礼 異世界の出会い、訪れた運命
三上は森の中で指宿 永零と言う少年に出会う。
声が聞こえた。
助けを求める声・・・僕はその方へと走った。
すると一人の少年が泣きながら走っているのを見つけた。そしてその後ろには、バケモノ、彼らの呼び方だとフィアーズビーストがいた。
二十年ぶりの出会い、僕はあのビーストを見た瞬間に動いていた。怒り、憎しみ。こいつは僕の平和を奪った。だけど同時に悲しみがあった。このバケモノは誰も望まずに生れ出たもの。僕は哀しくバケモノの心臓を握りつぶした。
僕は少年を救った。だけど分からないことが起こった。僕はまだあのバケモノを倒せてはいなかった。そこまではまだ予測できていた、僕がとどめを刺そうとしたとき、少年は僕を救った。そこが分からなかったんだ。
かつて、ビーンが僕を見つけた時と少し似ているって思った。だけどあの時とは全く違う事が起こった。少年は、一瞬のうちにバケモノの牙を折り仕留めていた。
仕留めていたんだ。何の脈略もなく、仕留めた結果が僕の目の前にやって来た。
「永零です。指宿 永零・・・」
少年の名を聞いた、僕はこの少年に妙な親近感を覚えた。まるでずっと探していた誰かに会えたような。浴衣姿で髪は少し癖のあるボブ、そして僕と対照的な真っ白な髪を持った少年。
指宿 永零。
この少年との出会いが僕の物語を大きく変えることになった。
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「おーい!!礼にいちゃーん、はやいよぅ~!!」
後ろからフォックスがのそのそとやって来た。姿は人ではなく、見慣れたずんぐりむっくりのあの狐の姿だ。
「とぅ!!」
そして飛び乗ろうとしたのか、ジャンプしてきたけど・・・そっちは。
「わぁ!!いきなりなんだ!?なにこのもふもふしたの!!」
「ありゃ?礼にいちゃんじゃないや。ごめんよあんちゃん」
フォックスは間違えて永零の上に飛び乗ってしまった。
「なんでかねぇ、まちがえちった。あっ、おいらフォックスって言うの!!マイケル Jふぉ!!」
僕はこれ以上言わせまいとフォックスの頭を小突いた。
「何すんだよぅ!」
「人様の名前をパクるんじゃありません!」
「えぇ~・・・かっこいいのに」
フォックスは不貞腐れたかと思うと、永零の膝にのそっと座った。多分永零からしたら重いだろうなぁ。
「しゃべる・・・狐・・・」
永零は目を点にしてる。そりゃそうか、動物がしゃべる自体おかしいもんな・・・
「あの、ここは一体どこなんですか?それにさっきのあの怪物・・・君は、なにかしってるの?」
永零はフォックスを抱きかかえながら僕に色々質問をぶつけてきた。
さて、どうしたものか・・・今まで現れなかったバケモノの再出現に、新たな訪問者。一体何が起きてるんだろう。正直な話、僕もよくわからないってのが一番の答えなんだよな。
それに、さっきのこの子の能力、既にもう一つの力を身に着けているのか?ちょっと確かめてみようかな・・・
「君の質問に答えるにはちょっと難しいことが多いんだ。その前にちょっと目を瞑ってくれる?」
「う、うん。分かった・・・」
永零は素直に目を閉じた。
「いてっ!!」
僕は永零の頬に傷をつけた。そして一瞬で治った・・・
「いきなりなにするんだよ!!」
「ごめんごめん!ちょっと確かめたかったんだ。どうやら君は既に覚醒に至ってるみたい。これなら君の質問にも少しは答えられるね。その前にこっちの質問に答えてくれる?君はここに来た時激しく怒ったりとかした?」
「えっと・・・気が付いたらここにいて、あの時あの化け物が現れて、最初はドッキリか何かと思ってたんだけど、みんな誰も来てくれなくて・・・あの時かな、どうしてこんな目にとか、なんで誰もいないんだよとか考えてたら凄い怒りが沸いてきた。けど・・・その直後にあの化け物が怖くなってきて・・・そしたら君が来たんだ」
成程、一時的に感情がオーバーヒートして、覚醒したのはいいけど、その直後に来る冷静さが現実を突きつけてきたって言う事か。不幸中の幸いというべきなのかな・・・
でも、どういう事なんだろう。僕の時もそうだ、ニヒルさんの本の通りならば、異世界に来た者の近くには必ず彼らがいるはず。だけど僕の時はバケモノとビーンさん。そして永零は同じくバケモノと僕。彼らがバケモノを監視している事を見越して奴に気付かれる前に殺したけど・・・
何故観察対象である僕たちをいきなり殺そうとしているんだ?
