オーギュスト 犯行
オーギュストはメリーヌの盗みの予告を受け、セドリックと共に屋上へ行く。
一方、アーサーはこの世界に隠された真実へと到達してしまい・・・
メリーヌ。このタイミングでここを標的にした・・・てめぇはやはり、あいつ等なのか?
俺は最上階へ行くエレベータの中にいる。そこで一人考え事をしていた。
何かが引っかかる・・・俺は重要な何かを見落としている気がする・・・
「あれ?オーギュストさんにしては珍しいですね。そんなに神妙な顔になるなんて」
セドリックは相変わらず呑気なやつだ・・・
「ん?いや、ただこの件とミカミの件、なんつーかもしかしたら全部が一つなんじゃねぇかって思ってよ。全部はなるべくしてなった。そんな気がしてならねぇんだ」
「ぜんっっっぜん訳わかんないですよ。メリーヌにミカミ、そしてなんでしたっけ。四精霊?も全部一個の事件って言いたいんですか?」
「まぁな。普通じゃ信じられねぇが・・・今は普通が普通じゃねぇ。神さま相手に喧嘩するのが当たり前みてぇな気持ちでいかねぇと、ぜってーどっかで詰む」
俺は最上階、玉座に続く回廊に辿り着いた。なんだか慌ただしいな・・・もう何かあったのか?
「あ!オーギュストさん!!大変です!!」
「あ?もうメリーヌが現れたのか?」
「違います!!エルメス様が・・・」
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一体全体どういうこった?エルメスが突然暴れだした?気を失わせて止めたはいいが、病院に搬送された・・・
それに、聞いてねぇぞ。なんでアレックスがここにいんだ?
「なぁ国王陛下。一体何があったんだ?」
「オーギュスト君。私にも分からない・・・何故エルメスがあんな事を」
「そうじゃねぇ。なんで今まで音信不通だったあんたが急にここに現れたんだって聞いてんだ」
「なんでって・・・エルメスから連絡を受けたんだ。戻ってくれって・・・」
おかしい、例の空が光る現象はアレックスの住んでいる地域はもろに影響を受けていたはず。偶然アレックスの通信だけが生きていたなんてことは有り得ねぇ。まさかメリーヌと関連が?いや考えすぎか、だが可能性はなくもねぇ。
「そうか、まぁそれはいい。アレックス、ここに今夜メリーヌがここで最も大切なものを奪いに来ると予告してきた。最初はここに戻ったエルメス自身かと踏んでいたが、あんたの可能性も十分だ」
「メリーヌが?私を攫ってどうする気なんだ?」
「さぁな、怪盗の考える事は俺には分からん。とりあえず警備を強化するぜ」
「あぁ、次から次にいろんなことが起こる・・・オーギュスト、頼む」
さて、とりあえずここは良いとして・・・問題はメリーヌだ。どうやってここに来る?
「オーギュストさん!」
後ろから声をかけられた。
「ん?ユゥロじゃねぇか。今日は帰ったんじゃなかったのか?」
「いえ、俺もメリーヌの事を聞きまして、居ても立っても居られず・・・あれ、アーサーさんはいないんですか?」
「あいつぁもう一つの事件だ。今書庫で四精霊の事を調べてる。あ、そうだユゥロ。こっちは問題ねぇから、アーサーを手伝ってやんねぇか?あいつ、急に手のひらを反すか分かったもんじゃねぇからな。監視役だ」
「あ、はい!!分かりました!」
「なんでぇ、やたらと嬉しそうだな」
「いえ、今までオーギュストさんにお願い事なんてされたことがなかったもので・・・」
そんなんでそうも嬉しいのか?こいつも大概変わってんな。
「お前はアーサーと違って真面目だからな、奴には丁度いい薬だ。俺は助手は雇わねぇがお前の手際の良さはすげぇと思ってるぜ」
「そ、そんな事ないですよ・・・俺なんて。じゃ、アーサーさんのとこに行ってきますね」
ユゥロはルンルンと下に向かった。ほぼパシリみてぇな事押し付けたのに、よく分かんねぇなあいつ。
さて・・・アーサーのお目付け役は付けた。後は俺の方だな・・・もうすぐ夜だ。奴はいつ来てもおかしくねぇ、下手すりゃもう動き回ってる可能性もあるんだ。
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そして十分程度が過ぎた頃だった。
「お!オーギュストさん!ぜぇ・・・たいへん、なんです!!」
ユゥロが血相を変えて戻って来た。その瞬間俺の中に内側から込み上げてくるような不安が頭をよぎった。
「どうした?そんなに息切らして・・・」
ユゥロの肩を叩いた。震えている・・・これは、恐怖か?一体こいつは何を・・・
「アーサー さん が・・・」
ユゥロが顔を上げる。そしてその目には若干涙を浮かべていた。
・・・っ!!俺は嫌な予感がして全力で駆け下りた。
生まれて初めてだ・・・この感情が、絶望って奴なのか?
