ただいま
創暦520年 6月2日 正午 『第一次世界独立戦争』はたった数時間の戦闘という結末で一時停戦に持ち込まれた。
被害は死者57人、けが人は123人、本来であれば被害はもっと大きかったはずだが、完全覚醒者であありながらアウロを裏切ったイーサン ピークシード、シィズ・ナナに加え、王国軍爆破部隊のシャンデラ グロリオサ、アリア スターティスの迅速な対応。
そして神和住 零羅。麗沢 弾ら勇者たちによる応戦。更には駆けつけシャルロット レッドローズ率いるリヴェンジ オブ デッドと指宿 永零の活躍により被害は最も最小で抑えられたと言える。
我々は一時的な勝利を収めた。束の間の平和と自由の時間、だがこれは新たな戦いの為の猶予期間でもある。
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麗沢
拙者は空を見上げた。徐々に晴れ間が広がって来るでござる。まるで戦いは終わったのだと言っているかのようでござる。
「どうやら、終わったらしいな」
「にしてもよ、ミカミの奴すげぇよな。ここまで計算してたなんてよ。俺あいつ嫌いだけど、関心はするよマジで」
エンリコ殿とナターシャ殿は拙者と同じく空を見上げた。
「本当にすごいよ彼は・・・私たちの為に、自らが全ての敵になってまでも守ろうとした、いや、守り抜いた。私には想像も出来ない覚悟だよ」
アレックス殿は目を覚まし、本当の記憶を取り戻し真実を伝えた。
「いや、ミカミは私たちの為とかそんなんじゃないと思うよ。あくまでもあいつは自分自身の平和を守りたいがために、刃を握った。あいつの守りたい平和が、私たちもだったってだけだ」
エルメス殿はアレックス殿の隣に座った。
「それでも、ミカミ君の持った覚悟は通常の人間には耐えられない重荷。王として私は恥ずかしいよ、もしかしたら、私なんかよりも実は彼の方が王に向いているのかもね」
「ちょ!!また何てこと言うのお父様!!わたしあいつに殺されかけたんだよ!?」
「いや!!あれはあのアウロの事があってだ!!もし、アウロという存在がなくてこの世界が本当に平和になったのなら、彼こそ王に相応しいんじゃないかって思うんだ」
「そうですねぇ・・・アレックスは彼の事を昔は親友のように言ってましたから。でもその前に仲直りはちゃんとしなさい?」
「お母様また、変な事言ってる・・・」
「変とは失礼ですよエルメス。わたくしが申したのはアレックス、あなたレイサワ様に大変失礼な事をしてたじゃない?わたくし謝ったと事を見てないのですが?」
どうやらエリザベート殿はアレックス殿が記憶を書き換えられていたとはいえ、拙者と敵対した事を謝罪すべきと申しているようだ。
「あ、そう言えば・・・レイサワ君。私が不甲斐ないばかりに、迷惑をかけてしまったな。エルメスにも・・・本当に済まないことをした。私がしっかりと行動してれば、こんな事には」
アレックス殿は謝罪を続けた。だが、
「アレックス、後悔の言葉なんて誰も聞きたくはないです。あなたが言うべき言葉はこれからの事でしょう?反省をどう生かすかが重要です」
「そ、そうだね・・・ごめんエリザベート・・・あいて!いててて!!」
エリザベート殿は罰と言わんばかりにアレックス殿のほっぺたをつねった。
「わたくしへの謝罪もいりません!!」
「あははは!!お母様も、お父様も前と同じだ!!このやり取り懐かしいな・・・また、こうしていられるんだよな」
エルメス殿はこの光景に笑うと同時に少し不安げに聞いた。
「それは分からぬな・・・だが、二度と後悔しないためにも、この平和を感じるこの瞬間をしっかりと身に刻むことが、一番なのではあるまいか?」
「レイサワ・・・たまにはいい事言うな」
「たまにはは余計でござる!!」
拙者も再び空を見た。
「あ!サム!!ジョニー!!奴らは!!ぶっ飛ばしたのか!?」
エンリコ殿が大きな声で呼ぶと、そこへサム殿とジョニー殿が戻って来た。
「まぁ一番の目標には届かなかったけど、ディエゴ アンダーソンは撤退。他の完全覚醒者も同じく撤退せざるを得ない状況に追い込まれた。他のビーストや、記憶を戻した兵士も徐々に退き始めている。少なくとも半年は安全だ」
