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平和を願いし者たちよ、この世界で闘う者たちよ!第三章  作者: 冠 三湯切
パート1、『この異世界より平和への旅路を行く』
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衛府郎 零羅 親の心子知らず、子の心親知らず

 衛府郎 午前十時十五分


 「そんな・・・どうしてここにいるのですか?お父様!!」


 零羅はわたくしを驚きと、そして悲しい顔で睨んだ。


 「どうしたもこうしたもないよ。これが今のわたくしの仕事だ、零祖細胞の研究及び最新治療薬の開発責任者、神和住 衛府郎。ここではエファナと名乗っているがな」


 「仕事って・・・こんな大勢の人を苦しめるなんて、人を苦しめる仕事なんてありませんよ!!」


 「確かにそうだ。仕事とは誰かを喜ばせる為にするものだ」


 「では、どうして!!」


 「お前の為だ、零羅。子を思わぬ親はいない、これはお前の為にやっている事だ。たとえ今のお前に理解されなくとも、わたくしは常にお前を思って仕事をしている」


 零羅は、わたくしを見てしばらく固まっていた。わたくし自身もここまで来ておいて実の娘にどう言葉をかけていいのかが分からなくなった。


 「わたくしの事を思っているのなら、こんな事、すぐに止めてください。わたくしはこんなの全く望んでいません!!」


 先に沈黙を破ったのは零羅だった。


 「残念だがそれは出来ない。零羅、お前は知っているな。自身の別の人格を」


 わたくしも、その直後に淡々と返す。


 「えぇ、ですがそれはもう克服しました。もう一人の自分もわたくし自身として受け入れ、もう暴走なんかしません」

 

 「いや、お前のそれはまだ治ってなんかいない。むしろ逆だ、精神が一つになり始めている。直ぐに破壊衝動がお前を襲いだすだろう。以前より比べ物にならない程の欲望がな」


 「そんな事はないと言ってるでしょ!!」


 零羅は本気で怒っているようだ。認めたくないのか、はたまたわたくしを蔑んでか。


 「あるかどうかは、確かめてみるといい。お前ももう使えるはずだろう?あの拳が・・・」


 「()()()()まさかお父様、この拳を・・・」


 「いいから来い、来なければわたくしから行く!!」


 わたくしは一気に間合いを詰め、拳を突き出した。単なる正拳だが衝撃波を生み壁に穴を開けた。


 「・・・先ほどのと同じ。お父様、あなたは一体。この拳は」


 「神破聖拳、今のは基礎の『衝勢(しょうぜい)』さぁ次はお前の番だ、攻撃しなければまた行くぞ」


 「・・・お父様とは、戦いたくありません。ですけど、寝ぼけたお父さんを叩き起こすのは、娘であるわたくしの役目ですよね!!」


 零羅は構え、一気に詰め寄った。


 「成程、いい動きだ。独学でこれとはな・・・やはり、神破聖拳の末裔だけはあると言う事か。生まれながらにしてこの拳の才能を持っている」


 わたくしは零羅の攻撃を捌きながら、動きを観察した。


 「これは基礎中の基礎、才能なんか関係ありません。次はわたくし自身がこの地で身に着けた拳、魔破斗剛拳流で行きます!!」


 これは、炎を纏った拳・・・


 「っ!!成程、神破聖拳に魔法を加え、オリジナルの拳を作ったと言うのか・・・流石としか言えないな」


 「この拳、これはこの世界に来てたくさんの旅をして手に入れた力です。決して生まれながらの才能とかなんかじゃありません!お父様、この力は守る為にあるのです!暴力の為に使う気はさらさらないです。お父様教えてください、どうしてわたくしをこの世界に呼んだのですか!?」

 

 「・・・お前を呼んだのは、わたくしではない」


 「では誰が!!」


 「零羅、攻撃しながらでいい。少々話を聞いてくれ」


 わたくしは零羅の攻撃を受け流しながら答えた。


 「この世界にお前を呼んだのは、このアウロのトップ連中、今まさにこの惨状を命令した奴らだ。


 零羅、お前はもとから破壊衝動のみと言える別の人格を持って生まれた。その原因は我ら神和住一族の血統にある。我ら神和住は暗殺拳、神破聖拳を伝承する唯一の一族。そしてわたくしが最後の伝承者。本来はわたくしで終わりにするつもりだった。だが、生まれたばかりのお前はまさに破壊の化身だった。この拳を継承どころか見る事すらなく使いこなしていた。


 その後はお前も知っているだろう。お前には学校も行かせず、運動させる事を禁じた。そうしたら、争いごとを嫌う心優しきお前が生まれたのだ」


 「そうですね、そこは何となく覚えています。わたくしは気が付けば周りを傷つけている事がありました。わたくしは傷つくと、どうしようもなく壊したい気持ちが抑えられなくて、何振りかまわず攻撃していました。確かにお父様の言う通り、その経験があったからこそ、今のわたくしを形作ったと言えますね。


 ですが、この世界に来て更に経験や体験を積んで、更なるわたくしになる事が出来ました。むしろこの世界に来たことには感謝しているのですよ?」


 感謝か、まさかそんな風に思っているとはな・・・


 「零羅、お前が感じてる満足感は徐々に本来の自分と一つになりつつある証拠なのだ。零羅、お前がこの世界に飛ばされた理由を知っているか?」


 「見当もつきません。他の方同様、この世界でバケモノに関する経過実験ってとこですか?」


 「いや、全く違うのだ。坂神 桜蘭、麗沢 弾、神和住 零羅の異世界転移実験は、全く別のプロジェクトで発案された。そして神和住 零羅に関しては、その二重の人格を利用し、兵力とすることにある」


