馬と鹿 アンノウン
一兆たちはセレスでチュニアから新たな武器を貰い、エファナと手合わせする。
エファナと別れて、なんだかんだ行くとこもないからってのと、イッチーがもうちょっと見たいって言うから、結局セレスに戻って来た。そして何だかんだここで数週間経った。俺たちは、街をぶらぶら歩いている。
「ねぇイッチーさぁ、前やってたあの瞬間移動?どうやってんの?」
「さぁ、何となく。ま、多分俺しかできなさそうだけどなこれは」
イッチーはカードを手から出したり消したりして遊んでる。大体それもどうやってんの?イッチーよくやってるけど、マジック好きだっけ。
とりあえずそんな他愛もない会話をしながら、俺たちはこの街を観光してた。
「うぉー・・・」
なんだか変な掛け声が聞こえた。そこを見ると真っ黒なドレスを着た子供が店の中にある棚の上の方にあるものを取ろうと頑張っていた。
「なんかあーゆーのって見てるの楽しいよね。微笑ましいというか、可愛らしいって言うかさ」
「うわ、トクお前ロリコンだったの?引くわ~」
「そんなんじゃねって!!」
「あー、即答するあたり余計に怪しいなー。それよりもそいつ・・・なんで仮面なんか付けてんだ?」
ほんとだ、黒いワンピースにマスク。
「舞踏会かなんかか?ほら・・・あいつも」
「ん?天下一?」
「そりゃ武道会だ馬鹿」
ナイスツッコミ!!流石に俺でもそれくらいは知ってるさ!!
「カラスにキツネか?あいつら兄妹かなんかかね?」
イッチーがなんかいつの間にか会話を進めてたから、店の方をもう一度見ると、そこには青い装飾の入った口元の見えるキツネの仮面を付けた男もいた。カラスの方に比べたらなんだかコスプレ感がある。
「・・・なんか面白そ、行ってみよっと」
「あ、ちょ!!」
イッチーはひょいひょいと、店に入っていった。
ってか、何の店だよここ・・・俺も続いて入ろうとした。
『・・・時は、』
「え? うぎ!!」
突然目の前でイッチーが急停止した。おかげで鼻ぶった。
「こらー、なんで急に止まんだよー。おーい!!あれ?」
いつもなら何か、適当に反論してくるのに、何にも言わない。どったのよ。
「おーいってば、聞いてるの!?」
何度言っても返事がない。そこで俺は気が付いた。なんだか急に静かになった気がする。
よく見ると、イッチーは変なところで止まってる。そして周りを見るとさっきの仮面の2人組も全く動いていない。女の子は背伸びしたまま、キツネの方はそれを面白そうに視線を送っているだけ。そのまま動かない。
「ちょ・・・どうなってんのよ」
後ろを見る。そこでどうなってるのかは分かった。飛びだったばかりの鳥も空中で停止し、水たまりが跳ねた水滴もそのまま止まってる。
いわゆる、時間停止みたいな状況になってるんだ。俺は馬鹿だけど漫画は見るからそれくらいの予想は着く。
でもなんでだ?なんで急に止まったんだろ。しかも俺だけ動けるし、紅さんたちが何かしたのなら連絡してくれるはずだけど・・・このデバイスも停止してんのよね。
「え~・・・なにこれ、ゲームがバグったの?じゃどうすんべよ」
ともかくちょっと外の方に出ていこう。
『選ばれしもの・・・』
「おわぁっ!!」
急に横から声をかけられた。びっくりしてこけちゃったじゃないか。
「いてて・・・」
『起きれるか?』
俺の目の前に手が差し伸べられた。
「あ、うん。ども・・・」
俺はそいつに引っ張り上げられた。って、また仮面だ。今度は・・・蛇か。ってか、この人が動いてるって事はみんなも・・・
動いてなかったわ。動けてるのは俺とこの人だけみたい。って事は。
「というか、誰あんた?これってあんたの仕業なの?」
『俺ではない。俺が止めさせたの方が正しい』
うん?って事は、こいつが止めたんじゃなくて、誰かが止めたのか?まぁいいや、そんな事は、とりあえず、なんで声にもやがかかってんの?
