一兆編 第十五話 デンジャーハーブ
チアキがお手上げといった表情で固まっていた。
「これは・・・海のど真ん中か?」
「そ、しかもクラーケンの活動範囲内。船だろうが潜水艦だろうがあそこに踏み入れたら死んじゃうよ」
なんだよそりゃ。チアキの持っていた地図に指さされた場所は遥か北の海の中。周囲には島一つない、それにクラーケンか。
確か今は南の海で見られるんだったよな。でもあれは本体のほんの一部らしい。本体はどこの海にも足を延ばしているほどの巨体。南にいるからと言っても無意味か。つーかどんだけでけぇんだよ。
「はぁ、なんでクラーケンなんつーもんがこの世界にいるんだよ全く、イーサンよ、あいつ確かビーストだったよな。何であんなもんが生まれたんだ?」
「クラーケンの元が誰かは不明だ。私もアウロに入った時にはもう存在していたからね。それに、あれに関してはアウロの技術でもコントロールが不可能な上、接近しようものなら巨大すぎる足でヘリも落とされて接近が出来ないんだ」
「ヘリ?戦闘機でも使えばいいじゃん」
前から気になってたけど、この世界にはなんで飛行機がねぇんだ?技術的に出来ててもおかしくねぇし、アウロなら持ってるはずだろうに。
「実は、この世界で高高度の飛行は危険すぎるんだ。上空5000メートル付近はドラゴンの住処でそこに侵入すればバードストライクもとい、ドラゴンストライクが起こってしまうんだ。それもあってこの世界では空は神聖な場所として扱われ航空機は作られていない。それにアウロとしても戦闘機は使えないことはないが、使えば誰かに見られてしまうだろ?」
「なーる」
水中はクラーケン、上空はドラゴンか・・・どうりでこの世界の地図は平面しかないわけだ。地球儀なんつーもんはまだ作られてすらいないのね。それに地図は未完成だし。
引っかかるな、このクラーケンとか言う存在。アウロも奴も不干渉となると、何のために他のバケモノと違う行動を起こしてんだ?まるで海の向こうに行かせないためにいるかのようだ。
「クラーケンは人間が海岸から50キロ離れると絶対に襲われちゃうから、あそこに絶対人間はいないはずなんだけどね。これどういう意味なんだろ。おれの探知ミス?」
チアキは結局状況が打開できず頭を抱えていた。
「・・・まさか、チアキ君。最初に確か言っていたよね。本当に人間なのか?と」
しばらく考え込んでいたイーサンが何かを閃いたかのようにチアキに聞いた。
「うん、確かに言ったね、でも人間以外にあんな風にスピーカーをジャックして放送する生き物なんかいないでしょ?」
「いや・・・いるんだ。私もこの間初めて零羅ちゃんたちから聞いた。アウロも知らない知的生命体。人魚がいる」
にん・・・なんつった?今、おとぎ話的な言葉が聞こえたような・・・
「人魚?」
「にんぎょ?」
「にんぎょ・・・ってなに?」
ディ・ゴイも一緒に聞き返したが、一人だけ何も分かってない感じだ。
「そんなおとぎ話に出てくる奴が、この世界に実際にいるの?」
チアキは半信半疑の様相でイーサンに聞き返す。
「いる、そしてその人魚には三上君も絡んでいた。これは聞いた話でしかないが人魚は三上君が発見したものらしい、そして人魚たちにアウロに対抗しようと声をかけていた。人魚はそれを快く承諾していたらしいが・・・」
イーサンはそこで口ごもった、俺もそこに引っかかる。人魚がいるいないはどうでもいい。問題は対応だ。人魚共は初対面で尚且つ初めて見る生き物に対してどうしてそんな心を開く真似をした?普通はあり得ないだろ。何か見返りを求める・・・
