一兆編 第九話 ゼロカラースタート
「何とでもいいなさい、この現実は変えられはしないのだから」
羽田はマアヤを人質に取った。
「・・・やーいやーい、卑怯者~、お前の母ちゃんでーべーそ」
俺は棒読みな馬鹿っぽい罵声を浴びせる。
「なにそれ」
「お前が何とでも言えっつったから」
羽田は俺を頭のおかしい奴のような目で見る。
「まぁともかく、てめぇ俺の弱点が死体だって?誰がそんな事言ったんだよ」
「言ったわよ、いや・・・あなたがそれを感じてるんじゃないかしら?親殺しの一兆君?」
こいつ・・・俺の過去まで、だがな・・・
「はぁ・・・で?それがどうしたの、正直な話、この状況になっちまったんじゃ、俺はマアヤを切り捨てるだけだ、マアヤにはわりぃけど」
「何だと!?貴様!どういうつもりだ!!」
こんな事を言うと案の定乗っかるのはカヤノだ。とりあえずお前に用はない。
「仮にもギャングなんてものはやってんだ。それくらい覚悟しとけカヤノ」
「ふざけるなよ!!くっそ、こうなったらマアヤ姉ぇは俺が!!」
「おいおい、カヤノはもう少し状況を冷静に見ろ。人質を前にして動く奴がいるか?普通」
俺はカヤノを引っ張って止めた。カヤノはギリギリと歯を鳴らしている。そいうやこいつらは姉弟だったな、強い信頼関係があるみてぇだ。仕方ない。
「そう、あなたたちは動けない・・・じゃあわたしはお暇させてもらおうかしら、さよなら」
羽田はマアヤを連れて去ろうとした、だが。
「あのさお前、俺戦う前に何て言ったか忘れたか?」
羽田は俺を睨んだ。そんなまた嘘っぱちをって目をしたところで無駄だぜ、俺は確かに言った。
「俺は、下手に動かないように見張ってろって言ったよなぁ」
「まさか!?」
「あぁ・・・そのまさかだ」
突如飛び出したチサトは正面から攻撃し、マアヤの首元に突き付けられていたコンクリート片を砕いた。その瞬間に俺はマアヤの元に瞬間移動しすぐさまマアヤを連れてまた瞬間移動した。
そしてがら空きになった羽田に、チサトは強烈な炸裂音のする掌底を放った。
「ふんっ!!」
「んがあぁ!!」
お似合いの叫び声をあげ、羽田はきれいにすっ飛んでった。
「無事か?」
俺はマアヤに尋ねた。マアヤは首を縦に振った。
「す、すまない・・・私の不注意だ」
「別に、これくらいどってことねぇから」
それよりも、チサトの技、あの動き、どっかで・・・
「く・・・やって、くれたわね。あなたも・・・」
羽田は憎しみの眼差しで俺を睨んだ。
「お前らはこの世界を監視してるくせして、俺らに集中するあまり、この世界の奴らを見ようともしなかったんだな、まさに木を見て森を見ずだ。世界は思った以上に広いんだぜ?アウロさんよ」
「一兆、イキっているのはいいが、流石に限界だろう。何回も瞬間移動している」
一理ある、さっきまでの戦闘と、今の超短時間の連続瞬間移動は流石にきっつい。
「あー、任せて大丈夫か?」
「問題ない、俺もしっかりと見させてもらったからな、少し休んでろ」
チサトが前に出た。そして大きく息を吸い、拳を構える。
「あんまり・・・舐めてんじゃないわよ。お前なんか」
「どこを見ている」
「ぐへあぁっっ!!」
話の途中でチサトは羽田に強烈な一撃を喰らわせた。ミシミシいうのが聞こえたのは肋骨まで粉々になった音だ。まぁ容赦のない事。
「がは!ごほっ!!・・・あなた、それは・・・エファナ様の!?」
あ、そうだ・・・あの構え、確かエファナも似たような構えを。
「ん?知っているのか?これは瞬の構えだ。この構えと呼吸法。なぜそれを?」
「アウロの野郎にも使う奴がいるのさ、とは言ってもあいつのは練度って言うのか、威力が更に桁違いだったがな」
エファナのあの一撃必殺の拳、それに似てるが少し違う。何か一つ抜け落ちた、そんな印象がある。
「成程な、そいつが本流を使う拳法家か、本流は一子相伝と言われているらしいが、俺のはその本流から切り取った物だと聞いてる」
ウンディーネ・・・この拳の事を知ってるってのか?やはり俺たちと何か繋がりが?