「な~んだ。やっぱあんたらでも無理だったんだな」
「そう言われると痛いな。だけどまぁ、言い訳はしない」
どうやら、完全勝利とはいかなかったようでござる。確かにRODは凄まじく強かったでござるが、それでもアウロとはそれ同等、それ以上にヤバかっただけでござる。
「その口の悪さは相変わらずだなエンリコ、もうちょっと物腰柔らかくした方がいいよ」
そして、更に別の人物も帰って来た。この声は聞き覚えがあるでござる。拙者が旅を始め間もない頃であった。この声は・・・
「え・・・嘘、だろ?」
「ただいま、エンリコ」
「ら、ランディ兄ぃ・・・なの?」
帰って来たのは、この世界屈指の狙撃手と呼ばれたランディ ブーゲンベリア。だが以前と比べると、表情は生き生きとし、前のような死んだような目をしてはいない。
そしてエンリコはおもむろにランディの元に走っていった。
「お、おいおい・・・お前もう十四でしょ?」
「友達同士ハグすんのは、別に普通なんだってさ、ってなんかの本に書いてあった・・・でもさ、ランディ兄ぃ」
「どしたの?」
「ちっちゃくなった?」
「エンリコが大きくなったんだよ・・・た、多分・・・」
エンリコとランディのハグ、死んだと思っていた友人の感動の再開シーンではござるのだが・・・ランディ殿は元から小柄。エンリコ殿からは兄と呼ばれてはいるが・・・この絵は完全にランディ殿が弟に見えるでござるな。
「あはは、どっちが兄か分かんねぇな!!」
「エルメス様・・・僕、結構根に持ちますよ、街中では背後に気を付けてくださいね・・・」
「じょ、冗談冗談!!全くあんたはこわいなーもー!!」
ランディ殿はエルメス殿にスナイパーライフルをちらつかせた。
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イーサン
「そうか・・・アウロは撤退を始めたか」
「えぇ、街中のビーストもあのRODって人たちが」
「まさかこんな結末になるとはなシィズ。私たちのやっていたことはどうやら無駄だったらしい。全部三上君の作戦の内って訳か・・・」
「いや、そうでもない。あんたらが予め住人の避難や、対抗できる仲間を集めてなければ我らもこうは上手くはいかなかっただろう」
私たちの元にワンコ、ニャンタ、ポンサンが来た。犬猫狸トリオ、かつてのリーダーと呼ばれた者たち。
「それに、三上を救ってくれたのは君らなのだろう?」
「え?それを・・・どこで?」
どういう事だ?三上君が生きている事を知っているのは私とシィズ。あとフォックスぐらいだ・・・
「彼から聞いたんだよ~。ねぇこの子ってイーサンの知り合いなの~?」
ニャンタの後ろには二人いた。一人はシィズから聞いている。人間態のフォックスだ。だが・・・もう一人は。
「初めまして・・・指宿 永零っていいます。詳しい話は礼やフォックスから聞いてます。イーサンさんですよね」
「おーっす!!シィズ久しぶりー!!」
そこには真っ白な髪の少年がいた。この肌の白さに赤い目・・・アルビノなのか?
「お久しぶりですシィズさん。セレスではありがとうございました」
「知り合いなのか?」
「そうだった、イーサンには言ってなかったわよね。この子は指宿 永零って言って向こうでティーン向け雑誌のモデルやってる子なの」
「は?何故そんな子がこの世界にいるんだ!?」
どういう事だ、誰かがこの世界にこれば記録は必ず残る・・・だが、こんな少年の事なんて聞いた事ないぞ?
「私にも分からないわよ。一切記録に残ってないもの・・・永零君もなんでここに来たのか分かってないし・・・」
誰も知らない転移者だと・・・この子は一体何者だ?
「って、それよりも永零君・・・どうやってここに戻ってこれたの?あそこからここまでは数日かかるはずよ?ハイパーループも使えるわけないし・・・」
「あ、それはちょっと僕の能力、セカンダビリティでしたっけ。それを応用したんです。それでここまで来ました」
何、しかもセカンダビリティを持っているだと?