怒り、で いいのか俺の今の気持ちは・・・
「おい!アーサーゴルァ!!何寝てんだ!!」
俺はぶっ倒れているあいつを、ゆさゆさ揺さぶりまくった。
「アーサーさん!!」
ユゥロも必死に呼び続けている。後ろから続々とガヤがやって来る。
「な、なんなんだこれ・・・」
アレックスも呆けに取られている。俺よ、落ち着け・・・焦るな・・・焦れば見落としてはいけないものを見落とし、どうでもいい事だけ頭に残っちまう。
現実を見ろ・・・こいつに何が起きたのか。何かに貫かれた・・・服が一部焦げている。まさか流血光刃?まさか・・・ミカミ!!
「これ・・・炎ですか?圧縮された熱エネルギーの様に見えます・・・」
いや、違う。これは流血光刃じゃねぇ・・・炎だ。だがただの炎じゃねぇ、炎だけで貫いた。そしてこの焦げ具合・・・あいつらから聞いた、フォックスの使った青い炎。だが、あいつはこれ程器用には扱えなかった。だとしたら・・・これは、フォックス以上の青い炎の使い手だ。
そして・・・ここで何があったのか分かった。俺が読んでいたあの本が無い・・・
「まさかメリーヌ・・・なのか?」
俺の放った一言。ここにある最も大切なもの・・・そして無くなったあの本・・・
「それしか・・・ねぇ、奴には謎がまだまだある。青い炎も奴なら」
俺の頭がそう断言した。そこからはそれしか考えられなくなった。
「ユゥロ!!奴を追うぞ!!」
「はい!!」
どこかにいるはずだ!!俺が上に上がる前にセドリックにはここから誰一人と出さないようにと伝えた。地下も封鎖済み・・・どこかに紛れているはず・・・
「オーギュストさーーん!!」
「今度はなんだ!!」
セドリックがやって来た。
「メリーヌが現れました!!」
「なんだと!!」
俺はセドリックと共に屋上へ向かった。
「やぁオーギュスト、今回は良い判断だったね。まさか目的の物はもうここにはいないなんて・・・」
『バキャン!!』
俺は問答無用で拳銃をぶっ放した。弾丸は肩に当たる。
「なっ!?くっ!!いきなり酷いじゃないか!!」
「うるせぇ!!てめぇにそれを言う筋合いはねぇだろ!!今までは物は盗っても殺しはしなかったから見逃す事もあったが、それを犯したお前は今日ここで捕まえる。もしくはここで殺す!!」
「はぁ?私は殺しはしないのがモットー。オーギュスト何言ってんの?」
「しらばっくれんな。俺の読みは外れた。お前の目的は四精霊の本だろうが」
「そんな本は知らないわよ。私の目的はエルメス アダムス、彼女を手に入れる事。だけど彼女はここにはいない。てっきりあなたが真っ先に私の目的を悟ったのかと思ったわ」
本を知らねぇだと?ふざけんな・・・そんなはずはねぇ。
「てめぇしかいねぇんだよ。アーサーを殺せる奴はお前しかいねぇだろ?なぁ不死と名高いメリーヌ アルセナよぉ」
何度かこいつを追い詰めたことはある。その時に一度今思えばやり過ぎと言われるように、完全包囲して一斉射撃を受け死んだかに思われたが、奴は何故か生きていた。
後から出てきたんじゃない。その場で生き返ってそのまま逃げ延びた。
「アーサーが、死んだ? これは、ちょっと私の計算外かも・・・奴ら、まさかそこまで手を回してるなんて・・・オーギュスト、今のあなたには何を言っても無駄なようね・・・計画を練り直さないと。アーサーの事は、ご冥福祈るわ」
メリーヌは屋上から飛び降りた。
「っ!待ちやがれ!!」
六十階の屋上から飛び降りたメリーヌは、その姿を完全に消した。
「追うぞ!!ユゥロ!!」
俺はユゥロの手を引こうとしたが、ユゥロはその俺を止めた。
「もう無理です・・・奴を追うのはやめましょう。今は、事態の収束が先です」
「・・・っ、そうだな。奴を追うのは後だ。今は、アーサーだ」
この日、起きた複数の出来事。すべてが一つに繋がるには、まだ俺たちは何も知らなさ過ぎた・・・
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ピアノが鳴り響く薄暗い部屋、そこには一人の青年がピアノの前に座り物悲しい曲を弾き続けていた。
