一兆編 第十六話 コールドシー
翌日。コールド地区、とある海岸
「おー、さっむ」
ここは緯度的にもかなり上なんだろうな。もう夏本番って時期なのにクソ寒い。コールド地区とはよく言ったもんだ。
「うー、なんでぼくがこんな目に・・・」
隣ではディ・ゴイが既に涙目で俺を睨んできている。
「俺がいなかったらお前誘拐されてたんだぜ?感謝しろし」
「分かってるけど・・・ついつい考えちゃうんだよぅ」
俺は昨日のあの後、再び零羅に会い、そして人魚について詳しく調べていた。人魚の生態、特徴から対策を練っていた。
「あれが・・・」
チアキがボソッと、海に向かって呟いた。波が砕け散る岩の上に人影のようなものが座っているのが見える。波が消え、そいつは完全に姿を現した。
「あんたが、トランスか?」
イルカのような下半身で上半身は銀髪の似合う青年。だが、あの髪の毛どうなってんだ?塩水でベタベタのバキバキになるのが普通だが、奴の髪はドライヤーで乾かしたてのようにサラっと風になびいている。
「左様、どうやら約束は守ったらしいな」
「約束だもん、忘れるなんて失礼だろ?」
俺は心にもない事を言う。
「で?どう勝負する気だ?人間」
「俺なら水中でも活動できる。そこで勝負と行こうじゃねぇか」
覚醒者は生命維持に呼吸はあまり必要としないらしい。零祖細胞を皮膚から体に取り込んでそれを活動のエネルギーにしていると聞いた。
「水中は俺の完全な領域、良いのか?」
トランスはにやりと笑っている。
「あぁ、せっかく夏の海に来てんだし、水着も買ってきちまったからな。泳がな損だろ?」
俺は服を脱ぎ捨て、カードだけを持ち海に入る。うん、冷たいけど、感覚がマヒに陥る事はなさそうだな。覚醒者様様だ。
俺が海に入ると、トランスも岩から海にダイブした。
「行くぜ・・・三枚おろしにしてやるよ」
「こっちこそ、踊り食いしてやろうか?」
・
・
・
しばらくの睨みあいの末、先に仕掛けたのはトランスだ。水中での泳ぎのスピードは、ひれ付きの奴に分があるのは明白だ。波の流れに体を乗せ、トランスは俺に爪を突き立てる。
俺はカードを展開し初撃を防いだ。
「へぇ、下等な人間のくせに俺の一撃を受け止めるとはな」
「水から出れなかった退化種族のくせに、割といい一撃持ってんじゃん」
成程ね、こいつは今人間を下等と呼んだ。つまりこいつは人間と対等である事を嫌う存在って事か。予測は大方あたりだな。
「ならばこいつはどうかな?」
二撃目か、これは拳に水圧も乗せてる。カードのガードじゃ吹っ飛ぶな。だったら。
「っ!!」
「おー、これを感覚だけで止めたのはマジですげぇよ。こいつを殴って電撃がお前に吹っ飛ぶと思ったんだがな」
トランスは一瞬で俺の行動を察知し、さっきとは違うと判断。攻撃を止めたか・・・
「魔法か、厄介なものを・・・仕方がないな。だったら、一瞬で終わらせてやろう!!」
本気だな・・・どう来る。っ!?
俺の目で追えなかった、奴の泳ぐスピードは俺の予想を遥かに超えていた。防ぎきれねぇ!!