「ありえない・・・この世界の、奴らが・・・あの力を。認めないわ」
羽田はまだ立ち上がる、執念ってやつか。仮にも覚醒者ってか、俺と違い、正規の手順でやる覚醒、その精神力が奴をまだ立たせる。
「お前はここの奴らを下に見すぎだ。俺たちがいくら優れた力を得ようが先端の技術を持とうが、意思疎通ができる時点で立場は同等。それを出来なかったお前の敗因はそれだ」
「ふざ けないで。私は選ばれた者・・・あなたたちとは 違うのよ!!」
最後の一撃が来る。
「言っただろ」
「それがお前の」
『敗因だ』
チサトがすれ違いざまに強烈な一撃を加えると同時に俺もカードの魔法でチサトの攻撃を底上げさせ、更に爆破した。
「ば かな」
羽田はもう立つ気力もない、俺は倒れた羽田に更にカードを突き刺した。
「ぐふっ・・・はぁ、はぁ。容赦、ないのね」
「してたら負けてた。お前と同じ理由でな」
「それよりもだ、さっきの話の続きだ。お前の目的は・・・」
「ふふ、ふふふふ!!あはははははは!!」
羽田は突然狂ったように笑いだした。
「目的ぃ?私の目的はただ一つ、あの人に仕えたかった、それだけよ!大義名分はない。それが私よ。それよりお前は、自分の心配をしたらどうかしら?」
「なに?」
あきれた、次は何をしてくるかと思えば、脅しか。その程度の事で俺が揺れると思ってんのか?
「お前はこの世界を、なんの為に乗っ取ろうとしてる?世界の為?それともお友達の為?違うわ、お前は自分の為にこの世界を乗っ取ろうとしてる」
「まぁそうだな、俺の目的分かってんじゃん。欲しいから手に入れる。それだけだぜ」
言ってしまえばこれに尽きる、正直トクがどうこうとか、アウロがどうこうとかはどうでもいい。俺は俺の欲しい世界を手に入れたいだけだ。
「ねぇお前、両親は元気?」
「は?」
「あ、ごめん、お前の本当の生みの親はもう殺しちゃったんだっけ?」
今度はそこか、こいつさっきからなんなんだ?まるで俺を煽って殺させようとしてるように聞こえる。
それともここの奴らの信用を無くさせようとしてんのか?
