035話 贄
あと少しで完結となります。
◇ヴォルカン・マッツの視点
まったくイライラする。予定が狂い始めてるわ。
私の感覚だと、サニーのお嬢ちゃんはまだ遠征先でダラダラと攻城戦を続けてるはずだった。なのに、あり得ない速さで王都付近まで戻ってきている。
それに「ヒラグモ」。--魔装飾器の暴走が止まらない。おかげで私の屋敷が吹っ飛んじゃったし、もうサイアク。
異世界間の門を抉じ開けてくれるこの子だけど、手に伝わってくる振動は、まるで飢えた獣。せっかく与えた魔力をガツガツ無遠慮に食いつぶしている感じ。
これじゃもう間に合わない。エネルギー切れで「門」が閉じちゃったら、この肥溜めのような世界に一生閉じ込められることになっちゃう、絶対そんなのイヤ!!
「……ノヴァンさま。アンタたちを殺す美しい順番を考えてたけど、別にもう、どうでもよくなったわ」
過去の周回の時、私はノヴァンの身体を調べ尽くした。結果、奴が「燃料」そのものを持っていないことは分かっている。奴が持っていたのは、燃料を引き寄せる「人としての資質」。例えて言えば、人を引き付ける引力のような、強烈で可愛らしい、とても魅力的な「魂」。
ま、それでいいのよ。
「燃料」にならないなら、「魂」そのものを高純度の魔力へと転化すればいいだけ。
ノヴァンを囮にし、駆けつけてくるであろうサニー嬢ちゃんとメガネの小僧もろとも、まとめてこの『ヒラグモ』に喰わせてあげるだけ。
「--やられる前に、やるのよ」
あの日、錆びついた非常階段から突き落とされた瞬間に誓った殺意。
あの時、私の指を蹴り上げた連中と同じ顔を、今、この世界すべてがしているように見える。
大事なヒラグモに自らの心血を注ぐため、私は修道院へと足を踏み出した。
◆◆
◇ノヴァン・ド・オルドーの視点
修道院の空気が、キィィィィンと耳鳴りのような音を立てて凍りついた。
……このイヤな感覚、知っている!
心臓が跳ねる。全身の産毛が逆立つような、圧倒的な殺意と魔力の高まり。
すでに二度の死。断頭台、そしてアレクシスの目前で。
私の意識を奪う直前に世界を白く染めた、あの「予兆」だ。
「――ベアトリクス、伏せてッ!!」
私は彼女の細い肩を抱き込んで、床へ転がった。刹那、修道院の正面扉が、内側から激しい光に貫かれて粉砕された。熱線の余波が私の頬を焼き、立ち込める砂塵が視界を奪う。
「あら。……今のを避けるなんて、あなたやはりホンモノね?」
煙の中から現れたのは、ヴォルカンだった。
その胸に抱えられた代物――魔装飾器は、まるで狂った野獣のように赤黒い光を点滅させている。そしてヴォルカンの顔には、これまでの余裕は微塵もなかった。追い詰められた妖魔のような、歪んだ焦燥だけがそこにある。
「これは私の宝物、魔装飾器【ヒラグモ】。紹介してたかしら?」
「ヴォルカン……! 貴様が、何故……!」
「相変わらず無礼な言い方ね。日本行のチケットには定員があるの。あなたたちはただの燃料。大丈夫。三人まとめて、私の帰還のお手伝いをしてもらうから」
ヴォルカンが魔装飾器を前方に突き出す。
私は、震える膝を叩いて立ち上がった。
見えているぞ。奴が攻撃のトリガーを引くタイミング、続いてヒラグモなるものが奇妙な放電を始める角度。積み重なった「死の記憶や恐れ」が逆に助けになり、私の脳内で回避ルートを導き出していた。
◆◆
「もっと飛ばせ! 壊しても構わないッ!!」
イリアスが叫ぶ。彼の『鉄騎大隊』が誇る超高速移動体――複数の馬に牽引された軽量軍用馬車が、夜の街道を文字通り飛ぶように駆けていた。
