永零 異世界ですべてが交わる時
三上たちはセレスでオーギュストと出会い、ニヒルの本の原本の一つを渡す。
「さぁこっちもグズグズしてられないね。永零、行こ」
「うん」
僕たちはオーギュストって人と別れ、路地裏にある家に入った。そこの地下の入り口の前に僕たちはいる。
「永零、先に行っておくけど、彼女にはくれぐれも失礼のないようにね。クラウドさんはそこまでマナーには厳しくはないけど、男のような態度を取るとブチ切れるから」
彼女?女の格好させるって聞いてたから相手は男の人かと思ってたけど、そうじゃないの?
「では失礼いたします。お久しぶりですね、クラウドさん」
礼は再び本当の女性のように振る舞いながら、部屋の扉を開けた。
「いらっしゃい、待っていたわよ」
の、野太い声・・・でも、しゃべり方のそれは女性・・・まさか、クラウドって人は、僕は恐る恐る部屋の奥に入った。
「後ろのあなた、そんなにかしこまらなくていいわよ」
「は、はい!!」
僕はびっくりして姿勢を正した。その時に彼女?の真の姿をみた。体はごつくて顎が青い。だけど、着ている服装はひらひらしたものが多い衣装。
「うふ。可愛い反応ね、あなたとははじめましてね、あたくしはクラウド プラウド。よろしくね」
「あ、僕は・・・!」
「ん?僕?」
あ、ダメだ!!さっき礼に言われたばかりだった。女性的に・・・
「わたしはえっと・・・」
「緊張してるのね、なら自己紹介はいいわ。あなたはイブスキ エイレイちゃんでしょ?」
「ど、どうして?」
「どうしてかしらねぇ、さ、レイちゃんもエイレイちゃんも座って。お茶にしましょ」
僕たちはクラウドさんの言われるがまま席に座らされた。クラウドさんは何かお茶を入れる準備をしているみたいだ。
「あ!おいらは!?」
後ろからフォックスが飛び込んできた。
「駄目、あなたはこのお茶会を壊してしまうじゃない。外で待ってなさい」
「え~・・・」
礼は女性的な言動を崩さず、いつものようにフォックスに毒舌を言う。
「今日はいいわよ、フォックスちゃんもれっきとした女の子ですもの。お入り」
「いやった~!!」
「よろしいのですか?」
「えぇ、今日あなたが来ることは分かってたわ。それに聞きたいことも分かってるわ、いつも以上にはっきり見えたの。先の未来が」
未来が見えたって、この人って占い師か何かなのかな。僕はあまりそう言うのは信じないんだけど、礼の様子やさっきの強面のオーギュストって人も頼るくらいだから相当な人なの?
「さぁ、始めましょうか」
テーブルにはスープとか、チョコレートに、三段の皿がある・・・これはアフタヌーンティー?って事はもしかしてだけど。
何となくわかって来た、これアフタヌーンティーを楽しみながらその会話の中から情報を聞き出すのか。そう言う事だね、礼。
僕がアイコンタクトを送ると礼はにこっと笑った。
だけど待てよ?僕アフタヌーンティーのルールなんか知らないよ?ましてやフォックスは。
「フォックス、つまみ食いは駄目です。下から順番に味の薄いものから、ナイフとフォークを使ってとりわけなさい」
「ギクっ!!」
横から手を伸ばそうとしていたフォックスに礼はくぎを刺した。でも今ので分かった、ってかフォックスを餌に僕に教えてくれたのか・・・
僕は言われた通りにこなしてみた。礼はもう完全に慣れた感じだ、品がある。王様やってたのは伊達じゃないんだ。
そして礼が紅茶の一杯目を飲み終えた時、口を開いた。
「クラウドさん、今日わたくしが来ることが分かっていたとおっしゃっておりましたが、どこまで見えておりましたの?」
「見えた・・・今回のはそんなんじゃないわ。こんなのはあたくしがこの力に目覚めて以来よ。夢で見るのなんてね、あなたはあたくしに仮面を付けた男について聞くの、その直後場面は変わって、あなたは雨の中傘もささずにただ前を見ていた。そしてあなたは・・・」
いきなりだ、礼が聞こうとしていたことを言い当てた。だけどクラウドさんは肝心なところで止まった。何か言いたそうだけど思い出せない感じかな。でもこの人の占いは夢で見るのか、随分と信憑性のないやり方だけど、でも礼が仮面の男を追ってる事は合ってるんだよね。
「それ以上は言えないわ。思い出せないの」
「あなたが忘れた?不思議ですね・・・」
「あの、一つ聞いてもいいですか?クラウドさん、あなたのその力っていつからあるんですか?」
クラウドさんはゆっくりと手を膝に置いて話し始めた。
「そうね、あなたは聞いておいた方がいいかもしれないわ。少しあたくしの事を疑ってるみたいだし」
「い、いやそんな事!」
「いいのよ、あれはもう何十年も前だったわ。あたくし、元軍人なの、あの時はある人の護衛の任務だったわ。だけどあたくしは任務に遅れてしまった。理由は馬車がぬかるみにはまって抜け出せなくなったって言うしょうもない事よ。それで新米だったあたくしは仲間を先に行かせてあたくしは一人で何とかして後を追ったわ。
だけど通過地点の村で事件が起きていたの、村が燃えて、そこに駐在していた兵士が軒並み殺されていたわ。そこには先に行ったあたくしの仲間も死んでいたの。後から聞いた話ではそこの村で護衛対象を殺そうとクーデターが計画されていたらしいわ。それの衝突があったってね。でも、あたくしは気を失う最後に見た。蛇の仮面を被った男がいたのよ。