「永零君・・・君の能力って何だい?」
「うーん、実は僕自身もまだよく分かってないんです。なんていうか、あった事をなかった事にしたり、なかった事をあった事にしたりする能力ってな感じでして・・・うまく説明が出来ないや」
私はそれを聞いて愕然とした。そんな有り得ない能力を持ったものが現れただと・・・これは瞬間移動とかの空間を支配してるわけじゃない。この子のそれは、世界の概念そのものを支配していると言ってるようなものだ。
「正直な話、我らはこの少年に救われたようなものだ。この子がディエゴを追い込まなければ、我らは負けていただろう」
「え・・・永零君ディエゴと戦ったの!?」
「は、はい。でも彼大分弱ってましたから、退かせることが出来ただけで・・・」
三上君・・・とんでもない者を見つけてきたな。一見大人しそうに見えるけど、この子の能力は異常だ。下手をすれば実力はビリーに匹敵するかもしれない。
「でも、あなたのおかげでディエゴは撤退したんでしょ?ありがとう・・・よし!!じゃあ今度は街の再興だね」
「あ、あぁ。そうだな・・・」
私は疑問を残しつつ、街の再興に乗り出した。
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零羅
「空が晴れてく・・・」
わたくしは空を覆ていた分厚い雲が消えていく様子を眺めていました。
「はぁ、なんじゃあやつ・・・ウロボロスとは思えん位弱いぞ、どうやら完全体じゃなかったみたいじゃな」
「あ、サラマンダーさん」
空からサラマンダーさんが人間の姿になって落ちてきました。
「おう零羅。こっちもどうやら終わったようじゃな」
「はい、どうやらそんな感じみたいです・・・」
「なんじゃ、元気がないな。疲れたか?」
「い、いえ・・・」
「無理はせんでいい、何かあったと顔に出とる。溜め込むのはよくないぞ」
わたくしはサラマンダーさんにも話しました。父の事や、わたくし自身の事。
「ほぅ、そんな事が。それは疲れるのも無理はない・・・大変じゃったな、零羅」
サラマンダーさんはそっとわたくしを抱きしめてくれました。なんだか不思議な気分です。
お母様がいるというのはこんな感じなのでしょうか。お父様はほとんど家にいません、お母様はわたくしを産んだとほぼ同時に亡くなったと聞いてます。
「なんだか・・・暖かいですね」
「そりゃそうじゃ、儂は炎の化身じゃぞ?」
それとも違う気がしますけど、まぁいいです。今はもうちょっとだけ、こうしてたいです。わたくしは、しばらくこのままにしていました。
「ところでサラマンダーさん」
「どうした?」
「ウロボロスは、どうされたんですか?」
「あぁ、あやつのぉ・・・どうやらあのウロボロスは完全体ではない。明らかに弱かったのじゃ、まぁしぶとさは相変わらずじゃったがな。ディエゴ・・・おそらくあやつはまだ、記憶を完全には取り戻しておらんようじゃな」
「ディエゴさんの記憶・・・あの人は一体何なのですか?」
「ディエゴは、五百年以上前からここにおる。それくらいしか儂も覚えておらん」
「どういう事ですか?」
「儂ら四精霊にも記憶はない。あの戦いの記憶がの・・・あの戦い、ニヒルが儂らの前から消えたあの戦いで、儂らは全員記憶を失ったのじゃ、これがディエゴの能力なのかすらも忘れる程にな。じゃが奴は、何らかの方法で徐々に記憶を取り戻してるようじゃ。儂は、大切だと思っていたニヒルの顔すら思い出せんのじゃがな・・・」
ニヒル アダムスとディエゴさん・・・一体何があったのでしょうか。あの本に書かれていた事、ニヒルさんはあの人を止めると・・・あの人とは、ディエゴさんの事でしょうか。まだ、分からないことが多いですね。
「この世界・・・まだまだ謎が多いですね」
「そうじゃな。この世界は不思議な世界じゃ。あ、じゃが一人だけ、ニヒルの記憶を失くさなかった者がおるんじゃ。あやつはまだ生きておるかのぉ・・・」
「え、どんな方ですか?」
「イズナって名前の奴じゃ。知っておるか?」
「いえ・・・存じません」
「そうか・・・もしあやつが生きていたのなら、色々分かるかもしれんのじゃがなぁ・・・」
わたくしたちは一緒に座りながら空を見て、会話に花を咲かせました。
