一兆編 第十四話 ブラックスチーム
「グルャアアアム!!」
害獣共は一斉に襲い掛かって来た。
「おせぇよっと」
俺はカードと魔法で奴らを翻弄しながら一匹一匹確実に仕留める。
「ぬぅぉおああああ!」
コーキは荒ぶる炎で焼き尽くしていき、
「ぬるいぜてめぇら!」
マアヤは苦無を脳天にぶち込み、一撃で仕留めていった。
「あや~・・・ここ危険物持ち込み禁止だったのになー、まぁいいや。持ち込めたって事はバレるようなヘマはしない実力があるって事か」
シャルロットは自分で勝手に納得している。
「こりゃ私も負けてられないね!!」
そしてダーツ状の爆弾を何発か害獣に撃ち込み、指を鳴らすと・・・
「点火!」
『ズボボボボボボン!!』
軽快に小さな爆発が連鎖し害獣を跡形もなく消し飛ばした。あるのは燃えカスだけ。だがそれすらもいずれは消えた。
「・・・爆弾って、そう言うんじゃねぇんじゃねえの?ぶっ飛ばすは分かるけど粉々って」
このシャルロットって女が三上と親友になれた理由がちょっとわかったぜ。
「へっへ~ん。私にかかればこの手の爆破は朝飯前よ!」
俺の言葉にシャルロットは鼻を伸ばしえばりんぼだ。
「だけど零羅はさっきから何やってんだ?動いてねぇじゃん」
今ステージ上は大乱闘だ。だが、零羅は一人静寂を貫いている。目をつむり精神統一しているみてぇだ。
「みなさまお強いですから、わたくしはある一撃の為に全神経を集中させているのです」
「ふーん」
とりあえずただならぬ気迫は感じてる。戦えないから目をつむってる訳じゃないみてぇだ。何かタイミングを見計らってるのか?
「今、零羅様の集中を乱すのはよろしくなくってよ。一兆様、お手数ですがご協力いただけます?」
アリアは俺にそう忠告した。
「ごめんね、零羅ちゃんもがんばってるの」
シャンデラもおどおどした声で俺に時間を稼ぐように言う。とりあえず、守るべき対象が一人増えたところでどうって事ねぇよ。
「まぁ、そっちの事情は知らねぇけど。零羅見りゃ、どでかいの一発かましだしそうな気配はびんびんだぜ。面白そうだから、協力してやるよ」
あの超引っ込み思案がどんな風に戦うのか、俺は興味が出てきた。
さぁてと、そいつを拝むためにも。もうちょっとこいつらを削っておくかな?
害獣共は残り20匹以上か・・・あまり周囲への被害を出さずにやるのはちと面倒なんだよな。そんな風に考えてたら、害獣共は一斉に飛び上がり俺がちらっと見せた隙に向かって襲い掛かって来た。
「目ざといな、クズが!」
俺が返り討ちにしようとしたときだった。
「今です!!」
零羅は目を開き、一瞬のうちに構えの体勢に入った。
「んなっ!?」
「あの構えはっ!?」
俺とコーキが同時に叫んだ瞬間。
「神破聖拳!奥義!!『総衝破ッッ』!!!!!」
零羅は腰を大きく落とし、その直後に上空に向かって両手の拳を勢いよく突き出した。恐らくその2発だ。その2発だけで20匹以上の害獣を一気に仕留めた。
「きゃっっ!」
しかしその直後、零羅は反動で俺の方へとすっ飛ばされた。
「おっと・・・」
それを受け止める事は簡単だったが、なんだ今の・・・
俺は撃ち落とされた害獣をちらっと見た。何かをこぶし大の大きさの物を打ち込んだような跡がくっきりと残っている、一匹につき一か所、しかも全部同じ、肺の近くだ。
「やはり、コントロールがまだ完ぺきではないですね。でも・・・殺傷数はゼロに抑え込めました!」
零羅はほんのちょっぴり嬉しそうに、この光景を眺めた。
俺ももう一度よく害獣を見た。まだわずかに呼吸をしている。こいつ、これだけの数を一度に戦闘不能にするだけじゃなく、全部殺生せずに成し遂げたのか・・・
「あの、一兆さん。もういいですよ?」
「あ、わりぃ」
俺は受け止めていた零羅を下ろした。
「しかし、今のは・・・あれってよコーキ」
