一兆 レベル100オーバー
午前九時三十五分
「近いはず・・・」
俺は車を走らせていた。
「ん?あいつは・・・」
そんな中、俺の目の前にある男が立ちふさがっていた。ディエゴ アンダーソン。簡単に言えばこの世界を作ったって奴だ。
「こんな荒野のど真ん中で何してんだ?社長さんよ」
「君を待っていたのさ、馬喰 一兆君」
「あっそ、俺は別の人を探してんだ。じゃあな」
「あぁ、そう言えば一つ言ってなかったな。俺はその彼女も待っているんだよ」
俺はすぐさまここを離れようと思ったが、そうも言えなくなった。こいつは・・・
「知ってんのか?どこにいるのか」
「彼女は俺を追っている。君を導にしてね・・・噂をすればだ・・・」
俺は視線を横に向けると砂埃の中から一人の人影が見えた。
「おー、ほんとに来たよ。すんげぇべな」
「はぁ!?」
「うわぁ!!」
気が付いた時には俺の後ろにあのキツネの仮面が立っていた。
「君も来たか。だがキツネ君、済まないが手を出さないでほしい。君を呼んだのはあくまでも馬喰 一兆君たちをこの場所へ誘うためだ」
「だろ~ね~。最初っからそんな気してたぞおらは。んじゃおらは見とくだけだっぺな」
キツネは呑気に構えているが、こいつ・・・俺を見張ってやがる。下手に手を出させないためか?
くそ、俺はまんまと罠にかかっちまったって事か。ディエゴの野郎の目的はグレイシアを見つけ出して殺す事。俺は唯一彼女と繋がりを持っているのを知って、俺をここに来るように仕向けたのか。爽やかな見た目なのにえげつねぇことしやがる・・・
俺がそんな考え事をしてるうちに砂埃の奥から、一人の女性が姿を現した。
「・・・久しぶりって言うには早い?ディエゴ」
透き通るようなきれいな声だ。だが、その中には何とも言えない怒りを感じる。
「グレイシア ダスト君・・・そう言えばあれからまだ一か月程度しか経ってなかったな。少し変わったか?」
「私は何も変わらない、変わったのはあなたの方、前戦った時とはまるで別人」
戦った?こいつら今までにも何度か衝突してたのか?
「確かに、変わったか・・・だとしたら、彼のおかげかな?俺に意志を思い出させた」
「サカガミ サクラ・・・あの子はやはり・・・」
グレイシアは何かをボソッと呟いたが、ディエゴはそれを無視し、話を変えた。
「さて、君の目的は分かってる。そして君も俺の目的は分かってるんだろ?」
「えぇ。だからここに来た」
『お前を殺すために・・・』
やはり、ディエゴの目的はグレイシアを抹殺する事。俺は・・・どうすれば・・・
2人は今にも動き出しそうだ・・・もう、仕方ねぇ!!今の俺は前ん時よりも強い!だったら止めれるはずだ!!
俺は2人を止めるべく走り出した。だが、
「ちょ!ちょ!ちょ!おんめぇどこ行くんだぁ!?」
キツネが慌てたふりをして俺の肩を掴んで止めた。
「放せ、さもないとぶっ殺すぞ」
「いや、殺されたくねぇけどさぁ、流石にディエゴの戦いに入るのはどうかと思うぞおらは。その腕のやつでレベル見れば分かっけどよ」
俺は言われるがまま、奴のレベルを見た。
「レベル・・・」
「・・・100?」
俺とトクが声を揃えた。間違いない、ディエゴのレベルは人間で最強と言っていたレベル99のエファナよりも上の三桁。どういう事だ。
「分かった?ディエゴはよ、もう人間の域を超えちゃってんのさね、少し言い方変えると、精神異常者みてぇな?」
分かったような分からないような・・・だが、尚更止めなきゃなんねぇだろ、これじゃ・・・
「だからと言ってもおら、正直に言うとどっちが勝つか分かんねぇんだ。グレイシアってよ、色々と計測不可能なとこも多くってな。だからこの勝負はおらが参加するより、見てみたい方がつえぇんだ。だからよ、ちゃんと見届けてやるのが一番だと思うぞおらは。グレイシア自身も下手に入られるの嫌そうだしね」
俺は引き下がるしかなかった。キツネの言う通りだとも思ったからだ。俺自身もケンカの邪魔をされればブチ切れる。これはそれの延長線だ。とりあえずは見届けるか。にしても、このキツネ、俺の考えてる事を・・・
「俺を殺すか・・・今の俺は誰にも負ける気はしない。君がいくら強くても、俺には勝てない」
ディエゴはそう言うと巨大な波打った剣を構えた。
「そうね、戦いってなると私はあなたには勝てない・・・だけど、八つ当たりならどう?」
「なに?」
「あなたは知らない・・・私、今生まれて初めて怒ってるから・・・」
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「え?」
「今・・・何が起きた?」
考える余裕も、声を上げる暇すらなかった。ただ瞬きした瞬間に、勝負はついていた。
冷てぇ、てか肌が痛い。ここの気温が一気に下がった。周囲の水分も一気に凍って白い霧のような物が降って来た。
瞬きする前と後で一つだけ景色が変わっていた。目の前に氷で出来た壁、見上げたこれは氷の城だ。
「堅牢な氷の城の中で眠りなさい・・・」
グレイシアはディエゴに背を向け、こっちに歩いてきた。背を向けた・・・これは本当に決着が付いたってのか?