「あの・・・どうかしたの?」
永零は不安そうに僕を見ていた。さて、これこそどうしようかな。ここに置き去りには出来ないし、かと言って一緒に行動するのも危険だ。
「なぁなぁあんちゃん。おいら、悪い奴をやっつけに行くんだけどさ、一緒に行く?」
フォックスがいきなり過ぎる事を言い出した。
「え、あ、え?悪者?どういう事なの?」
案の定、永零は全くフォックスの言っている事を理解できていない。
「フォックス、いきなり他人を巻き込んじゃダメでしょ。うーん・・・僕たち、ちょっとある組織と揉めてて、ね」
無理やり話を切ろうとしたけど、どういう訳か永零は凄い食い下がって来た。
「揉めてるって、どういう事なの?僕、力になるよ。こう見えても運動神経はいいんだ。だから詳しく教えてくれない?」
「・・・いや、実は」
僕は懇切丁寧に現状を教えた。ここが異世界である事から始め、実はここは実験のための世界であるとか、僕がかつて世界を支配していたことは言ってない。申し訳ないけど、ここに来た時点で巻き込まれたも同然だから・・・仕方ないか、巻き込ませてもらうよ。
「そんな・・・じゃあ僕らはそのアウロとか言う組織の実験でこんな目にあわされてるって事!?」
「そんなとこ、それで僕たちは彼らに対抗する為に今旅をしてるんだ」
「許せない・・・僕、絶対に許さないよ!!そんなふざけたことが現実で起きてるなんて!!」
この子、異様に正義感が強いんだな・・・だからこそ選ばれたのか?僕以上に平和への思いが強いのかもしれないから。
「おー、一緒にやっつけるぞー」
フォックスは永零に同調してる。にしても珍しいな、フォックスは確かに人懐っこいが、ここまで気を許してるのは滅多にないぞ。ましてや、頭の上からずっと降りてこないなんて・・・
「仕方ない、一緒に行こう。だけど気を付けて。僕は今誰にもバレるわけにはいかないんだ。僕は今死人扱いだからね」
「分かった!慎重に行く!」
僕らの旅は始まった。僕とフォックス、そして永零。この3人の旅、僕らはまずボーダー地区のエイド側、かつてセイアン村があったとされる廃村の奥の洞窟だ。
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僕は僕専用のサイドカー付きでエンジン音がほとんどしない特殊なバイク暗殺刃零號って言う凄いネーミングのバイクに乗り発進した。シィズが僕の車庫から持ってきていたらしい。
そして道中僕は永零とフォックスと少し話していた。
「にしてもフォックス、随分と永零君の頭気に入ってるね」
「なんだか、似てるんだよねぇ。礼にいちゃんの頭の感じが、座り心地がいいもん。あ、膝もお気に入りだよぉ」
フォックスは今度は永零の膝に乗った。
「にしても、狐がしゃべってるって不思議・・・礼さん、異世界ってこれが普通なの?」
「うーん、普通じゃないかな。僕もフォックスが何で喋ってるのか分かんないしね」
「へぇー」
永零はフォックスを抱っこした。
「あれ、でも君ってキタキツネだよね。キタキツネってこんな目の周りに隈取みたいな化粧ってあった?」
ふと僕はフォックスに視線をやると、前までなかった狐の化粧みたいな赤い隈取が少しフォックスにあった。
「んお?おいら化粧なんてしたことないぞ?」
「でも、なんか増えてるよ?」
人間になれるようになって何かが変わったのか?でもなんなんだろう、フォックスも不思議なんだよなぁ。
「あ、そうだ永零のにいちゃん、凄いの見せたげる!!とう!!」
「うわ!!」
フォックスが突然飛び上がったかと思ったら急に人間の姿に変わった。
「フォォォォッックス!やめんかー!!」
フォックスが人間になったせいでサイドカーがパンパンだ。ハンドルが!!ブレる!!