「おいまさか・・・見返りが、大麻か?」
俺はふと言葉に出してしまっていた。そしてその言葉にイーサンもはっと気がついたような反応を示した。
「確かに・・・人間と人魚は姿形も似ていて、同じ言葉も交わす。だが全く別の生き物だ。大麻草は人間にとっては中毒性の高い麻薬。しかし人魚にとっては別の何かに成りえたとしたら?そして人魚にも独自に文化がある。色んな意見・・・表と裏。否定派もいた」
イーサンに続きチアキも理解していく。
「それなら全部納得がいく、海の中で大麻草なんか栽培できないしね。要するにこうか?ミカミはディ・ゴイの作る大麻等の麻薬を、黒蒸気から手に入れた裏ルートを介し人魚の元へ、使い道までは分からないがそれを渡す代わりにミカミに協力しろと。だけどそれにも肯定派と反対派がいた」
まだ予測の域を出ねぇが、これの可能性が高い気がする。それなら海の中からわざわざ、こんなガキを捕まえに来るのも納得がいく。
「あの、ぼく全然わかんないんですけど!?小難しい話しすぎてもう訳わかんない!!」
ディ・ゴイは半ばパニックだ。落ち着いて聞いてれば馬鹿でもトクでも理解できただろうに。まぁ何にもしらない中でいきなり命狙われて落ち着いて聞け何て言われても、無理か。
「落ち着けって、よーするに、宇宙人がお前の作る植物が欲しくて狙ってきたって事だ」
「あ、分かりやすい・・・」
ちょっとは落ち着いたか?落ち着いたなら少し黙っててくれ・・・
「で、どーする?」
「どうって?」
チアキが俺に突拍子もなくシンプルな質問を投げかけてきた。
「これはギャングどうこうの話じゃないよね。確かにおれとしてはこの話に興味があるけど、ゼロカラーサンライズのやるべきことは人魚相手にケンカじゃないでしょ?」
確かにそうだ。これは俺たちのやるべき仕事じゃない。だけどな
「俺、最初に言ったよな。目的は世界征服だって、この裏社会で俺は全てのギャングチームを乗っ取り手に入れるってよ、いつ人間限定で手に入れるなんて言ったよ。俺が手に入れたいのは全部だ。人魚も人間も関係ねぇ。それに、むこうから喧嘩吹っ掛けてんだ。挨拶に行かねぇのは失礼なんじゃないの?」
そうだ、元から白鮫も俺の傘下に入れる候補には入ってた。これは結局俺たちのやるべきこと。人魚共にも裏社会があるはずだ、カチコミする先が海の中になっただけだ。
「だが、どうやって行くんだ?アウロの技術でもクラーケンを操る事は出来ない」
「簡単だ、向こうに来てもらうんだよ。場所は特定できた。それならそこに向かって通信を送る、それだけだ。この世界の技術は幸運にも通信に関しちゃ俺たちの世界以上だ。トランスどもにピンポイントで通信を送るなんざ楽勝だろ?」
行けないのなら向こうからこっちに出向かせる、奴らの目的はディ・ゴイだ。俺たちはこいつを手に入れている。やるべきことはもう単純だ。
「そう言う事なら、早速・・・これをこうして、あーしてあーやればっと・・・はい、これでトランスの奴に繋げられるはずだ。あ、ついでに言っとくとこの通信は誰にも傍受されないように細工しといたから、アウロにバレる事もないよ」
チアキ、この情報という武器の扱いに関してはかなり使えるな。この短時間でそこまでやっちまうとは。恐れ入ったぜ。
「・・・君の才能、アウロにいたら喉から手が出る程欲しい逸材だな」
「お褒めの言葉どーも、でもおれはどこにも所属はしないよ?情報は僕一人が占有するから意味があるんだ」
チアキはイーサンの勧誘を軽くいなして作業を続けた。
「よいしょっと、じゃあ繋げるよ。ぽちっと」