いや、親殺しなんざやってる奴もいるとコーキは言っていた。
「それがどうかしたの?言っとくけど・・・」
「じゃあ今の育ての親は?」
羽田はにやりと俺に向けて笑って見せた。
「そう言う事かよ・・・だが残念、俺にとっちゃあの腰抜け二人がどうされようが知ったこっちゃねぇよ」
俺のスルーをよそに、羽田はずっと喋り続けた。
「そうかしらね、お前がイカサマに強い原因、それはお前の本当の親によるDV。ろくに仕事しなかったお前の本当の親は、少しでも金があれば競馬に費やした。お前は日々万引きや窃盗で奪った金で細々と可哀そうに生きていた。でもお前の親はそこからも搾り取り、自分の金に充てた。
お前は生きるために、イカサマに手を出した。毎日のように万引きを繰り返したお前の腕前は、誰の目もかいくぐり、いつしか巨万の富を手にしていた」
「おい、いい加減黙れ」
「だけどお前の親は、そこからすら奪い取り、ギャンブルに充て、酒に充て、遊びに充てた。そしてお前に命令する、もっと稼げと。激高したお前は持っていた包丁で両親をめった刺しにした。あなたは警察に通報する。でもあなたは捕まらなかった、もう既にイカサマをしていたのよね、見ず知らずの男を犯人にでっち上げ、自分がやった証拠を一切残さなかった。どうだった?初めて人を殺した時の気分は」
「知るかよ」
俺は口ではそう言ったが、少し考えてしまった。気分が悪い、俺が初めてあのクソ親を殺した時に思った感情だ。スカッとすると思った、解放されると思ったはずなのに。俺の中にあったのは、胸糞悪さだけだった。
「やがてお前は今の両親に拾われる、お前が人殺しだとも知らないお前の両親はとても優しく、大事に育ててくれていた、でもお前のしたことは、その心優しい両親を騙し、互いの弱みを握り、金銭的にも追い詰めていった、全てはもう二度と同じ目に合わないためにね」
「だから、黙れつってんだろ」
俺は羽田の頭を蹴り飛ばす、だがそれでも羽田は口を止めやがらない。
「それは学校でも同じ、教師の弱みを掴み、追い詰め、自分に逆らえないようにしていった。誰も逆らえなくなったお前の王国、気分はどうだった?」
悪い・・・いい加減にしろよ、うぜぇんだよさっきから。俺の事を知った風に・・・
「知らねぇつってんだろ!」
俺は羽田の頭を踏みつける。そして何度も何度も蹴り飛ばした。
「おい、その辺にしとけって!そいつそれ以上やると死ぬぞ!」
マアヤが慌てて俺を止めようとする。
「てめぇも黙れ、こいつみてぇにされてぇのか?」
俺はマアヤにガンを飛ばす・・・いや、飛ばしたのはもはや殺気だ。マアヤはそれ以上何も言えなかった。
「アハハハ!!それよ!それがお前だよ!!誰にも愛されない可哀そうな子!ひとりぼっちで何もない、そんなお前がこの世界を手に入れて、何が残るって言うのかしらねぇ」
「おい、チサト。裁縫道具持ってねぇ?こいつの口縫い合わす」
「シラキなら持ってるが・・・俺は持って無い」
使えねぇな・・・チサトはそう言うと一歩下がった。
「きっと今のお前を見たら、あの子も笑うでしょうねぇ。あの子はもう一人じゃないって言うのに、お前はずっと一人ぼっち、こんなともだちを集めても無意味なのよ、お前はすべて失うだけ。世界は・・・・・お前を必要となんかしてないのよ!!」
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ここから先はあまり記憶になかった。気が付いた時には靴にべったりと血がついていただけで、奴の姿はもうなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・なぁ俺、やっちまったんだよな?」
俺が周囲に聞いても、誰も反応してはくれなかった。記憶になくても感覚で分かる。この気分の悪さ、殺した。
「・・・・その通りだ」
だが、少ししてチサトが反応を返した。
「そっか・・・あーあ、みっともないもん、見せちまった・・・」
俺は座り込んで天井を見上げた。あー、自分の弱点を晒すってのは今のこの状況で一番やっちゃいけぇ事だったんだよな。どうしよ・・・
「いや、みっともなくてもいいじゃないか」
