12.束の間の平穏
はーっ
エミリアは今日何度目になるか分からないため息をついた。
「お嬢様、幸せが逃げますよ」
アメリの冷静な指摘に口を尖らせる。
「どうせ、もう幸せは逃げちゃったんだから」
レオンハルトが王都に戻ってすでに二週間が経った。
あれから何の連絡もない。
別に婚約者でも恋人でも友達でもないんだから、連絡が無くても普通なんだけど、なんだか寂しい。
胸にぽっかり穴が空いたみたい。
一緒にいた時間は短いのに、漆黒の艶のある髪や煌めく金の瞳を思い出すとくすぐったくて切ない。
この気持ちは恋?
物語にあるあれなの?
思い至ったエミリアはベッドにダイブして足をバタバタさせた。
私はルーカス様に婚約破棄されて、言わば傷物令嬢だし、レオンハルト殿下は王弟で尚且つ英雄。
はーっ
再びため息をついた。
あれから、魔物の発生は確認できていない。
やることのないエミリアは気を紛らわすことも出来ず、ため息ばかりついていた。
コンコン
「エミリア、話があるんだけど」
マーカスの声だ。
慌ててベッドから降り、ソファに座った。
「どうぞ」
エミリアが言うと、扉を開けてマーカスが入って来た。
「随分、暇してるみたいだね」
エミリアの向かいのソファに座りながらマーカスが苦笑いした。
「こんなにすることがないのは初めてかもしれないわ」
エミリアはルーカスの婚約者に選ばれてから、来る日も来る日も王子妃教育や勉強に明け暮れていて、ほとんど自由な時間がないのが常だった。
「まだ外に出ちゃ駄目なの?」
ランガスター家が狙われていると分かってから、エミリアはなるべく外に出ないようにと言われているのだ。
退屈だから余計なこと考えるのよね。
「あれから何か分かった?」
「そうだね。犯人の目星はついたけど、まだ証拠がね」
「えっ?犯人分かったの?誰?」
期待しないで言ったエミリアは驚いた。
「言ったでしょ。未だ証拠がないから、もうちょっと待って」
粘っても口を割らないだろうことは、長年一緒に過ごして来たエミリアにはよく分かっていたので、不承不承諦める。
「じゃあ、話って?」
「魔法師長がエミリアの魔法について知りたいらしいよ」
思ってもみないことを言われてエミリアは目を瞬かせた。
「魔法師長が?また何故」
「例の箱を破壊したやつだろうね」
そんなに珍しいことだったのか、得心がいかないながらも話の続きを促した。
「今、魔法師長は王都から出られないらしいんだ。だから、エミリアに王都に来てほしいって。全く、勝手だよね」
「王都に…」
王都を離れて約1ヶ月。
「父上からも今後について話したいことがあるって」
「お父様が…」
領地ではエミリアの耳に噂話を入れないようにしていて、どんなことになっているのか分からない。
表情の曇ったエミリアを見てマーカスは慌てて言った。
「悪い話じゃないと思うよ。王都での噂も落ち着いて来たし。そんなに心配しなくて大丈夫だよ」
マーカスは優しくエミリアの頭を撫でた。
「分かった。明日、王都に戻るわ」
「それより、今は王都に向かう間の方が心配だ。護衛をいつもよりたくさん連れて行ってくれ」
過保護なマーカスにエミリアが笑った。
「心配性ね。私は魔法が使えるし、結構強いのよ」
「それでもだよ。エミリアは大切な妹だからね」
マーカスの言葉にエミリアは胸がいっぱいになった。
「ありがとうございます。お兄様」




