18.夜会
夜会の会場に入った途端、あまりの眩しさに俯きそうになるのを何とか堪えて、真っ直ぐ前を向いた。
エミリアは夜会に何度も出席したことがあったが、こんなにも緊張したのは初めてで、微笑を貼り付けながらも、指先が震えてくるのが止められなかった。
レオンハルトは自分の腕にかけたエミリアの手を、大丈夫だと安心させるように握った。
チラリとレオンハルトを見ると優しく微笑んでいる。
ほっと息をついて、力を抜くと震えが止まった。
レオンハルトとの婚約が発表されると、年頃の令嬢達やその親からの鋭い視線に晒される。
レオン様は王弟で英雄で、さらに鍛え抜かれた体に整った顔立ちで令嬢たちの憧れなんだから、当然よね。
相手がルーカス様から婚約破棄された私なんだから、余計に納得できないんだろう。
レオン様の足を引っ張らないようにしないと。
エミリアは決意も新たに淑女の仮面を被り直した。
国王陛下と王妃様のダンスの後、他の人たちもダンスを踊り出す。
レオンハルトに促されてエミリアも会場の中央で踊り出した。
レオンハルトのリードは力強く、とても踊りやすい。
「今日のエミリアは格段に綺麗だな」
耳元で囁かれて、一瞬ピクリと肩を跳ねさせたエミリアだがすぐに、元の微笑を浮かべた。
「ありがとうございます。レオン様はいつも凛々しくていらっしゃるけど、今日は優美さも加わって眩しいくらいですわ」
ふっと笑ったレオンハルトは
「魔物討伐しているエミリアは凛々しかったけど、今は誰よりも嫋やかな女性に見えるよ」
愛おしそうに見つめた。
優雅に踊るレオンハルトとエミリアは美しい絵画のようで、皆うっとりと見つめた。
そして、愛しそうにエミリアを見つめるレオンハルトを見て、いつもの冷徹な表情しか知らない貴族たちは驚いていた。
踊り終わると我先にと次々に、内心はともかく、お祝いの言葉をかけにやってきた。
伊達に何年も王子妃教育を受けていた訳じゃないのよ。
嫌味や当て擦りをさらりと躱していく。
それぞれの領地や特産の話を巧みに織り交ぜながら、話の流れを誘導していく。
気がつくと、皆領地の特産を売り込めた満足感でにこやかに立ち去って行った。
それも一通り済んで、漸くひと息吐いた時、
「エミリア」
よく知る声がした。
「お兄様!来てたの?お義姉様も」
領地で別れて以来のマーカスが妻のマリアと共に立っていた。
「何とか間に合ったよ。レオンハルト殿下、エミリア、ご婚約おめでとうございます」
マーカスとマリアはにこやかに二人の婚約を祝った。
「ありがとう、お兄様、お義姉様」
さっきまで嫌味っぽい祝辞ばっかりだったので、エミリアは心からのお祝いの言葉に胸がいっぱいになった。
レオンハルトが国王に呼ばれたので、エミリアはマーカスと一緒にいるように言われて、そちらに向かっている時、これといった特徴のない茶髪に茶色の瞳の30才くらいの男が声をかけてきた。
「エミリア嬢、お久しぶりです」
笑っているのに目が笑っていない、ちょっと気味の悪い男だった。
久しぶりと言うからには会ったことがあるのだろうが、エミリアには記憶がなかった。
「ごめんなさい。どこかでお会いしたことがあったかしら?」
「覚えておられないのですか」
悲しそうな表情は作っているものの、全然悲しそうじゃない。
何だか気持ち悪い。
「ごめんなさい。ちょっと呼ばれていますので」
早々に立ち去ろうとすると、
「テラスで余興があるので、見てくださいね」
ニヤっと男が笑った。
あまりの気味の悪さに慌てて、その場を離れた。
その直後。
キャーっ
女性の甲高い悲鳴が響き渡った。