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シャルロット
私はある扉の前に立った。そして大きく深呼吸をする。
「ヤバい・・・心臓ばっくばくなんだけど・・・みんなぁ、私が開けなきゃダメ?」
「そうですよ、あなたは我らのリーダー、いや、将軍なのですから」
「それにみんなを驚かそうって言いだしたの、シャルロットさんですよ?だから俺たちだけフード被ったまま戦闘してたんじゃないですか」
「そうだけど・・・どうやって入ればいいんだろ。あー!!久しぶり過ぎて忘れちゃったの!!」
「まだ一月も経ってませんよ!?」
「マジで!?」
あれ~・・・かれこれ一年以上、本業やってなかった気がするのに、まだ一か月なんだ。
「だーらっしゃー!!こうなったら当たって砕けちゃえ!!いつもの乗りでとっこーだー!!」
私は意を決してドアを豪快に開けて、飛び出した。
「いやぁ!!みんな元気にしてたぁ!?みんなのアイドル!!シャルロット レッドローズちゃん!!ここに見参だよ!!なんちって!!」
私は舌を出してウィンクして真ん中に立った。
「あ・・・あれ。みんな無反応」
ここはシェルターって呼ばれる場所。ここにはこの戦いで大勢の人がここに避難してる。町中のほぼ全ての住人がここに集まってるはずだけど・・・みんな口を大きく開けて私を見てるだけだった。
「そりゃそうでしょ!!いくら何でもいきなりアイドル風の挨拶は周囲が困惑するだけですって!!我々はさっきまで死んだことになってたんですよ!?」
「あ、それもそっか!!でもまぁいいじゃん!!やっちゃったし、こう言った場面じゃ他のノリ分かんないし!!」
「はぁ・・・シャルロットさんってちょっとそこんとこの計算があまいんだよなぁ・・・」
仲間の一人がぶつくさ言ってるけど、まーいーやー。
「しゃ・・・シャルロットちゃん・・・なの?」
「ん?情熱のアイドルことシャルロットちゃんは私だ・・・って、あ」
私が振り向いたそこには、体を震えさせてるシャンデラが今にも泣きそうな顔で立ってた。
「シャンデラ?」
「全くあなたは、空気が読めないのは相変わらずですこと。それじゃぁアイドル失格ですわ」
「アリアちゃん・・・」
そしてすぐ隣には相変わらずの厳しいアリアちゃんが腕を組んで立っていた。
「えっと・・・お土産でも持ってこれば良かったのかなぁ・・・」
二人とはまだ別れてからそんなに経ってないのに、かけるべき言葉が思いつかない。
「ぐす・・・ひっぐ・・・」
私がそんな事を考えてたら、シャンデラがボロボロと大粒の涙が流れだした。
「ちょっちょ!!シャンデラ!!そんなに泣かなくても!!」
「だって・・・声聞いたら、シャルちゃんの声なんだもん」
「そりゃそうよ。私だもの」
「そうだけど・・・もしそうじゃなかったらって、これは私の見てる夢なんじゃないかって・・・ねぇ、これって夢じゃないよね?」
・・・私は無言でシャンデラのほっぺをぷにっとつねった。
「大丈夫、私はちゃんとここにいるよ。ほんとに、シャンデラは泣き虫なんだから・・・」
「だってぇ・・・シャルが、シャルちゃん生きてるんだもん・・・ふぇぇぇぇん!!」
シャンデラはついに大声で泣いてしまった。
「そ、そんな泣かないで・・・ね?」
「そうは言いましてもシャル?さっきからずっと目からしずくがこぼれてますわよ?」
あれ・・・ほんとだ。私は頬をなぞるとそこが濡れている事に気が付いた。あ、そうだった・・・私も、泣き虫だったんだ。
「あっれ~、なんか調子狂っちゃうな・・・どうしよ、ねぇアリアちゃん。私って今どうしたらいいんだと思う?」
「それはあなたが考える事ですわ。シャル、あなたは今どうしたいの?」
アリアちゃんは厳しくも優しい声で私に問いかけた。私が今・・・したい事。
「・・・ちょっと迷惑かもだけど、いい?」
「好きになさい」
私は二人に抱きついた。そうだった、ずっとこうしたかったんだ。みんながいる。私は帰って来たんだ。ずっと言えなかった言葉。それを言うために私は二人の所に来たんだ。
「ただいま!!」
私は泣きべそかいて、今までで一番の笑顔をシャンデラとアリアに送った。
『おかえりなさい』
そして返ってきた、私がずっと欲しかった言葉・・・私は二人の中でめっちゃ泣いた。




