノヴァンさま。今のあなたなら『初代大統領』にだってなれただろうに」
足を組み、カップに口をつけながら颯爽と微笑む我が主さま。
「まだ分からんのかい、サニー。私はただ、みんなが笑える場所を作りたかっただけだ。……政治は、この世界の人たちが自分たちでやっていくべきだ」
「うんうん同感だね。ボクも『歴史の教科書』を編纂する仕事で手一杯だ。……それに」
ヒューゴが、新しくなった枕をポンと叩く。
枕にプリントされた二人の魔法少女。
一人が空を舞い、もう一人はドアを開けて「ただいま」と笑っている。
そのポーズは、かつての帰還への渇望ではなく、今この場所が、自分たちの「帰るべき場所」になったことを示していた。
「また絵柄が変わったんじゃないか、これ?」
「……日本に帰れば学校通い、部活で青春の毎日だ。それもまた良しだけどさ。ここはここで割と楽しいよね」
「部活? お前そんなに熱心だったっけ?」
「ここでは、真っ白いキャンパスのように自由に描くことが出来る、過去に囚われない未来がたくさんある」
ノヴァンさまのしたり顔が可笑しく、オレとヒューゴがクスクスと肩をすくめた。
「なんだ? 言いたいことがあるなら言え。雑巾がけを命じてやる」
――窓の外からは、新しい時代の産声を祝う鐘の音が聞こえてくる。
もう、時を戻す必要はない。
死を覚悟して戦いに臨む夜も、孤独な決断に迫られる修羅場もない。
「さてと。明日からは対等な友だちとして、この世界を楽しもうか」
「なるほど。サニーはそれがしたいのか。ふーん」
「め、め、滅相もないでゴザイマス!」
三人で、新しくなったマクラを取り合いつつ、ごろ寝した。
朝陽が差し込む部屋に、つい声を出したくなった。
「……ただいま」
「……ああ。おかえり」
ケラケラ笑うヒューゴが妙に面白くて、つい、つられて笑った。
お終い。
ここで本編は終わりですが、次回に付け足しの回、要は蛇足となりますが、後日談的なエピソードを加えましたので掲載されたらぜひご一読ください。




