13.襲撃
「僕も一緒に行ければいいんだけど、今は森の様子も気になるし、ちょっと領地を離れられないんだ。気をつけて行くんだよ」
心配するマーカスに見送られながら、午前中に領地の屋敷を出発した。
今日のエミリアはアメリと共に馬車に乗っている。
前後には馬に乗った護衛が8人付いている。
「思ったより早く王都に戻ることになっちゃったわ」
「用事が済んだら、また、領地に戻ってもいいんじゃないんですか?」
「そんな簡単にいけばいいんだけどね」
エミリアはなんだか嫌な予感がして、不安だった。
あれから、ルーカス様はどうなったんだろう。
興味もなかったし、知りたくもなかったから、全く動向を知らなかった。
ニーナと結婚するのかしら?
今となっては、お幸せにって感じね。
考えに耽っていると、急に馬車が止まった。
「えっ?もう今晩の宿に着いたのかしら?」
予定より大分早く、何か予定外のことが起こったらしい。
外が男たちの声で騒がしくなってきた。
「お静かに。ちょっと様子を見てきます。お嬢様は大人しくここにいて下さい」
アメリは外をチラリと覗くと、颯爽と馬車を飛び出して行った。
暫く馬車の中で大人しくしていたエミリアだが、喧騒は止むどころか、剣がぶつかり合う音まで聞こえてきた。
襲われてる!
どうしよう⁉︎
馬車の中で大人しくしてろって言われたけど、アメリたちに何かあったら!
ちょっと考えた後、馬車の外をこっそり確認する。
そこには、護衛たちよりもはるかに多い人数で襲って来ている賊がいた。
エミリアは咄嗟に馬車の近くまで迫って来ていた男を蔓をのばして拘束した。
そして携帯して来ていた剣を手に持ち、思い切って馬車から飛び出した。
近くにいる賊をとにかく薙ぎ払った。
人数が多い!
馬車ひとつ襲うのになんでこんな大人数で…
考える間もなく襲ってくるので、兎に角魔法で蔓を伸ばして、賊を拘束しながら、残った賊を剣で斬りつける。
元々、エミリアは魔法は得意だが、剣の腕はそこまでではない。
でも、こんな風に敵味方が混戦しているところでは、炎の魔法は使いづらい。
腕が疲れてから、剣を振るうのが辛くなってきた。
もう、一気に燃やしたい!
エミリアがヤケになってきた頃、前方から馬が何頭か走って来た。
馬上には軍服を来た男たちがいる。
レオンハルト殿下!
目を見開いて棒立ちになったところに、隙を見つけた賊が剣を振り上げた。
間に合わない!切られる!
エミリアは痛みを覚悟して、思わず目を瞑った。
何かが耳元を掠めていった気配を感じたが、いつまで経っても痛みはない。
恐る恐る目を開けると、目の前には氷の矢が刺さった男が倒れていた。
レオンハルトたちが加わったことで、あっという間に賊は倒されていく。
レオンハルトがエミリアの元まで馬で駆けつけてそのままエミリアを抱え上げた。
「大丈夫か?」
向かってくる賊を倒しながら、エミリアの耳元で言った。
ひゃっ
抱き上げて耳元で喋るなんて!
精神的攻撃を受けて、エミリアは別の意味で撃沈した。
なんとか真っ赤になりながらもこくこくと頷く。
そうしている間に、賊は全て制圧された。
賊の身柄は近くの街の警邏に任せて、逗留予定のホテルに入ってようやく落ち着いた。
レオンハルトたちも同じホテルで逗留することに決めていた。
お風呂に入って、血や埃を落として、ようやくひと心地ついた頃、レオンハルトが部屋を訪ねて来た。
レオンハルトもシャワーと着替えをしたらしく、白いシャツに黒のズボンの軽装だ。
髪がまだ湿り気を帯びているのか、いつも以上に髪が艶やかだ。
男の色気を感じて、エミリアは顔が赤らんでしまった。
更に先程の馬上での密着具合を思い出して、悶えそうになるのを淑女の仮面の中になんとか押し込める。
なんでもないような顔をして、向かいのソファに座ったレオンハルトの分もアメリにお茶を用意してもらう。
「今日は本当にありがとうございました。助かりました」
レオンハルトたちが来なかったら、賊を全部制圧できたか、分からない。
感謝しかない。
「でも、どうしてこちらに?」
たまたま行き合ったのでは出来すぎている。
「今日、領地を出たと聞いて嫌な予感がして来たんだ。来てよかった」
ほっとしたようにレオンハルトが言った。
「こっちでちょっと刺激したから慌てて行動を起こしたのかもしれない」
「それは犯人に心当たりがあるってことですよね?森に箱を置いた人物と同一人物ということですか?」
お兄様といい、レオンハルト殿下といい、犯人の目星はついているらしい。
「まだ今日の襲撃犯からの事情聴取は済んでないが、時期的に見ても恐らく同一人物だろう」
「その人物が誰かは教えてもらえるのですか?」
エミリアはマーカスも教えてくれなかったので、あんまり期待しないで訊いてみた。
「今日の襲撃はエミリア嬢を狙ったものだ」
やっぱり⁉︎
予想していたとはいえ、ちょっとショックを受けた。
「今まで、ルーカス様関連で狙われたことは何度かあるのですが、婚約が破棄されたにも関わらず何故今また狙われるのかしら?」
悄然としてしまったエミリアに
「まぁ、色々理由はあるが」
ちょっと言いにくそうに言葉を切った。
「エミリア嬢が襲われた以上、知っておいた方がいいだろう。恐らく犯人はブリスギン男爵だ」