「え、ちょっと!!グレイシアさん!!その人もしかして殺したの!?」
トクが慌ててグレイシアに詰め寄った。
「殺したって言うにはまだ早い。この氷の中は絶対零度。ありとあらゆる細胞が活動を停止する。ディエゴの強靭な体でももう復活は出来ない、徐々に意識は消え、あと数分もしないうちにディエゴは生命活動は完全に停止する。こんな死は彼には少し贅沢すぎるかな?」
「いや!あんたと社長さんとの間に何があったのかは知らないけどさ、人を殺したんだよ!?その意味は分かってる!?」
「誰かを殺す覚悟は、とうの昔から出来てる」
トクはあっさりと答えを返され、何も言い返せなくなっていた。
「いんやぁ、まさかディエゴが倒されるのは計算外とは思わんかったわ。こりゃどうすんべ、これじゃおらに命令する奴がおらんくなっちまうなぁ」
意外にも、キツネは多少固まっていたものの、どうにも動揺してるわけではなさそうだ。てっぺんが死んじまったってのに、なんだこの余裕は・・・
「次は、あなたの番?」
「ん?あぁいいよ?んじゃ次はおらと勝負すっか・・・でも俺はディエゴみたいに油断はしないぞ?」
口調が変わった。さっきまでと雰囲気がまるで違う。さっきと同じ、殺し屋の雰囲気だ。
「・・・っと、言いたいところだが、やめといた方がいいな。うん」
「どういうつもり?大人しく殺される?それとも、こっちにでも寝返る?」
「いや、俺はあの人を裏切りはしない。それに・・・」
ん?なんだ突然、この全身の震えは・・・心臓が締め付けられる。手が、足が、ガタガタ言っているだと?
「・・・っ!?グレイシア!!上だ!!!!」
「っく!!」
「どっひゃぁぁぁぁl!!!」
あまりにも突然なのと、威力が桁違い過ぎた。グレイシアの上空から激しい閃光が墜ちた。衝撃でグレイシアは飛ばされ、俺も衝撃波で吹き飛んだ。
「・・・これは・・・」
俺とグレイシアは体勢を立て直した、トクはぶっ倒れている。キツネは余裕の笑みを浮かべ遠くに避難していた。
「なんだ、今のは・・・」
俺は閃光が墜ちた方を見る。まだわずかに舞い上がった土煙が赤い電撃を放っている。そしてその奥に人影が見える。あれは・・・
『危なかったな、もう少しで死ぬとこだった』
ボイスチェンジャー使ったような声・・・
「あぁ、恥ずかしい話だな、どうやら彼女の力を甘く見ていたようだ・・・記憶が戻り、少々浮かれていたのかもしれない。助かったよ・・・」
そしてこの声は・・・ディエゴだ。まさか・・・
土煙が開けた。そこには立膝を付き肩で呼吸するディエゴと、フードを被った蛇の仮面を付けた男が立っていた。そしてさっきまであった巨大な氷の城が砕け落ちていく。
蛇の仮面・・・まさか、さっきトクが言ってた奴か?
