20.光
レオンハルトはふらつくエミリアを支えてソファに座らせた。
「これが白い炎か!」
マーベリーはキラキラした瞳で、破壊された箱を繁々と見つめた。
「なるほど、この辺りに残っていた瘴気も消え失せてる。これはすごいな」
とその時、突然、空間の一部が歪んだ。
「来るぞ」
マーベリーはそれまでのウキウキした表情を真剣な表情にガラッと変えた。
何もなかった空間から突如、茶色の髪と瞳の特徴のない男が現れた。
あの気味の悪い男!
なんでここに!
エミリアは目を見開いた。
「ジュクト、久しぶりだな」
マーベリーが厳しい表情のまま言った。
「お久しぶりです。魔術師長殿」
ジュクトは無表情で感情が読めない。
「折角張ってある結界をすり抜けてくるとは、相変わらずのようだ。で?なんの用だ」
「あの白く眩い光は、やっぱりエミリア嬢か」
ジュクトはニヤリと笑った。
エミリアはレオンハルトの背の陰でピクリとした。
あの男はなんで私に絡んでくるの!
レオンハルトは黙ってジュクトを睨みつけている。
「あの光は光属性の魔法だよね。魔術師長殿」
無表情だったジュクトが嬉しそうに言う。
光属性⁉︎
まさか、私が光属性の魔法を?
光属性の魔法は聖属性の魔法より更に珍しく百年以上その使い手は現れていない。
「何の話だって惚けてもいいが、お前相手じゃ意味がないな。あれは光魔法だな」
マーベリーはあっさり認めた。
「それより、ジュクト、お前禁忌の魔法陣を使ったな」
「あれはなかなかいい出来だっただろう?」
ニヤリと不気味に笑う。
「わざと魔物を発生させるなんて、最悪だ。お前には捕縛命令が出てる」
「簡単に捕まるわけないだろう」
空間が歪む。
ネイトは咄嗟にジュクトが逃げられないように、捕らえにかかる。
あっと言う間に捕らえて、魔法を無効にする枷をつけた。
しかし、歪んだ空間からは大きな熊のような魔物が現れた。
大きい!
こんなのを召喚するなんて!
「エミリア、逃げろ。今の体力じゃ無理だ」
レオンハルトが剣を構えた。
確かに今のエミリアは、さっき魔力をごっそり使ったばっかりでまだ回復していない。
でも、走って逃げられる自信もない。
捕縛したジュクトをネイトは蹴飛ばして、魔物と対峙する。
次の瞬間、氷、風、炎と魔法が入り乱れ、剣でも斬りつけるが、あまり効果が見られない。
部屋は既にボロボロだ。
本当に私に光魔法が使えるなら…
残っている、魔力を指先に集め、白い炎を思い浮かべる。
指先から白い眩い光が溢れて、魔物に向かっていく。
お願い!消えて!!
倒れる瞬間、抱き止められる。
「また無茶をして」
レオンハルトの呆れたような声が聞こえた。
チュンチュンチュン
どこかで鳥の鳴き声がする。
目を覚ますと朝日が部屋に差し込んできている。
ここは…どこ?
如何にも上質な柔らかい布団に、上質な家具。
見渡すと椅子に座ったまま、眠っているレオンハルトを見つけた。
レオン様?
近くにある水差しからコップに水を入れて、水を飲むとちょっと頭がすっきりしてくる。
そろりとベッドから降り、レオンハルトに近づく。
レオン様の初めての寝顔だわ。
エミリアは嬉しくなって、近づいて下から覗き込んだ。
整った顔に黒髪がキラキラして、朝日に輝いている。
綺麗…
エミリアがうっとりと見つめていると、突然手を引かれてレオンハルトの上に倒れ込んでしまった。
そのままぎゅっと抱きしめられる。
「レオン様?」
戸惑うエミリアに
「エミリアは無茶してばっかりだな」
耳元で言われて、思わず、ゾクっとする。
「えっと、ごめんなさい?」
「絶対、分かってないな」
耳元で喋られるとゾクゾクする。
ちょっと離れようとするが、がっちり抱え込まれていて抜け出せそうにない。
「ちょっとじっとしていて」
今度はため息混じりに言われる。
どうしても抜け出せそうにないので、そろそろと手をレオンハルトの背にまわした。
「心配かけてごめんなさい」
レオンハルトはより一層ぎゅっと抱きしめた後、ちょっと体を離すと
「ありがとう、エミリア。愛してる」
優しく言った。