俺はコーキに問いかけた。コーキは知ってるはずだ、今の技を。
「間違いない。今のは神破聖拳だ・・・一体どこでそれを?というか一兆、その話聞いてたのか・・・」
まぁね。
「え、神破聖拳を知っているのですか?」
零羅はきょとんとした顔で俺たちに投げかけた。
「あぁ、アウロにいるエファナって奴が使ってた」
「エファナ・・・あ、わたくしの父ですね。そう言う事でしたか・・・」
おい、サラっと今とんでもない事言ってったぞ。
「なに、親子喧嘩でもしてんの?」
「まぁ、そんなところです」
俺は零羅からこれまでの事をこれまたサラっと聞いた。
だが、一つだけ俺は違和感を覚えた。こいつはさっき害獣を殺さなかった。それはただ単に殺すのが嫌いな性格だと最初は踏んでいたが、こいつの目、一瞬だが俺は恐怖を感じた。こいつやる時はやる。さっきのもかわいそうだから殺さなかったなんかじゃない。必死に殺そうとしたのを抑え込んだんだ。
「あんたも色々大変なんだな」
「いえいえ、みなさまのおかげでわたくしは今幸せです」
零羅は俺に笑って見せた。その顔は心の底から安らいでいる、年相応らしい女の子の顔だった。
「さぁて、ちょっとアクシデントがあったけど、みんな楽しんでくれたかな!?」
シャルロットは持ち前の性格と、勢いで今の出来事を強引にパフォーマンスにして納めた。まぁ運よくけが人も誰もいなかったからな。
「それよりも、ディ・ゴイだったな。立てるか?」
俺はずっとへなって座り込んでいたディ・ゴイに声をかけた。
「へっ!?あ、ぼ、ぼくは大丈夫・・・って、はれ?」
ディ・ゴイは起き上がろうと試みたが腰が浮かずぺたんと座り込んでしまった。
「あちゃー、ごめんね腰抜けちゃった?」
「そ、そうみたい・・・立てない・・・」
ディ・ゴイはずっと立とうとするが、ぺたんと再び座ってしまうだけだ。
「これは大変ですわね。どなたか救護室に運んでいってはくれませんか?」
「俺が連れてく、心配すんな」
ここは俺が率先して発言した。
「コーキとマアヤは続きを楽しんでてくれ、ちゃんと後で報告すっから」
「すまない、任せた」
「い、一緒に行きたいのは山々だが・・・すまん!脳内の優先度がこっちだって言ってやがる!!頼んだ!」
今回は珍しくマアヤも言う事を聞いた。
「俺の手に捕まりな」
「は、はい・・・ありがとうございます・・・」
ディ・ゴイはおどおどした声で俺にそう言った。これが本当に黒蒸気のボスなのか?
「救護室はステージの裏から行った方が早いです」
零羅はステージから降りようとした俺をちょいと引っ張り、俺たちを誘導した。
「お、サンキュ零羅。あ、そうだ。一つだけ、あんたらの歌俺、割と好きだぜ。良い気分転換になった、礼を言うぜ」
零羅は何もいう訳でなく、ただ微笑んでいた。
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「さて と・・・で、どうだったんだ?チアキ?」
「もう読んでたか」
ステージの裏に行き、救護室に向かうとそこにはチアキが既にいた。
「あんたの事だ。白鮫の情報を手に入れる絶好の機会を逃す訳ねぇだろ?」
「だんだんおれの事分かって来たね。とは言っても、この情報はおれ一人では見つけられなかったよ。彼の協力がなかったら詰んでた」
ここにはもう一人いた、少し茶髪交じりのキリっとした雰囲気の男。
「君が馬喰 一兆君だね。私はイーサン、イーサン ピークシードだ」
俺は自己紹介をした覚えはないが、この男は俺の名を呼んだ。
「知ってる、あんただろ?アウロを裏切った馬鹿野郎ってのは。メリーヌから話は聞いてるぜ」
こいつの事はメリーヌからも聞いたし、名前だけならさっき零羅もちらっと話してた。
「そうか、ならば話ははやいね。それでさっきの電波ジャックの件だけど」