『グレイシア ダスト・・・』
「ビリー ラックス・・・」
こんなの、今までに感じたことがねぇ。手も出せなければ、声すら出なくなってやがる・・・
逃げてぇ、そんな感情が俺の中から込み上げてくる。なんなんだ?こいつは?
『やはり、お前は真っ先に倒さねばならんようだ。こいつがこうも一瞬でやられるのはかなり予想外だ』
「それはこっちも同じ、敵の中で最も危険なのはあなたとディエゴ」
『お前にそう思われるのはうれしいな』
「褒めてないから・・・」
『だろうな。俺はお前を目障りとしか思っていない・・・世界のゴミよ』
「私がごみなら、あなたもそうね」
『ふっ・・・かもな。ディエゴ、どうやら予想外の事態になってきているようだ。お前は先に中央に戻れ。計画が少し狂いそうだ』
ビリーはディエゴの前に立ち、逃走を促した。
「いや、まだ俺はやれる」
『そうじゃない、嫌な予感がする・・・俺たちの計画を大きく狂わせる存在を感じる』
ビリーがディエゴに手を出そうとした瞬間、こいつの腕と足がが凍り付いた。
「行かせない・・・あなたたちはここで倒す」
グレイシアはどこにも行かせまいと構える。だが・・・
『倒すか・・・今は午前十時前。まだ時間はあるな かかってこい』
ビリーの言葉と同時に激しい閃光と、冷気が衝突した。
『っ・・・ぐ!!』
「っ・・・・・!!」
両者ともにほぼ無言で魔法の応酬をし、叫ぶような感じで戦いはしないが、はっきり言っていいか?今俺は初めてヤ〇チャになった気分だ。無駄に突っ込めばやられる。それに戦闘が激しすぎるせいか、さっきからこのデバイスも調子が悪い。計測も出来ねぇ・・・あいつのレベルなんだ?
しかし肉眼では分かる・・・劣勢はどうみてもグレイシアだ。表情は今だに崩していないが、追い込まれてやがる・・・
「はぁ、はぁ・・・」
『どうした?息が上がり始めたぞ?』
「あなたこそ、武器も無しで戦って・・・それでは私を殺せない・・・」
武器?こんなレベルの戦いする奴らにいるのか?
『・・・武器か、いいのか?使えば形を保てる保証はないぞ?』
「勝手なフェミニズムはいい、どちらにしたってまずはあなたに武器を取らせることが一番だから・・・でなきゃ、殺せない」
『そうか・・・後悔するなよ、俺に武器を取らせたことを』
そう言うとビリーの手元に電撃がまとわり始めた。そして・・・
「ん?あいつは・・・」
「あえ?あれって」
俺とトクは声を合わせた。奴が手にしたのはトクがさっきまで持ってた巨大な剣だ。それを軽々と操り背中に背負った。
「来い、一撃で終わりだ・・・」
さっきとは打って変わって両者ともに沈黙だ。ただでさえ劣勢だったんだ、グレイシアは動けねぇのは分かる。そして奴も恐らくグレイシアを警戒してる。優勢だったとはいえ、いやだからこそ、ビリーはグレイシアの底力を知っている。だから動けないのか。
待てよ・・・だったら今奴は1対1、後ろに隙がある・・・だがやれるか?
俺はカードを一枚取り出した。このままではどちらかが死ぬ。いや、ほぼ確実にグレイシアが死ぬ。
俺が思うにこの世界ってのは、恐らくゲームなんかじゃない、本物だ。あのエファナも、この社長さんも、俺たちを何かの実験の為にゲームと偽り、この変な世界に送り込んだ。
確かにゲームと言われれば納得できて、現実と言われると納得できないことも多いが、この世界は向こう以上に人間ってのを感じる。俺は正直この世界、気に入ってる。
だから、俺はグレイシアの求める先が見たい。ここで、こんなところでは死なせない。
それが理由か、俺がグレイシアを助けたいのは・・・それが俺の意志だ。
俺は風の魔法のカードを投げた。瞬間的に展開し、風でカードは勢いを増し、カードは手裏剣のように飛んでいった。
『なにっ!!』
「グレイシア!!」
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完全に意表を突いた。俺の奇襲は成功した。だが、その瞬間には閃光、その直後には俺の顔に温かい液体が着いた。
俺が目を開いた時には、俺のカードが突き刺さったビリー、俺の横に振り下ろされた巨大な剣。そして俺の目の前に立つ左腕が消し飛んだグレイシアだった。
「っ・・・」
「な、なんで・・・?」
訳が分からない・・・なんでこうなった?
