19.3つ目の箱
甲高い悲鳴に会場が騒然となった。
何が起こったのか分からないながらも、会場から我先にと逃げ出す人で出入り口がごった返す。
「テラス…」
エミリアはさっきの気味の悪い男の言葉を思い出していた。
「エミリア!」
腕を掴まれて振り返ると、レオンハルトだった。
「レオン様!何があったの?」
「いや、まだ確認できてない。テラスの方みたいだな」
みんなが逃げてくる方向を見て、厳しい顔をした。
やはり、あの男の言っていた余興ってこと?
エミリアはさっきの気味の悪い男のことをレオンハルトに説明した。
「それは例の魔法陣を描いた奴かもしれない」
「レオン!魔物だ!」
今日は会場の警備に当たっていたのか近衛の騎士服に身を包んだネイトがレオンハルトに報告に来た。
剣を手にレオンハルトがテラスに向かおうとして、予備の剣をエミリアに渡した。
「エミリアも来い。一人にしておく方が心配だ」
レオンハルトの物なので、エミリアが普段使っている剣より重たいが振れない程ではない。
テラスまで来ると、多くの人はすでに避難していて、残っているのは騎士ばかりだ。
次から次へと魔物が出てきている。
「やはり、あの箱と同じだな」
レオンハルトは向かってくる魔物を斬り倒して行く。
その先には一ヶ所から濃い瘴気が出てきているのが見てとれる。
「それなら、箱を破壊しないとですね」
エミリアが破壊する気満々で言うと、
「いや、ちょっと待て」
レオンハルトが止めた。
「私が瘴気を祓います」
いつからそこにいたのか、ニーナが現れた。
夜会には参加してなかったはずなのに。
ニーナが魔力を使って瘴気を祓っているが、魔力が足らないのか、祓い切れず、すぐにまた瘴気が溢れてくる。
「なんで?なんで祓えないの⁉︎」
ニーナが焦ったように言った。
そんなニーナを押し退けて、レオンハルトが瘴気の塊に向けて氷の魔法を使い、箱を氷漬けにした。
瘴気の発生が止まったので、残る魔物を倒し、とりあえず、この場はおさまった。
ニーナは事情聴取の為に近衛騎士に連れられて行った。
「この箱を魔法師長のところへ持って行ってくれ」
「分かった」
レオンハルトの指令にネイトが頷くと、箱を抱えて走って行った。
エミリアはレオンハルトに守られていた為、一度も使うことのなかった剣を返した。
その後、レオンハルトは怪しい男の身柄確保を指示して、エミリアを振り返った。
「俺たちも魔法師長のところへ行こう」
「君が噂のエミリア嬢だね。私は魔法師長のマーベリー・レクトだ。よろしく」
魔法師たちが研究を重ねている研究棟の師長室を訪ねると、30代半ばの赤い髪を後ろで無造作に結んだ背の高い男が軽い感じで出迎えた。
「エミリア・ランガスターです。お会いできて光栄です」
ゆっくり挨拶している場合ではないだろうとエミリアは短く済ませた。
「魔法師長、例の箱はどうだ?」
レオンハルトは気になることを早速尋ねた。
「とりあえず、周りに結界を張ってある。前の物と同じ魔法陣だな」
箱の話を始めると、マーベリーは真剣な顔つきになった。
「この魔法の気配は、ジュクト・ヘランクリンで間違いない。以前、ここにいた男だ」
「王宮魔法師だった人なのですか?」
王宮魔法師は魔法師のエリート集団だ。
そんな人が禁忌の魔法陣を使うなんて!
「ジュクトは魔法馬鹿で歯止めが効かず、禁忌の魔法に手を出してクビになったんだ」
マーベリーは苦り切った顔をした。
「とにかく、箱は破壊しておいた方がいいだろう。マーベリーには破壊できるのか?」
レオンハルトが訊くと
「この魔法陣は破壊を弾くし、ちょっと時間がかかりそうだし、エミリア嬢にやってほしいんだけど」
マーベリーは期待に瞳をキラキラさせながら、エミリアを見た。
エミリアはそのあまりのキラキラに若干引きながらも、頷いた。
「分かりました。ここでやっても大丈夫なのですか?」
「結界を張るから大丈夫。思いっきりやっちゃって」
ニコニコして、受け合った。
レオンハルトは心配そうに見たものの、
「剣を使うか?」
と剣を差し出してくれた。
エミリアは頷いて剣を受け取った。
剣に炎を纏わせる。
魔力を一気に流し込むと炎の色が白く変わり、眩しく光った。
その剣をそのまま箱に突き立てた。
ガッ
箱が破壊された。
ふらつくとエミリアをレオンハルトが抱きとめた。
「大丈夫か?」
ふらつくものの慣れてきたのか、今回は何とか気を失うことはなかった。