「あ、あの!!」
イーサンが会話を進めようとしたところで、ディ・ゴイが遮った。
「一体どうなってるんですか?どうしてぼくが狙われたんです?知ってるのなら・・・お、教えて下さい!!僕はしがない花屋の息子ですよ!?命を狙われる覚え何てありません!!」
どうやら今のが、こいつの出来る精一杯の事だ。つまりそれ以上の事をやれる度胸も勇気も、こいつは最初から持ち合わせていない。
「聞きてぇのはこっちなんだよな。噂に聞いてた情報と、実際に出会った情報。全然違うんだ」
「そうだね、本当にこんな子がこの世界の裏社会を牛耳っているとは到底思えない。黒蒸気とは一体、何なんだ?」
「黒蒸気?随分と懐かしい名前だね。黒蒸気一家、昔三上君が潰したマフィア集団の名前だ」
俺はディ・ゴイに質問を返したつもりだったが、予想外の答えがイーサンから返って来た。
「イーサン、何か知ってんのか?」
「いいだろう、十年位前までは黒蒸気一家はかつてはこの世界を脅かす規模のマフィア集団だったさ、ありとあらゆる裏ルートを牛耳っていた。武器に麻薬の密売ルートは全て彼らが持っていた。でも、運悪く、黒蒸気一家はまだ駆け出しのシャルロットに麻薬を売りつけようとしていてね、そしてそれは三上君の耳に入った、あとは分かるよね」
俺は大体予想がついた。たぶんあのニッコニコ笑顔でマフィア集団を殲滅したんだろうよ。
「あぁ、光景が目に浮かぶぜ」
「思えば、三上君の異常さはあの時からあったんだよね・・・それで、三上君は組織を完全に潰した事でその裏ルートを今度は三上君が得る事になったんだ。で、そこからが分からないんだ。武器のルートは潰したんだが、麻薬のルートだけは何故か残っていたんだ・・・しかも、大麻草。そしてこれがディ・ゴイ君が襲われた原因だろう。この世界で大麻の栽培を許可されているのは君たち、ブラッカイマーだけだったよね」
イーサンは今度こそ、ディ・ゴイに質問の答えを返すと同時に質問をした。
「は、はい・・・一応アダムス王室から栽培の許可をもらってます。大麻以外にも色んな薬草を栽培してます」
薬草の栽培・・・そして唯一の大麻とかの麻薬を栽培できる一族。大麻は俺たちの世界じゃ素人でもちょっと勉強すりゃ栽培は可能だ。だがこっちの世界ではどうだ?この世界に馴染めるのは一部、覚醒者のみ。つまり向こうとは環境そのものが違う可能性がある。
「つまりあんたは、薬草・・・薬売りって奴なのか?」
「いえ、薬草はついでで基本はお花を届けてます」
ディ・ゴイは大分落ち着き、おどおどもなくなって来た。というのもこいつが植物好きなせいだろうぜ、人は大概好きな物事になると空気も読まずはしゃぎたくなるもんだ。
「しかし、問題はここからなんだ。大麻はみなも知ってるように麻薬だ。確かに私たちの一部国と地域では認められてるけどそれでも中毒性はかなりある危険なものだ。だけど三上君はその大麻をどこかに流している痕跡を見つけたんだよ、それ以外にもマリファナ、更にはヘロインと言ったものもね。三上君が流していた麻薬の行先が分かれば、ディ・ゴイ君が襲われた真の目的が分かるかもしれないんだ」
大方、話は読めてきた。そして大分納得がいった。黒蒸気なんてものは何年も前に三上がぶっ潰してた、どうりでかつていたとか言うメンバーがほとんどいないはずだ。そして黒蒸気の残した裏ルートを三上は奪い取った。そんでもって、そのルートを利用し、ブラッカイマーに麻薬の栽培、精製方法を教え、そして三上自身がその麻薬をどこかに流したってとこか。
イーサンの言う通り、大麻の流した場所が分かれば、白鮫の行方も分かるはずだ。
「それなんだけど、さっきの白鮫の演説。逆探知やってみたけどさ・・・発信場所が訳わかんないんだよね。白鮫のトランス・・・本当に人間なのかね?」