「んぐっ!!っつ~・・・キツイの喰らったな。だがよ、一撃なんかじゃ俺は・・・」
「だろうな、覚醒者は怪我をすぐに治すと聞いた。だから文字通りタコ殴りだ」
しまった!足元にいつの間にかタコの足が絡みついていた。俺は地面まで引きずり降ろされた。
「くっそ、卑怯だぜ?タコはよ」
「そうか?お前は一対一なぞ言っていなかったではないか」
「あ、そう言えば・・・だがよ、勝つって約束しちまったからな」
「そうか、ならば死ぬまで俺のサンドバックになってもらうか!!」
強烈なパンチが次々に打ち込まれる。タコは流石に予想外だった、俺は足を振りほどこうとするがびくともしない。流石は筋肉の塊か・・・覚醒者ですら動かせねぇとはな。
「さぁさぁ!!俺にひざまづき、泣いて許しを請うならやめてやってもいいぞ!?」
「俺・・・は、負ける、訳に は 行かねぇん だ よ!!!」
俺は全力で魔法を放ち辛うじてタコ足から脱出した。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「よく抜け出せたな、と、言いたいが。その満身創痍でどう勝負する気だ?残念だがお前の負けだ。さぁディ・ゴイを渡し、我ら白鮫の奴隷になれ」
クソッタレめ、こうなったら一か八か・・・
「喰らえ!!」
「無駄だ!!」
俺は最大限に込めておいた炎の魔法を至近距離で放とうとしたが、突如飛んできたタコ足に腕を掴まれ俺はカードを落としてしまった。
「ぬ、ぐぐぅうう!!」
タコは俺の腕を締め上げる。それがまぁ痛い事痛い事。
「ふっ、貴様の敗因はそのおせっかいだ。見ず知らずの少年を救おうとしたその傲慢に満ちた正義感が貴様を今こうして苦しめている。人間とはどうしてこうも馬鹿で愚かな生き物であろうか」
「へぇ・・・そうなんだ、お前ら人魚ってのは、助け合ったりとかしないんだ。薄情なんだな」
「人魚の世界は貴様ら人間と違い、危険が多い。自らを守れないような奴はこの世界にいらん。そいつにあるのは死だけだ」
そういうことね。この世界、宗教とか人種差別とか、そう言うのが全然ねぇって思ってたんだが、やっぱこうなるんだよな、思想の違いって奴が。
「俺は必ず成し遂げてやる、この腐りきった世界を、人魚の本来あるべき姿を取り戻す。アトランティスも、人間界も、俺がぶっ潰す!!」
「ふひ、ふひひひひひひ・・・・」
俺はしばらくポカンとして、その後思わず笑ってしまった。しかもすんげぇ変な声で。
「何がおかしい?」
「いやぁ、さっきからさ。俺、お前が何のためにこんなどうでもいい事をしてんのか知りたくってよ、探ってたんだが・・・そしたら、お前。予想以上のお人好しだったんだなおい」
あ~、おかしくって笑いが止まらん。
「なぁ、トランス。俺はお前をちょっと買いかぶってたわ。俺はお前を目的のためならば卑怯な手段を平気で用いてくる奴だって踏んでたんだが、どうやらそれは見当違いだったみてぇだな」
「何だと?」
「だってさ、俺てっきり、ディ・ゴイを欲しがる理由を俺みたいに自分勝手な都合だと思い込んでたからよ。かと思ったら、本来あるべき姿を取り戻す?可笑しいったらありゃしねぇ!!」
なんだそんな事だったのか。ここまで身を張ったのがちょっと損した気分だぜ。そんな大義名分掲げて戦い続ける奴は俺の、何でもかんでも欲しいから手に入れるって考えには到底勝てねぇんだよ。
「はぁ・・・追い込まれておかしくなったか?見苦しい、死ねいっ!!」
トランスは最後の一撃を俺に繰り出した。
「なぁ、さっき言ってないよな。一対一じゃねぇんだよ?これ」
俺はカードを適当に投げ捨てた。そして俺はそこに瞬間移動。
「なに!?」
「驚くのはこれからだぜ~」
俺は更に6枚のカードで自信を覆うように展開した。
「チアキ!!」
『あいよ』
俺は無線越しにチアキに呼びかけた、すると・・・
『ビシビシシィ!!バチバチチチチ!!!』
「ぬ!!!ぐぐぐおおおおあああ!!」
激しい轟音と光、チアキはここの水中に向かって電撃を放った。そして俺は四方八方に取り囲んだカードでそれを防ぎ、なんならついでにトランスに向かって電撃を跳ね返した。
「俺が見ず知らずのガキを助ける程お人好しに見えたか?ざ~んねん、俺さ、ただ単にあんたを駒として欲しいから来ただけなんだよね。ディ・ゴイの事なんかこれっぽっちも知らないんだよーだ」
俺はふざけた声で煽る煽る。俺が追い込まれたのはあえてだ、あえて追い込まれることでこいつの本心と戦い方、考え方を見てた。
答えはこうだ、こいつは革命家気質であり、上っ面は堅苦しい正々堂々を真正面に出している。だが、裏の顔は策略家、確実に勝つために手段を選ばない。だが、相性が悪かったな、てめぇは俺の言動やら行動で俺の考えを読もうとしてたが、最初っから全部演技、お前が感じた馬喰 一兆なんて奴はこの世にいねぇんだぜ?