グレイシアは膝から崩れ落ちた。だが、それでも膝より下には崩れていない。
『危なかったな、馬喰 一兆。もう少しで君が消し飛ぶところだった・・・キツネ君、しっかりと見張っておかないと』
「あ~、いやすんません。まぁさか動くとは思わなくってよ」
キツネはへこへこと頭を下げてる。
『にしても、しぶといな、グレイシア・・・』
「私は死なないから、あなたを殺すまで・・・」
ビリーは少し口角を上げると、剣を横に振った。するとあの巨大な剣はみるみる変形し、持ち手から鎖が伸び、先端に小さい棘の付いたボール状の武器が現れた。
『失ってもなお、俺を殺そうとする殺気は衰えずか・・・女というのは強いな、前にも同じ目をした奴を何人も見たな。男よりもずっと強い。ならばお前のその強さ、俺の力で答えよう』
雨が降り始めた。乾いていた薄い地面が徐々に濃くなっていく。そしてあたりの血を洗い流し始めた。
ビリーは武器を振り上げ、とどめを刺そうとした。
「っ!!駄目だ!!」
俺はカードを展開させグレイシアの前に立ち、攻撃を防いだ。カードは一撃で砕け散ったが炎の魔法が反射し、俺の手は軽いやけどで済んだ。
『・・・いいのか?お前は自分の命が惜しくはないのか?』
「あぁ、この世界割と気に入ってね、俺にとっちゃ無駄な16年よりも充実した一か月だった。それに最初に言った条件はこの世界で何しても構わないんだろ?だったら俺の好きなようにする、好きなように金を賭ければ好きなように命も賭ける、それだけだぜ」
『・・・ならば、俺からは何も言うまい。お前が死ぬ覚悟があるというのなら、お前も倒すのみ』
「させねぇよ!!」
「んっ」
俺は地面の泥を投げ、グレイシアを抱え距離を取った。
「あの、その・・・ごめん」
「俺は気にすんな、謝るのは俺の方だ、俺が余計な事をしちまったから」
「それこそ 気にしなくていい・・・どのみち あいつ 相手は 腕引きちぎる 覚悟 だったから」
グレイシアよろつきながら立ち上がった。そして俺はこの時もう一つを見てしまった。右目が潰れてる・・・
あいつの操る電撃・・・あれがグレイシアの右目に当たったんだ。
腕が消し飛んで、右目まで潰れているってのに、グレイシアは声一つ上げないのか・・・そして絶対に倒れない、この意志・・・必ず守り通してやる。
『いい顔だ。怒りや憎しみだけではない。それを貫く覚悟と意志、俺も、全力で答えなければ・・・!?』
ん?どうした?こいつから殺気が消えた?
『・・・と、言いたいところだったが、もう10時は回ってしまった。時間が無い』
そう言い残すと、ビリーはディエゴの元へ瞬間移動した。
「おい!どこに行く!!」
『俺にはまだやるべきことがある』
「・・・ビリー ラックス君。まさか」
ディエゴが何か言いかけたが、ビリーはディエゴの肩に手を置くとその前にディエゴは電撃と共に消えた。
「俺の瞬間移動みたいな技か・・・」
「だけど、それは多用は出来ないはず・・・叩くなら今」
グレイシアの言う通り、俺の瞬間移動も一回やるのにまぁまぁ疲れる。つまりさっきよりは弱ったって事だ!!
『勘違いをするな?今はお前の相手をしてる余裕がなくなっただけだ。それに、ふさわしい相手はまだいる』
殺気!後ろからだと!!
「んな・・・何をやってんだ?」
俺はカードを出し防いだ。これは防げる。だが、こいつは・・・あの 剣。そしてその柄を握ってるのは
「・・・イッチー。いい加減にしなよ・・・」
「トク・・・てめぇ、何しやがんだ」
殺気を込めているのは。トクだった。