チアキは最後のスイッチを押した。さて、俺の出番かな?電話越しなら相手が見えねぇから緊張する事もねぇから楽だ。
「よぉ、トランス。聞こえるか?」
『・・・・・・・まさか今のでここまでやられるとはな、正直恐れ入った。だがお前では我らは見つけ出せ・・・』
「海ん中だろ?人魚さんよ。詰めが甘ぇんだよ、こっちはてめぇらの正体と目的もとっくに把握済みなんだよボケが」
『っ・・・』
ビンゴ、唾をのんだな。こいつは一歩今追い込まれたって事だ。
『成程、噂に聞いただけはあるな。別の世界の人間が、陰でこそこそやってると聞いていたが、お前がそうか』
別の世界の話を知っている・・・って事は奴はこの地上での出来事は大体知ってるって事か。
「へぇ俺いつの間にかそんな有名になっちまったんだな。サインやるからこっちに顔出しにきたらどうだ?」
『何故その必要がある?我ら人魚は地上で活動できない。だから害獣を向かわせたと言う事は理解できてるだろ?』
イビルズか・・・害獣の事を人魚共はそう呼んでるのか。
「あっそ、でもあんたの欲しがってるものはここにいる。あんな害獣ごときじゃ俺たちを倒すなんて100万年早ぇんだよ」
さぁ言ってこい。俺の求める答えを、
『そうだな、お前らがいる限りディ・ゴイを入手するのは厳しいのは認めてやる。いいだろうお前の口車に乗ってやる』
「お、やる気になったじゃん。そう来なくっちゃ、じゃあここはフェアに行こうぜ。俺は明日お前のいる場所に一番近い海岸に行ってやる。そこなら文句ねぇだろ?」
さぁ乗っかかれ。
『ふん、我らに海岸で勝負を挑むか。命知らずもいいとこだな、別に我らとしては直接貴様らの元に出向いてもいいんだぞ?』
「いんや、それじゃフェアじゃない。俺フェミニストだからさ、ハンデを付けちゃうのはどうもって思っちゃうのよ。だけど行ってやる分の見返りはくれよ?そうだな、俺が勝てばお前ら白鮫は俺の傘下に入れ。もし負けちまったらディ・ゴイあげるし、俺たちは永遠にあんたらに従ってやるよ」
「え!?」
「そ、そこまで言っちゃう?」
ディ・ゴイもいきなり商品にされビックリ仰天、まぁディ・ゴイには悪いが、俺も腹くくる必要があんだ、巻き込まれろ。
『フハハハッ!馬鹿な奴だ、本当にそれでいいのなら俺は否定しないぞ?』
「いい いい。どのみちあんたらんとこに殴り込むつもりだったんだし、それに俺、賭け事ってのが大好きでよ。何か賭けてないとやる気おきないのよ。そんじゃ、首・・・いや背びれでも洗って待ってな」
俺は通信のスイッチを切った。
「という訳で、明日奴らと決闘って事で」
「君サラっと凄い事決めちゃうね」
イーサンが半分口を開けて俺に語り掛けた。
「別に?どうせ俺が勝つし」
俺は周囲にニヤッと笑って見せた。
「えぇ!?そんな事どうやって分かんのさ!あいつの顔も分かんないのに!!あなた酷いですよ!!勝手にぼく商品にするし!!」
さっきまでべそかいてたディ・ゴイは表情を一転させ俺にすんごい怒って来る。まぁ迫力は全然ねぇけど。
「負けないったら負けないの。お前な?少しは周りを疑って生きるって事学んだ方がいいぜ?俺フェミニストでもフェア精神なんかこれっぽっちも持ってねぇんだからさ」
「あ、やっぱ・・・」
チアキは苦笑いして俺の計画に感づいた。
「そ、イカサマするに決まってんじゃん、あいつ等はもう漁師の網に引っかかっちまったのさ。後の運命は捌かれるのみ、あー楽しみになって来たな~♪」
「み、三上君に引けを取らない爽やかな笑顔だ・・・」
さてと、じゃあ早速準備しとくか!!