「何故、アーサーさんを殺したんですか?ディエゴ・・・」
その暗い部屋にはもう一人、壁にもたれ立っている人物がいた、ディエゴ アンダーソン。
「君には、済まないことをしたね」
「彼は殺される必要はなかったはずです。三上の真の目的を探る事は俺たちにとっても有益な事。それなのに何故・・・」
「アーサー コンシンネ君は、知ってしまったんだ・・・知ってはいけない世界の秘密を・・・だから殺されてしまった。本当に済まない。俺がもっと早く行動していれば、止める事が出来た」
「誰もあなたも、殺ったキツネ君自身も責める気はないです。みんな自分のやるべきことをこなしただけ・・・誰も悪くない。
むしろ悪いのは、中途半端な立ち位置の俺だ。ディエゴ、あなたには感謝してます。あなたがいなかったら俺はミュージシャンを夢見る病に伏せた少年のままだった。でも、またこの世界で暮らすようになって、そしてアーサーさんやオーギュストさんと出会った、俺、あの人たちの世界を守りたいって思うようになったんです。アーサーさんとオーギュストさんが、いがみ合ってても互いに能力を認めてる。そんなあの人たちを見守りたいって、思ってたんです。全部俺が悪いんだ。どっちつかずな俺が・・・」
「そう自分を責めるんじゃない、ユゥロスター ファーレンハイト君」
「その名前で!呼ばないでください!!」
『ガァン!!!』
ユゥロはピアノを鍵盤を思いっきり叩きつけた。
「俺はただのユゥロ スター。ドイツ人を親に持つイギリス人の少年は元からこの世界には存在していないんだ。ディエゴ、あの時の実験、まだ覚えていますか?」
「あぁ・・・忘れるわけない。逆異世界転移実験、この世界で生まれ育った被験者を、逆に我らの世界に送り込みその経過を観察する実験だ。
君は2人の被験者の内の1人、組織に捕まった君の記憶を俺が変え、ユゥロスター ファーレンハイトという別の名を授けた」
「はい、そして俺はイギリスの全く血のつながらない両親の元に送られた。そしてごく普通に暮らしていた」
「だが、この世界と我々の世界の環境の変化に耐えきれず、君は病床に伏せた、そして更なる異変が起きた。ホルモンバランスの乱れだ」
「そうです、俺はいつの間にか恋愛対象が男性になっている事に気付いた。いや、気が付かせてくれたのか。最初は認めたくなかったけど、そこはもう認めるしかなかった。だけど・・・」
「もう一人の被験者。彼はよりその影響を受けた・・・性別という概念が消えてしまった生物となってしまった。だが彼女はもういない・・・その結果を受けて俺は急遽君を元の世界に戻した」
「俺が同性愛者になったことはもう変えられないし、変わるつもりもないけど、俺はまたこの世界に戻ってこれた。あのままあなたが俺を戻してくれなかったら、俺はあいつみたいに死んでしまったんだろうな・・・ノース スター。
ディエゴ、俺はどうしたらいいんだろう。俺はあなたも守りたい、だけどオーギュストも死なせたくないんだ」
「裏切るなら今しかないだろう。俺は君の恩人ではあるかもしれないが紛れもなく敵だ。それに、正直な話をしよう。今はまだ我々の組織は強大だが、坂神 桜蘭君に神和住 零羅君、麗沢 弾君。そして三上 礼君。あの子らはもしかしたらこの組織を潰すほど強力な存在になりうる。俺の真の目的の為にも、そうした方がいいのかもしれない。生憎俺は今裏切る事が出来ない。決めるのは君だ、どうする」
「俺は・・・やはり、裏切れない。あの子らの強さは分かっている。だがあの子らは俺たちの目的以上の事を成し遂げてしまうかもしれない。あなたの真の目的には、やはりあなたがいなければならないんだ」
ユゥロは立ち上がると、壁に架けられた一本の装飾の入ったギターを取り出した。
「そうか、ならば・・・行けるか?恐らく数週間後にカラスちゃんから連絡が入るはず。あの子らとの決戦だ。その時までにもっと腕を磨くんだ」
「あぁ・・・」
ユゥロはギターを一回鳴らすと先ほど弾いていたピアノが一瞬で無残にも砕け散った。
「全ては、あの人の平和の為に・・・」