カヤノが俺の肩を叩きそう言った。
「ヒヒッ!!俺もさっきみっともねぇ姿晒してんだ。互いにみっともない姿を晒す、これで俺たちはダチ公だぜ、なぁダチ公?」
いつの間にか起きていたカルニが俺の肩に肘を置き、これまたいつの間にかダチ公認定されていた。
「一兆、俺たちが何のためにお前と共に行くと決めたか分かるか?チアキも顔には出さないが同じなのだよ。お前と、誰も信用できない世界で生きてきた。だがお前と出会ってチアキは考えを変え始めた。彼はお前を信じている。全てを信じられないお前だからこそ、チアキはお前を信じ、共に行こうと決めたのだ」
チサトは安定に無表情だ。だが、少し感情的になったか?そんな気がする。
「不思議なもんだよ。私たちはずっと、互いの殻に籠ってケンカして、お前が現れるまでカヤノとはずっと喧嘩してた、でも、お前が全てを変えてくれた。お前の噂が、私たちの喧嘩を止めてくれたんだ。私たちの生きるこの世界には、お前が必用なんだ・・・一兆」
マアヤは俺の手を握りながらそう言った。
「あぁ、お前はもう一人なんかじゃない」
「コーキ?」
「あのさチサト、おれ別にこいつ信用してないから、利用できそうだなって思ってるだけだからね?余計な事言うんじゃないよ」
「チアキまで、なんでここにいんだ?」
ここにはコーキにチアキ、トラマル、ワニム、シラキのレッドベアズにブルーサンダース。
「どんだけ戦ってたと思ってんだ、十二時間以上だぞ?連絡も全然来ないから心配で来てやったの」
「小玉・・・」
更には、東雲組の奴らまで来ていた。12時間?嘘、そんなに経ったの?てっきり2~3時間程度しか感じてなかったのに。
俺の驚きはまだ終わらなかった。
「あれ?待てよ、じゃあサナルナは?」
『ここだよーーーーーー!!!』
「おっと・・・」
俺はサナルナの突進を避けた、サナルナは小玉に突っ込んだ。
『どっかーん!!』
「ぎゃーーー!!」
同時に小玉の断末魔が響く。
「どうなってんの?東雲組のあそこは」
俺の質問に、コーキが答えた。
「オーギュストやメリーヌがあそこで何やら色んなことをしている感じだったからな。サナちゃんとルナちゃんを狙う輩は多い。あいつ等に集中してもらうためにも連れてきた、ちょっとした遠足だ」
「遠足!遠足!遠足!」
「あーんど、社会見学!社会見学!」
「血みどろの社会見学だけどな」
そう言う事か・・・俺は少し考え事をしたらある事に気が付いた。
「ところでマアヤ、なんでずっと手にぎってんの?」
マアヤが手を握ったまま放してくれない。手汗出てきたから放してほしいんだけど。
「うん、どうやら私はこの手を離したくないと思ってる」
「は?」
「どうやら私は、お前に惚れ込んでしまったって事だ」
・・・・・・・・・あーはいはい、面倒な事になったのは分かった。
俺が状況を理解すると同時だった。
『ええぇぇぇぇぇぇぇえええええ!?』
「嘘だろ!?マアヤ姉ぇ!」
「あ、姐さん!?」
遅ぇよ、全員が同時に声を上げた。
「こ、この状況での告白!!これはいいネタです!!メモメモ・・・」
あ、でも一番反応が早かったのはシラキだった。俺が反応するよりも先にメモを取っていた。
「私と結婚してくれ!!馬喰 一兆!!」
「えー」
俺は普段通りにスルーの返答を返すが、周りがそうはさせてくれなかった。
「結婚!結婚!結婚!」
「挙式上げる!?挙式上げる!?」
ルナ・・・挙式なんて言葉どこで覚えたんだよ。
「いつそんな要素があったんだ?」
「一兆お前、気が付かなかったか?彼女のピンチを二度も救っていたんだぞ?」
チサトがどこにフラグがあったのか教えてくれた。あれか・・・どんだけチョロインなんだ。
「チサト、多分それ以上の決め手はあれだ。その後に発覚したこいつの人生、そのギャップに堕ちたな」
「おぉ!最近聞くギャップ萌えってやつですね!」
チアキがニヤつきながら更なる答えを突きとめてきた。くっそ・・・
「あー、とりあえず返事は今度でいい?今は仲間集め優先で」
「あぁいいとも、私はずっとまってるぞ!!」
「うんわかったから、手は離してね」
「うん!!」
ようやく手が離れてくれた。