「てめぇはな、俺との知恵比べに負けたんだよ!!」
俺はカードを後ろに投げ水の魔法を放つ、放たれた水流に俺は乗り、一気にトランスに間合いを詰め、拳を構える。そして更に拳の間に炎と電撃の魔法、二枚のカードを挟みトランスの顎に繰り出した。
「飛んでいきな!!」
「どぐわああああああ!!」
俺の放った拳は電撃と爆発でトランスを水面から更に打ち上げ、上空まで吹き飛ばした。
「ば、馬鹿な・・・こんな!!」
「うおおお!!」
「なんだ!?なんだ!?」
海岸では、ここにいる連中が目を丸くし吹き飛んだ海を眺めた。
「がはっ!!」
トランスは岩場に打ち付けられた。だが、人魚ってのはタフだな。ダメージが俺の予測よりはるかに少ねぇ。
「お前の負けだぜ?トランス」
「くっ・・・」
トランスは俺を憎い相手を見るように睨みつける。もうここまでこれば、お前がどんな顔しようが無意味。俺が上、お前が下であると、言ってるようなもんだ。
「大人しく俺の傘下に入りやがれ、俺優しいからさ、悪いようにはしねぇぜ?」
海の力を手に入れる、これほど好都合な事はない。
「くくく・・・」
「ん?」
なんだ今、こいつの雰囲気が・・・
「クハハハハ、負けた?それはどうかな。どうやら勘違いをしたのはお前の方だったな。お前の考える通り、俺は策士だと自負していた。そしてそれを破られたのは認めてやろう。だがな、お前も策士ならこう考えるべきではなかったか?勝てばいいんだと」
何かまだ策があるのか?こいつ意外に仲間は見当たらない周囲にはもう誰も・・・いや?違う!!地上から何か近づいている!!
「貴様には聞こえなかったか?この歌声が?」
歌だと?零羅は言っていた、人魚の声には催眠効果があると。だから俺もここにいる奴ら全員に耳栓を付けさせていた。俺は急いで耳栓を外した。
聞こえる、かすかに空に響いている歌声だ、なんつー人魚伝説だよちくしょー。
「貴様は気が付けなかったみたいだな?ここには俺以外にも仲間はいる、だが彼らは動く必要はないんだ。歌ってればそれでいい。そして、我ら人魚の声を聞いた人間は、我らの手足として動く」
海岸の堤防の上に振り返ると、虚ろな目をしたここの近辺に住む住人が端から端まで埋め尽くしていた。老若男女関係ねぇ。じじいもばばあも、ガキも。全部俺たちを襲うように構えている。
「声一つで簡単に操れる人間が、我らと対等だと?見ろ、こうして人形遊びのように使われる姿を、どっちが上だ?ん? やれ!」
まるでゾンビみてぇに住人たちの第一波は降って来た。
「どっせい!!!」
しかし、第一波は突如吹き飛ばされた。
「ほぅ」
トランスは顎に手を置いてその光景を眺めた、驚きの表情はなしか。
「うわわ!!あぶね!!これで全部キャッチしろとかふざけんなよ?カヤノ!」
「文句言うなトラマル、こいつは上手い事加減がしにくいんだ」
堤防の更に奥、そこには刀を構えたカヤノとトラマル、それだけじゃない。
「人魚、この目で見る事になるとは感激です!!是非とも取材しなくては!!」
「しかし、そう一筋縄ではいかない相手だ」
シラキにチサト。
「結局・・・グッズを買いそびれた・・・」
「落ち着きなって、私もだ」
肩を落としながらコーキとマアヤ。
「ひーーーっひひひひひ!!獲物の匂いがプンプンしてやがるぅ、人魚を刻めるなんざ楽しみで仕方がねぇぇl!!ひゃはははっはは!!」
「あまり近づくんじゃねぇぞ?気持ち悪ぃ」
やたらハイテンションなカルニとドン引きしているワニム。それ以外にも他の連中も続々と現れた、ゼロカラーサンライズ、全員集合だ。
「うわあぁぁ!不良がいっぱいだぁーーーー!」
この光景にディ・ゴイは頭を抱え叫んだ。
「おせぇし。割とギリギリじゃんか・・・だが、お前の策、破られちまったなぁ。こういう手を使ってくるのは想定済みだったんだよ間抜け」
「ふっ、確かにこれを対策されたのは予想外だ・・・だが、看破は出来るか!?」
俺たちは一斉に構えた。
「やれるさ、俺たちは背中を預けられるほど信頼できる間柄じゃねぇが、てめぇみたいな奴に負けねぇ事は確かだぜ?海と陸、お前と俺、どっちが上かはっきりさせようじゃねぇか」
「いいだろう・・・ならば」
『戦争だ!!』