王都近郊の村々では、異変を察知した人々が次々と窓を開け、何事かと戸外へと飛び出していた。
「おい、見ろ! 修道院の方が……!」
「空が燃えてるのか!?」
夜中だというのに、戦争と勘違いして避難する家族や、丘の上へ駆け上がる野次馬たちが、遠目から修道院を見守っていた。そこでは、夜の闇を切り裂くような白銀の閃光と、不気味な赤黒い光が激しく明滅を繰り返している。
「あれだ! 修道院だ!」
ヒューゴが指差す先で、修道院の礼拝堂が激しい爆発と共に瓦解した。
「間に合え……間に合えよッ!!」
壁を突き破り、馬車から直接飛び出したオレは、爆煙渦巻く礼拝堂へと滑り込んだ。
銀髪が風になびき視界が開けた先。そこには、ヴォルカンの熱線を紙一重でかわし続け、満身創痍ながらも立ち尽くす主さまの姿があった。
「ノヴァンさまッ!!」
「……サニー!」
オレは主人さまの前に割って入り、腰の剣を引き抜いた。背後からはイリアスが精鋭を率いてヴォルカンを包囲し、ヒューゴも冷静な眼差しで、奴の掲げる魔装飾器を見定めている。
「……あくまで僕の推察だが」
ヒューゴが低く、相手を観察するように声を上げた。
「あの魔装飾器、無理やり空間の位相差を魔力エネルギーに変換している。おそらく現世へのルートを安定させる為に片っ端から燃料を食って魔力を出しているんだ。でも、そんなことを続ければ――」
「おい秀才メガネ! 解説は日本語でしろ! それと手短に!」
我ながらイラチのオレ。
「……チッ。つまり、ヴォルカンのヤツ、日本に帰るためだけに人の命を魔装飾器に与えてやがるんだ。ついには『出入り口のドア』までぶっ壊して、それを薪にして燃やし出してるってことだよ! そんなことしたら、もう二度と日本に帰れなくなるぞ!」
「うるさいわね、分かってるわよ生意気メガネ! だったら、あんたたちの魂を使ってまた『新しいドア』を作ればいいだけの話なのよ!」
ヴォルカンが魔装飾器とか言う物を自らの胸元で抱え込み、全出力を解放した。
何となくヒューゴのマクラに似ているなと呑気に頭によぎった。
空間がグニャリと歪み、修道院の巨大な石畳が重力を無視して浮き上がる。
「まとめて食べられちゃいなさいッ!!」
咆哮と共に放たれた極太の熱線が、室内を白銀の地獄へと変える。
「主さま、オレの後ろにいろ! イリアス卿、盾を構えろ!」
オレは背中に張りつく希の体温を感じながら、剣を正眼に構えた。イリアスの重装盾がジリッジリッと熱線に焼かれ、火花を散らす。
次回予告
「みんなぁ、サニーだよーっ! ……って、え? ちょっと待て、今回……終わりっぽい空気じゃねぇか!?」
えーっとォ、台本台本……読むぞ!?
「激闘の果て、ひとつの別れ――」
……ッ。
(小声)……あいつ、帰れたんだな……
――って、しんみりしてる場合かオレ!? 続きあるだろこれ!!
「だが、戦いはまだ終わらない――」
だよな!! 終わるわけねぇよな!! 主さまの戦いはこれからだ!!
「王都に残る最後の因縁、その名は――」
来たな……アイツかよ……!
「揺れる運命、交錯する想い――」
だから難しい言い回しやめろって! でもさ、要するにアレだろ!?
主さまを巡って、全部ぶつかるってことだろ!?
……いいぜ。
誰が相手でも関係ねぇ。
主さまの隣に立つのは――オレだ。
――ハッ!? も、もう締め!? 予告になってんの、コレ?
次回、
『帰還の果てに――最後の敵と、揺るがぬ想い! 主さまを巡る最終決戦!!』
ぜーったい、見逃しちゃダメなんだからねっ!
――愛のゴールに弾丸シュートォ!