そしてそれ以降よ、あたくしは瞑想すると断片的に未来を見れるようになっていたの」
蛇の仮面、なんだろう、僕はそいつを知ってる気がする。礼の話に度々いたからかな、でも何となく蛇の仮面は、知恵を与える者の意味って事を覚えてるんだ。何なんだろう、もしかしたらそいつに会えば、何か分かるのかな。
「お?だいじょぶかー?」
ふと我に返るとフォックスが顔を覗き込んでた。
「う、うん大丈夫!!」
「ん、そっかー」
僕は咄嗟に取り繕った。
「だけど、夢で未来を見るなんてことはずっとなかったわ。この力に目覚めた時に一度だけ、あの時みたのは、赤く染まった空、その下には対峙してる二人。二人は哀し気に互いの剣を振った。そんな夢を見ていたわ。今回のもそれに似てるのよね」
「そうですか、貴重なお話、感謝いたしますわ」
その後も礼とクラウドさんの話は続く、その間僕は礼の真似しながら食べたりして話に耳を傾けた。フォックスは言うまでもなく時折礼に叱られていた。そして気が付けばアフタヌーンティーも残りはデザートだけになっていた。
「今日はいつも以上にお話を聞かせていただいて嬉しいです」
「あたくしもよレイちゃん。でもあまり力にはなれなかったかもしれないわね。あたくしにも分からないことがあるのよ」
「いえ、十分ですわ。後はわたくしが何とかしますので、全て終われば、今度は何も考えずただ楽しむ為のお茶会を開きましょう」
「そうね、今度はいつものあなたで会ってみるのもいいかもしれないわ。あたくしがそう思うなんて、それほどまでにあなたは魅力的な人間って事ね」
「そんな事は無いですよ、それに少し違います。わたくしは・・・人間ではないのですから」
礼が少し悲しい顔でそう言って、このお茶会は終わった。フォックスは残りカスを食べようとしている。
僕はそのフォックスを引っ張って外に出ようとした時だった。
「・・・いや、少しお待ち」
クラウドさんは僕たちを呼び止めた。
「どうされました?」
振り返ると、クラウドさんが少し頭を押さえて礼を見ていた。
「思い出してしまったのよ。そう、夢の続き・・・レイちゃん、あなたが今行こうとしている場所、そこは分岐点となるわ」
礼はドアノブから手を放した。
「分岐点?一体何の・・・」
「世界の・・・あなたは決めなきゃいけなくなるわ、あなたの守りたい平和か、この世界全ての平和か。もし向かえば、あなたはこの世界を・・・」
「・・・クラウドさん、はっきり言った方がいいですよ。何を見たんですか?」
いつもの礼だ。女性的な雰囲気は格好以外からは感じない。
「倒れた一人の女性、あたくしが見たのはそれだけよ」
「っ!・・・もし行けば、彼女を救えば、どうなるんです?」
「世界は、破滅の道を辿る・・・こう言うしかないわね。ともかく世界が壊れるわ」
礼はしばらく黙った。しばらく口を閉じ、ようやく開けた。
「・・・・・・・永零、すまないけど君とはここまでみたい。フォックスと一緒に中央に行ってほしい。君には迷惑ばかりかけて悪いけど、頼める?」
「うえ!?ちょ、礼兄ちゃん!!おいらまた置いてけぼり!?そんなの許さないよ!!」
僕は文句を言おうとするフォックスを掴んで止めた。
「永零もなんで止めんのさ!!」
「信じようよ、礼の事だから何か考えがあるんだよ。そうでしょ?礼」
礼は僕の問いかけにゆっくりと頷いた。
「僕は、神も信じなければ運命というものも信じない。未来は見えても変えられないことはない。運命は自分で、幸運も自らが勝ち取らなきゃいけないんだ。もがくさ、最もいい未来にする為にね。
それにクラウドさん、未来は更に先につながってるんです。もし世界が滅びても、もし僕の選択が破滅の道を選んだとしても、僕はその更に先の、平和に繋がる未来の為に今を戦います」
礼は服を脱ぎ捨てた。そしてコートを羽織り異世輝國を左手に持った。
「永零、これバイクのカギと中央までの地図だ。出来るだけ早く向かってほしい。もう戦いは始まってるはずだからさ」
僕は礼からバイクのカギとこの世界に地図を渡された。
「わかった!僕に出来る最大限の事をするよ!!行こうフォックス!!」
「絶対帰って来いよ!!」
「必ず帰るよ、今度は約束は破らない」
僕はこうして礼と別れた。バイクにエンジンをかける。少し古いデザインのマニュアルのバイクだ、免許なんてまだ持ってないんだけど、礼の運転をずっと隣で見てたから、どこをどう動かせばいいのかは分かる。
一速から・・・僕は右のハンドルをひねる。すると。
『ガックン!!』
「う、うわ!!」
思いの外すごい勢いで発進した。エンジンの音は凄い静かなのに、このバイク相当なじゃじゃ馬だ。軽くひねっただけで一気に・・・
だけど、慣れるしかない!!慣れなきゃいけない!!このまま・・・ギアを上げていこう!!
ぎこちないながらも僕たちは中央へ発進していった。
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僕は奥上階に来た。そこで耳を澄ませる、僕の予測が正しければ、クラウドさんの予言は今だ。今、全てが交わろうとしてる。
そして僕が向かう場所は、セレスから離れた荒野・・・後は、感じたままに向かえばいい。
僕は足元で風を巻き起こし屋根伝いに飛んでいった。この距離ならば僕の全速力の方がバイクより早い。
今度こそ、必ず・・・




