桜蘭 取り返しのつかない凡ミスと、風のシルフ
桜蘭と零羅は二人、それぞれの技を磨いていく・・・
俺は零羅との修行を終わらせて、少し休憩した。零羅はまだ岩に向かって練習をしている。
『おいサクラ、そう言えばお前四精霊を探してんだろ?ちょうどこの荒野だ。シルフと最後に会ったのはな』
『ここで会った?いつのことッスか?』
『何年も前だ。俺は元々野生の馬でな、そん時ここでよく競争してたんだよ。あいつ滅茶苦茶早くて結局勝てなかった。その後人間に捕まったって訳だ』
『捕まった?なんでそんな事になったんス?』
『いやぁ、俺よく農場を荒らしてたからなぁ。それが原因じゃねぇか?』
あぁ、この暴れ馬は俺と出会うまでは誰の言う事も聞かなかったんだっけ。だから捕まってたのか。
『にしても、負けたとはいえさっきの戦い、最後のアレは見事だったな』
『へっへ。こう見えても三上を倒してんスからね!』
『あんま調子こいてんじゃねぇ』
俺はランサーの前足で頭を小突かれた。
「ふぅ、桜蘭さーん!わたくしの方はそろそろ終わりまーす!」
零羅が修行を切り上げた。よし、もう少し休憩してから行こうか。
「桜蘭さん、またランサーさんと話してたんですか?」
「まぁね、丁度三上の事を話してたところッス」
「三上さんですか、あの人だけは今だによく分からない方ですね。どこまでが虚言でどこまでが真実を言っていたのか・・・」
ほんとそうだよなぁ。彼らを混乱させるためとはいえ、嘘と真実を混ぜ合わせてくれたおかげでかなりややこしい事になったんだよな。核の正体だって、スチュワートさんのいたあの場所が発射台だったってオチだったし・・・あれ?何か忘れてるような・・・
『どうしたサクラ、なんか忘れたのか?』
「いや、どっかでかなり重要な事を忘れてきたような・・・」
「忘れ物ですか?するとすればワダツミさんのいたアトランティスか、最後戦った中央のビルぐらいでしょうか、でも何か忘れるような物ありましたっけ?三上さんの剣があそこにあるとは言ってましたが」
三上の剣、流血光刃・・・あいつの武器、武器?あ!!?
「やう゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛い!!!!」
「きゃ!!」
『うお!!』
俺は思い出した瞬間にに大声を上げた、とんでもない物をあそこに置いてきちまった!!!
「どうしたんですか!?急に!?」
『すんげぇ声だったぜ?きめぇなぁ』
「俺!あそこでとんでもない物を置いてきちまった!!三上の奴、あいつ体内に小型の核を隠し持ってたんスよ!!んで戦いの途中でそれを取り出して・・・その後三上を倒して・・・つまり、核爆弾をビルの屋上に置き去りにしてきたんス・・・」
「え・・・」
『かく?』
「ランサー、核ってのは、町一個を消し飛ばせるような悪魔の兵器ッス。俺はそれをあんな街中の屋上に・・・」
『まじ?』
『まじッス』
しばらく沈黙が流れた。
『やう゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛い!!!』
二人声を揃えた。一人と一頭か。まぁどうでもいいか。それよりも
「い、今ごろ現場検証入ってるんじゃないですか!?どうしましょう!!」
「どうしよって俺に聞かないでほしいッスよ!あの後立つのもやっとの状態でいきなりグレイシアにダストシュートされたんスから!!どうしようもないんス!!あ、そうだ!!状況を聞けばいいじゃん!!!」
俺は周りの動物たちに呼びかけた。
『すまん!中央の様子を知ってる奴っている?』
『あ?知らんわそんなの』『しらねぇっぺよ』『遠すぎんよ~』
駄目か。俺が呼びかけれるのはせいぜい半径数キロ。それ以上先の動物の声は聞こえない。
『あ~仕方ねぇな!!よっしゃ!今から中央行くぞ!中央!俺の全速力を持てば二日とかからずに行けるぜ!!』
「それしかなさそうッスね!!」
計画変更!!四精霊はちょっと後!!今は核が最優先だ!!
俺はランサーによじ登り、いざ出発しようと思ったその時だった。
『餌、みつけたぁ・・・』
俺の脳内に嫌な声が聞こえた。動物達とは何か違う。なんだこれは?
『チッ!こんな時にかよ!』
『人間二人・・・馬はいらない』
何体かいる、ランサーは周囲を警戒しだした。零羅は気配を察したのか臨戦態勢に入っている。
「ランサー、この声って何なんスか?」
『動物には違いねぇ、だが俺たち以上にずる賢く、常に餌を求め彷徨っている。人間は害獣って呼んでるな』
害獣、前の旅で何度か出会った、人間に害をなす動物達。成程、これは駆除対象と言われるな。同じ生き物とはいえ、こいつらは欲望そのものしかない。他の動物とは何か違うものを感じる。
『なぁ、あんたら。俺は餌じゃない、ここは大人しく帰ってくれないッスか』
俺は害獣たちに話しかけた。
『この人間、はなした。言葉分かる』
『だけど餌だ。食べる』
『そうしよう』
駄目か、こうなったら力でねじ伏せるしかないな。
「おい、こいつらには何を言っても無駄だぜ若いの」
ん?
