16.幸せ
「お嬢様!いつまでぼーっとしているんですか!」
アメリが呆れた顔をしながら言った。
「ぼーっとなんてしてないわよ。普通よ、普通」
幸せな記憶の世界から一気に現実の世界に戻ってきたエミリアはちょっと気まず気に目を逸らした。
「はいはい。分かりました。じゃあ、さっさと準備して下さい。殿下がお見えになっちゃいますよ」
王都の屋敷に戻って来て、3日経った。
あの後、レオンハルトたちも一緒に王都に向かってくれて、無事に屋敷まで帰ってくることができた。
そして今日、レオンハルトがランガスターの屋敷に訪れると連絡があった。
レオンハルト殿下はプロポーズしてくれたけど、陛下やお父様は許してくれるのかしら?
婚約破棄されたのはひと月ほど前。
こんなに幸せを感じる日が来るなんて思ってなかった。
自由になれたのは嬉しかったけど、それだけでは埋められないものがあったのだ。
エミリアはそわそわしながら、レオンハルトの訪れを待っていた。
「エミリア嬢、元気そうで何よりだ」
エミリアの出迎えにレオンハルトは嬉しそうに頬を緩めた。
だが、まずは一緒に出迎えに出ていたランガスター公と話があると言って二人で執務室に篭ってしまった。
それから1時間程経った頃、ようやくエミリアに声がかかった。
「殿下に庭を案内して差し上げなさい」
父のユリウスの勧めで庭にテーブルと椅子を設置してお茶を飲むことになった。
「1ヶ月後に、王宮で夜会がある」
レオンハルトの唐突な言葉にエミリアは目を瞬かせた。
「俺の婚約者として一緒に出てほしいんだ」
隣に座ったレオンハルトがエミリアのを手を取った。
剣を振るうちょっとごつごつした大きな温かい手に包まれて、エミリアは頬を赤く染めた。
「陛下にもランガスター公にも許しを得た。婚約しよう、エミリア」
真摯に請われて、恥ずかしげにしながらも、
「はい。レオンハルト殿下」
しっかりと頷いた。
「これからは殿下じゃなくて、レオンと呼んでくれ」
恥ずかしがるエミリアにレオンハルトはちょっとにやけながら言った。
「レ、レ、レオン様」
吃りながら呼ぶと、次の瞬間にはレオンハルトの腕の中にいた。
「これからエミリアのことは俺が守るから」
「私もレオン様をお守りします」
エミリアはレオンハルトの胸に顔を埋めた。
「エミリアが守ってくれるのか。それは心強いな」
レオンハルトは嬉しそうに笑った。
レオンハルトはそっと体を離すと、エミリアの唇にそっと口づけをした。
「幸せになろう」
その後、とんとん拍子に婚約を交わし、夜会当日。
侍女たちに徹底的に磨き上げられたエミリアはレオンハルトから贈られた淡いラベンダー色に金色のレースをあしらったドレスを身に纏った。
アクセサリーにはダイヤとブラックダイヤが輝いてる。
銀髪を結い上げ、化粧を施されたエミリアを見て、侍女たちは、
「すごく綺麗です。殿下も惚れ直すのでは」
と、うっとりしたように言った。
使用人たちも皆、エミリアの婚約破棄という不幸には胸を痛めていたので、今、幸せに輝くエミリアを見て、感激も一入だった。
時間通りに現れたレオンハルトは黒髪を後ろに撫で付け、貴族の着る正装を隙なく着こなしていた。
レオンハルトは恥じらいながら現れたエミリアに目が釘付けになった。
「今日は一段と綺麗だな」
ふっと笑うと手を差し出した。
「さぁ、行こうか。俺のお姫様」