「どや!!凄いでしょ!!」
「人間になった・・・でも、耳とかしっぽはあるんだね。でも、狭いよ・・・」
「だねぇ」
「こらぁーっ!!バイクの上で暴れちゃダメって前にも言ったでしょ!!」
僕はいい加減叱った。フォックスは好奇心旺盛なせいかやたらと動く。バイクで運転しててもお構いなしに上に乗って来る。そのたびに叱ってるんだけど・・・
「あ~、ごめんちゃい」
「まったくもー!!」
フォックスは元の姿に戻った、今度は永零の膝の上で大人しくしている。
「にしても永零君、その白い髪って珍しいね。生まれつきなの?」
「うん、アルビノってやつなんだって、だからほらちょっと目も赤いでしょ?あ、そう言えば僕こう見えて、一応モデルやってるんだ。読者モデルってやつね、それでそろそろ夏だから浴衣の撮影してたの。その撮影の休憩中にうたた寝してたらここにいたんだよね。なんかあの時凄い大きい音がしたと思ったんだけどなぁ」
成程ね、時間軸的にもちょうど向こうもここと同じ時期なのにどうして浴衣なんだろうなって思ってたらそう言う事か・・・
「んお!?モデルさんなの?あんちゃん!!すっごいねー!!サインちょうだーい!!」
「あいにく、書くのがないんだ。今度書いてあげるよ」
「やったぁ!!あ、そういやニヒルおねぇちゃんもモデルにスカウトされたことがあるって言ってたなぁ。なぁあんちゃん、ニヒル アダムスって聞いたことある?」
永零はその人の名前を聞いた瞬間、ピクっと反応した。
「んっ!!っく!」
「お!?どったの!?」
「い、いや・・・なんだろう。その名前、凄い聞き覚えがあるような・・・懐かしいような。だけど同時にこれは・・・怒り?いや、悲しいの?」
永零はニヒル アダムスという名に異常なほどの反応を示した。
「ニヒル アダムスは向こうの世界では2年ほど前に遺体で発見された人の名前だよ。1967年に突然行方不明になって、その50年後、当時のまま遺体で発見されたってやつだ」
もしかしたら永零は何かニヒルに関係があるからこの世界に呼ばれたのかもしれない。桜蘭君みたいに、親戚のような関係だったのかも。
「あ、そう言えば聞いたことがある・・・ってあれ?似たような事件がちょっと前に、2年前の失踪事件の人の名前って確か、三上だったような。まさか!?」
「あ、その事件覚えてたんだ。そうだね、僕がその三上 礼だ。それで、ニヒルさんに関しては何か思い出した?」
「うーん、なんだろうなぁ。何か重要な人だったって気がするんだけど・・・なんだっけ、ごめん思い出せないや。多分、事務所で同じ名前を見たのかも」
「そうなの、思い出したら教えてくれる?ニヒルさんはまだわからないことが多いから、少しでも情報があると嬉しいんだ」
「うん!頑張るよ!」
もうすぐ目的地に着く。その間にはバケモノらしき音が遠くに聞こえていた。間違いない、奴らはバケモノをコントロール術を手に入れた。桜蘭君たちのおかげで機械による世界の監視は出来なくなったけど、代わりにバケモノを使って監視する事を始めたんだ。
「近くにさっきのバケモノまたいたね。気が付かれなかったみたいだけど・・・異世界ってこうも怖いとこなんだね」
永零もバケモノの存在を気付けるらしい、それにしても永零、いきなりこんな状況なのに、凄い順応が早い気がする。異世界にいるって事実だけでもかなりショックな出来事なのに。ってあ、僕も妙にすんなり受け入れられたんだよな。似てるのかも、永零と僕は・・・
「どうしたの?礼さん」
「そのことだよ永零君、僕の事は呼び捨てでいいよ」
「あ、そうなの・・・僕もなんだか礼さんって言いにくいなって思ってたとこなんだ。僕の方こそ呼び捨てでいいよ。礼、なんだか君となら楽しくやれそうな気がするな」
永零はにっこりと笑った。すこし落ち着いてきたのかもしれない。恐怖は覚醒しててもビースト化を早めえるから、良かった。
「僕の方も、君とはうまくやれそうな気がする。よろしく永零」
「おいらも!!おいらも呼び捨て!!今度もう一人家族紹介するよ!!おいらたち3人家族だからさ!!」
「まったく血は繋がってないけどね。大切な家族だよ・・・グレイシアは」
「じゃあ、その家族の、笑顔を守るためにも戦わなくちゃね!!」
「そうだね、一緒に戦おう。永零!!」