声が一瞬聞こえたと思い振り返ると、後ろから叫び声が上がった。
『ぎゃむ!!』
再び振り返る、そこには綺麗に宙を飛ぶあの害獣たちがいた。
「空が光ったもんだから、久しぶりにここまで顔を出して見りゃ、なにがどうなってんだ?」
普通の声、人間か?
「特にお前、そこの金髪。お前ランサーと話せる上に害獣どもの言葉すら理解できるのか。お前何者だ?」
「あ、俺ッスか?俺は坂神 桜蘭ッス」
「変な名前してんな」
声は聞こえるんだけど、声の主はどこだ?
「俺はここだぜ、サクラ」
後ろからいきなり前に押し倒された。
「ぎゃ!!」
「ほぉ、お前ここの人間じゃねぇな?いつ以来だ?異世界の奴に会うのはよ」
俺に触れただけなのにそんな事が分かったのか!?一体どんな奴だ?俺を抑える何かは腕か何かだろう、爪が食い込む、それに微妙にぷにぷにした感触があるな。
あ?人間ならこんな風にはならないだろ。振り返れない。
「喋る・・・狼?」
零羅がボソッと呟いた。
「狼?違うぜ、姿は似てるかもしれねぇが俺様はこの世界の風と共に生きる存在」
『シルフ!久しぶりじゃねぇか!!』
答えをランサーが言った。俺の上にいた奴はようやくどいてやっと起き上がれた・・・てか、狼?シルフ!?
俺が前を向くとそこにはプラチナ色の長く美しい髪がなびき、同じくプラチナ色の体毛をした狼の様な生き物がいた。だが、耳が背中まで伸びている異常な長さで、目元もターコイズブルーのアイラインの様な模様がある。
これは狼じゃない、そして只の動物でもない。なんか、こう、神々しいような雰囲気を纏っている。俺が受けた印象はそれだった。こいつが、風のシルフ・・・
『にしても、ずっとどこに行ってたんだ?何年も姿を見せなくてよ』
「あぁ、どうもずっと眠ってたみたいでな。俺は眠るつもりじゃなかったんだが、いつの間にか寝てたらしい。そしたら変な声が聞こえて外に出てみたら空が光ってたってところだ」
そう言う事か、ワダツミの言ってた四精霊は眠っているってのはこういう事か。俺はそれを起こしに行くって事だったのか・・・だけど、変な声?俺が呼びかけた時のかなぁ。
「あ、あのシルフ さん?変な声ってのはどんな声だったんスか?」
俺は恐る恐るシルフに尋ねた。
「さぁな、なんで眠ってたのかもなんで目覚めたのかも分かんねぇんだ。ただ目覚めろって言葉と共に急に昔の言葉を思い出したんだよ。
『四つの試練を超えし者、新たなる支配者とならん。覚ませ四つの力、獣を使いし支配者よ』ってな」
試練?
「つまりだサクラ、俺様はお前に試練を与える為に目覚めたってところだと俺様は思ってるぜ」
「ぅえ!?いやいやなんでそうなるんスか!?」
試練って、こんなのにどうやって立ち向かうんだよ!現にさっき俺が目で追いきれなかったんだぞ!?
「お前しかいねぇだろ?サクラ。現にお前は動物と会話が出来る。ましてやこのランサーが大人しくしてるレベルだ。お前がその言葉の存在って考えるのが一番だろ?
それにだ、お前は中央に行きてぇんだろ?俺様の速さなら数十分でたどり着けるんだぜ?」
シルフは俺を見下したような口調で煽る。
「いや、流石にそれは嘘ッスよね。だってここから二日かかる距離を数十分って、少しサバ読み過ぎッスよ」
流石にサバを読んでるはずだ。シルフは俺を掻き立てる為に言ってるんだ。
「どうかな、知りたければ俺の試練を受けて見な。冗談はその後から言いやがれ。第一お前は俺を呼び覚ましに来た。だからと言ってこの俺様がホイホイとお前に従うと思うか?俺様は俺様より弱い奴には絶対に従わない。試練を乗り越えるしかねぇんだよ。それがお前の使命だろうが」
そうだった。俺は四精霊を見つけ仲間にし、その力を使い彼らに対抗する。出会えばそれで終わりだなんて簡単な話じゃないんだ。
俺自身が四精霊を従える程の力が無ければ意味がない。俺は超えなくちゃいけないんだ。この世界の動物たちを操る力を持った時点で俺は、この世界の動物のどれよりも強くなくちゃいけない。それが俺の使命なら・・・
「分かったッス。シルフの言う通りッスね。動物の世界は弱肉強食。俺が弱ければ食われるのは俺だ。俺は動物たちの支配者。あなたの試練受けさせてもらうッス!!」
「へぇ、少しはいい面構えが出来るんだな。いいぜ遊んでやる!!俺の攻撃を一発でもかわせたら試練クリアにしてやる!」
「え?そんなんで良いんスか?」
「あぁ問題ねぇ。だが、お前の目で俺の音速を超えるスピードは捉えられるかぁ!?じゃあ行くぜ!!」
四精霊の試練その一、風のシルフの試練開始。