「そんな事はどうでもいいや。ってか何なの俺に何か用?」
『お前はどの正義を選ぶ?』
「はい?」
なんだこいつ・・・変なのに絡まれたかも、俺こういう奴苦手なんだよな。意味深になんか変な事だけ言ってる痛い奴。絶対陰キャだよこいつ。
『君には分かりやすく言った方がいいな。俺は、そうだな・・・デバッカーと言えばいいか?』
デバッカーって、バグ見つけたり修理する人の事?それくらいは分かる。
「ふ~ん、で何?何かバグでも見つけたの?」
『そんなところだ。だが、そのバグのありかを知っているのは君だけだ』
「は?バグなんて見たことねーし・・・ってあれ?」
そう言えば、グレイシアって確か自分の事をバグだって・・・それか?でも、あの人そんな悪い人じゃなさそうだったし。
『気が付いたか?そう、グレイシアだ。俺は彼女を見つけなければいけない。教えてくれないか?』
いきなり教えろたって・・・いいのか?あの人も何か理由ありげだった。
「教えたら、彼女どうすんのさ」
『消す。それがこの世界にとって正しい事なのだからな』
「正しいかどうかなんてお前が決める事じゃないだろ。俺イッチーと約束しちゃったもんね、グレイシアさんとデートさせるって。はい、話は終わり帰った帰った」
急に来てグレイシア殺すから教えろとか、マジないわ~。
『本当にそうか?彼女はバグだ、それの意味をよく考えるんだ。グレイシアは本当にいい人か?』
「いい人だよ。クールっぽいけどなんだか優しい感じだしさ」
『違うな。それは君に危害を加えない君にとって都合のいい人なだけだ。彼女は君に危害を加えないが、この世界を止めようとしている』
そう言えば、このゲームをつくるのをやめさせるのが目的だって言ってたっけ。待てよ?こいつの言い方だと。
『君以外の人は傷つける、彼女はこの世界から我々を排除したいと願っている。それがどういう意味か分かるか?』
「・・・紅さんが、危ないって言いたいのか?」
『言い切れはしない。だが、紅にとってはグレイシア ダストという存在は危険にはなるだろう。君はどちらを守る?』
そんな事言われても・・・あの2人が戦っちゃうのか?全然想像つかないんだけど、それよりも正直一番怪しいのはこいつなんだよなぁ。
『・・・だが、今の君ではどちらも守れはしない』
ギク・・・そう言えば、俺ってレベル90行ってないんだったわ。てか、普通にグレイシアとか勝てる気しなかったし。下手すりゃ殺されんの俺だったわ。
『君はまだ、何も守れはしない』
「う、うるせいやい!!俺にはイッチーが付いてんだ!!」
『ふ、馬喰 一兆か・・・だが彼の欲するものは、君が欲するものとは同じではない。君と彼は表裏一体、そして君は表、光なのだ。男鹿 特急』
俺が表だって?いやいやないない。俺はイッチーの腰巾着って位置だから丁度いいんだよ。俺ってばヤンキーやってる割には弱いじゃん?自慢じゃないけどケンカでも、ぶっ倒れた奴に適当に蹴り入れるぐらいしか出来ねぇんだぜ俺は。
「お前馬鹿だろ、俺とイッチーの何をどう見てたらそうなんのよ。馬鹿すぎて草生えるわ~。ばーかばーか」
『・・・君らしい、いい言葉だ。力を持たない事にこそ意味があるか。だが、本当に力はいらないのか?』
「俺、努力すんの嫌いだもんね~、無理してケンカ強くなったところで巻き込まれるのはごめん。見てるから楽しいんじゃん?ま、でも努力も何もせずに強くなれたらな~とは思う事もあるよ?中二病みたいにさ、もしかしたら俺の中には、凄い潜在能力が眠ってて俺はその記憶を忘れてるだけなんだ~的な?」
自分で言ってて思った。そうだったらいいのにな~・・・
『そうか、だったら君にこれを託そう』
「は?」
仮面の男は右手を前にかざした。すると赤い閃光が走って俺は一瞬目を瞑った。そして目を開けると男の手には巨大な剣があった。
なんか変わった形の片刃の剣だな、刀身が赤い。なんか真ん中に鎖があるし・・・
「な、なにこれ!!」
『俺の武器だ。これを君に託す。さぁ、手を出して』
仮面の男はその武器を逆手に持ち、持つとこを俺に向けてしゃがんだ。俺は恐る恐る、持つとこを握った。
「うわっ!!」
握った瞬間、武器は赤い閃光を放って姿を消した。
『君自身の力だ』
仮面の隙間からわずかに見えた黄色く輝く目を俺は見た。笑ってるようだったけど、なんなんだ?
その直後に時間は動きだした。
「いてっ・・・何しやがんだトクちゃんよ・・・って、なにボケっとしてんの?」
「あ、動いた・・・」
「は?」
「今の・・・なんだったんだ?」
俺自身の力?白昼夢ってやつか?多分そうだよな。さっきのは流石に無いわ。
「急にどうしたんだ?馬鹿が余計馬鹿みたいになってんぞ?」
とりあえずイッチーのいつもの毒舌はまぁいいとして、俺は右手を前にかざした。
『バチバチィ!!』
「はぁ!?」
「あ・・・出た」
俺の手元にはさっきの巨大な剣が出現した。イッチーも引いた表情で俺を見てるし、これを出した俺も若干引いてる。
「って重!!!」
俺の出した剣は重たすぎて俺はバランスを崩した。
「うおっとととと・・・とい!!」
結局店の階段に突き刺さった。この音を聞いて店の中にいたあの仮面の2人と店員が出てきた。
「あやや~?何が起きたの?」
「ん?あれは・・・」
仮面の2人は口をポカンと開けて見てる。
にしてもでかい剣だなおい・・・俺は身長低いせいだってのもあるけど、それでも持つとこが俺の頭ぐらいにある。
「お~、それってびりりんの武器じゃん!!なぁんで君が持ってるの?」
「おんめぇ、それどこで手に入れたんだぁ?」
あ、この2人ってやっぱさっきのあいつの知り合いだったのか。にしてもカラスの仮面の性格は何となくのんびりそうだからこんな感じだとは思ってたけど、キツネの方、クールっぽい外見に似合わず田舎っぽいなおい。
「いや、なんかこれ変な蛇の仮面付けた奴が俺にくれたんだ」
俺が今起こったことをありのままに話したら、カラスとキツネは互いに向かい合ってごにょごにょ話し始めた。
「あいっ変わらず中二だよね」
「だよなぁ、おらも大概中二病って自負してっけどよ、あいつ雰囲気も中二病だもんね」
何?あいつやっぱただの痛いやつな訳?2人の会議は続く。そして終わった。
「まぁともかく、これも何かの縁でしょ。あたしの事はカラスちゃんって呼んでちょ」
「オッス、おらはキツネ君って呼ばれてんだ。よろしくな」
何とも不思議な出会いだ。




