15.狙われる理由
「ブリスギン男爵?」
ニーナのお父様?
なんで?
ルーカス様の婚約者だった時なら、まだ分からないでもないけど、婚約破棄された今、私がいてもいなくても変わらないのでは?
ルーカス様はニーナを選んだのに?
レオンハルトはキョトンとしているエミリアから気まず気に目を逸らした。
もしかして、私が知らないだけで、何かあったの?
「領地に籠ってから、みんな私に気遣って王都での噂を耳に入れないようにしてくれていたんですけど、何かあったのでしょうか?」
「ルーカスはエミリア嬢との婚約がなくなった時点で
王太子候補から外れた」
エミリアは想像していた通りの展開なので、軽く頷いた。
「そうなるでしょうね。大体、ルーカス様はそうなることを望んでいた気がするのですが?」
ルーカス様は王位には興味がなかったと思う。
というか、重責に押し潰されそうになっていた気がする。
「ルーカスはそうだな。だが、ブリスギン男爵やニーナ嬢は違ったんじゃないかな?」
「それは…」
「男爵令嬢のニーナ嬢と結婚しても、王太子にはなれない。それは分かっていたはずだ。では、どうするのかだ」
レオンハルトは一旦言葉を切った。
苦虫を噛み潰したような顔をして話を続けた。
「ニーナ嬢は聖女の力があると言われている。実際、瘴気を多少は祓えるらしい。その力を最大限に使う気だったようだ」
ようやく話が繋がった。
「それがあの箱だということですね。瘴気を祓って我が家に恩を売って、そのまま後ろ盾に据える気だったということですか?」
レオンハルトが頷いた。
「箱が破壊できないと瘴気はまた流れ出して、魔物を呼び寄せる。ずっと聖女の力が必要になるんだ。恐らく箱は他にも用意されていて、他の領地でもこの後には置かれる予定だったと思う。王家が聖女を無視できないようにする為に」
「なんですか。その計画は。婚約破棄されるずっと前からの謀略ってことですよね?」
魔物の異常発生は婚約破棄より随分前から起こっている。
ということは、ニーナは王妃の座を最初から狙ってルーカス様に近づいたと見る方が自然だ。
エミリアは婚約破棄を言い出した時のルーカスを思い出していた。
ニーナのことを愛してるって言ってた。
たとえ、王位から逃げ出したかったにしても、その気持ちには嘘がなかったと思う。
「それは、ルーカス様には辛いことになりますね」
長年、同志としてやってきたルーカスの行く末を思うとちょっと胸が痛む。
「エミリア嬢はルーカスのことを恨んでないのか?」
意外そうに尋ねた。
「私の中では終わったことなので、恨んではいません。正直、あの厳しい王子妃教育が無駄になったのは、ちょっと悔しいですけど、今は自由が手に入ったのだから感謝してもいいかなって思うくらいですよ」
穏やかに微笑むエミリアにレオンハルトはほっとした顔をした。
「だから、箱を破壊した私が狙われたっていうことですね」
ようやく、得心のいったエミリアが頷いた。
「いや、今は箱の破壊は魔術師長がしたことになってる」
また分からなくなってエミリアは戸惑う。
「じゃあ、何故私は狙われたのでしょう?」
「それは…」
レオンハルトが少し言い淀んだ後、思い切ったように言った。
「俺がエミリア嬢と結婚したいと言ったからだ」
え?結婚?
誰と誰が?
エミリアの思考は一時停止してしまった。
レオンハルト殿下が私と結婚したいと言ったの?
言葉の意味を理解し始めると、徐々にエミリアの顔が赤くなった。
「やっと自由になったエミリア嬢には申し訳ないが」
レオンハルトが跪いた。
「どうか、この手を取って、この先の人生を共に歩いてほしい」
レオンハルトから差し出される手。
プロポーズ⁉︎
レオンハルト殿下が私に結婚を望んでくれるの?
叶うはずがないと思っていた。
レオンハルト殿下と共にある未来。
エミリアの目からポロリと一筋の涙が溢れた。
「はい。よろしくお願いします」
エミリアはレオンハルトの手を取った。