 「そんな、お父様はそんな風にわたくしを・・・」


 「それは違う、お前にそんな事をさせたがる親がどこにいる。もちろん反対したさ」


 わたくしは咄嗟に反論した。実の娘を兵器に、そんな事を望む奴なんかいない。


 「だが・・・」


 「だが?」


 「お前のその力は、治る事が無いと言う事が分かったんだ」


 「そんな事ないって言ってるじゃないですか!!もう!!」


 「そんな事があるのだ!!」


 わたくしは怒鳴り声を上げた。すると零羅はビクッとして攻撃を止めた。


 「この世界でお前は、自身の力をコントロールできるようになったと思っているだろうが、そうじゃない。お前はより蝕まれているのだ。平和を愛する零羅、破壊を望む零羅、それが一つになってきている。今のお前はその段階だ。そしてその二つが一つになったとき、神和住 零羅という人間は消えてなくなる。ただ人の形をした兵器になってしまうのだ」


 「・・・お父様、わたくしは決してそんな風になったりしません。仮にそれが本当なのだとしても、わたくしは抗います。ですからお願いです、どうか拳を下げてください。これはわたくし自身の問題、お父様、どうかこのわたくしを信じて下さい。絶対に負けたりなんかしません。わたくし、お父様の事が大好きですから、もうこれ以上戦いたくないのです」


 零羅の声は重くわたくしに響いてきた。やはり本当のお前は、戦いなど嫌う性格なのだな。その声に嘘偽りはなく、自身に立ち向かう力強い言葉だった。


 「そうか・・・わたくしもお前とは戦いたくない。お前の言葉、信じよう・・・だが、一つ聞いていいか?どうしてお前は今、笑っているのだ?」


 わたくしの質問に零羅は思わず自分の頬に手を当てる。その時の零羅の表情は、まるで獲物を見つけた肉食動物のようだった。


 「え・・・あれ?なんで、勝手に笑ってる・・・」


 「勝手に口角が上がり、その目はいつでもわたくしを殺せる殺戮者の目。零羅、なぜ先ほどからわたくしは構えを解かないと思う?それはお前が常にわたくしを殺せる状態だからだ。今お前は構えを解いているつもりだろうが、そうではない・・・証拠はこれだ」


 わたくしは無防備に立つ零羅に拳を放った。確実に殺す一撃。零羅よ、全力で応えなければ、お前は死ぬ。


 「・・・」


 「っ!!この技は!!」


 気が付けばわたくし自身の体に拳の跡が深く刻まれていた。


 「っがは!!!」


 血が口から吹き出した。わたくしの体は投げ捨てられた紙屑のように転がった。


 「い、今の・・・なんだったの?」


 零羅は自分が何をしたのか分かっていないようだ。自身の拳を見て固まっている。


 「今のは、本当に死ぬところだった・・・心臓が破裂した。咄嗟に頭を防御したおかげで頭蓋にひびが入った程度で済んだんだ。零羅、今ので分かったか?お前は無意識のうちに破壊を、殺戮を楽しんだんだ。実の親であろうともな・・・」


 しばらくは立てそうにない。今は怪我を治す事に専念しよう・・・


 「そんな・・・わたくしは・・・」


 「これで分かっただろう・・・お前にとっては無意識なんだ。どんなに自信を否定しても、確実に先ほどのあれが再び襲い掛かる。逃げる事なぞ出来はしない。お前がどんなに足掻こうと、殺戮の衝動は徐々に襲い掛かる。わたくしも、なんとかできないかと尽力したさ。だが・・・調べれば調べるほど、お前のその症状は、わたくしを絶望へと叩き落した。


 零羅、お前をそんな風にさせてしまったのはわたくしのせいだ。許せとは言わないが、最後にわたくしが出来る事、それはお前に殺戮の場を与える事だけだ。どのみち世界はもうすぐ終わる。わたくしの役目も、そこで終わる。零羅、次会う時は恐らくお前はもうわたくしを、殺戮の対象としてしか見えなくなっているかもしれない。だから今言っておく・・・済まなかった」


 わたくしは、立ち尽くす零羅を後にこの場を去った。


 



 


 零羅 午前十時三十分


 「そんな・・・わたくしは」


 わたくしは歩いて立ち去るお父様の背中を見ながらただ立っていました。今自分がしてしまった事、言葉と裏腹の感情・・・認めなければいけないこの脱力感。


 わたくしは、まだ完全には克服できていなかった。そして先ほどそれを実際に感じた。お父様を吹き飛ばした時、快感を覚えていた。実の親を、本当に殺しかけたのに・・・のちに残った感情が、開放感。

 

 「う・・・くぅ・・・うわあああああああああああああああ!!」


 わたくしは、思い切り叫んだ、そして壁を何発も殴った。徐々に壁にひびが入り、わたくしの手も赤くにじんできた。


 『ぐぅああああ!!』


 「バケモノ・・・すみませんが、今わたくし、すっごい機嫌が悪いんです。あなた方に恨みは・・・いえ、あなた方が憎いです。そこを、どきなさい!!」


 怒り任せにバケモノを殺そうとした、その時でした。バケモノは突然倒されました。


 そして目の前にはマント姿のフードを被った方がいました。


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