26-努力の先
世界を知ろうとした。
世界を知れば何かがわかって、どうすれば良いのか方向が定まるかと思った。
そうして数十の回帰を重ねながら学び、グリムは、その行動が無意味であることを学んだ。
そう――無意味。
世界とは、あまりにも広すぎた。
歴史を学ぶということは、過去という膨大な資料を読み解くこと。
政治を学ぶということは、今という波の流れを理解すること。
そういった専門知識には、当然、元となる知識が必要となる。
しかも、正しい知識を持っていることが前提となり、その上で成果を得られるのは一部の人間だけ。
無学で無知なグリムが、一足飛びに学び、理解出来るものでは決してなかった。
時間そのものは、ネックとならない。
いつ終わるかわからないが、それでも時間だけは腐るほど余っている。
けれど、一度の生そのものはそう長くない。
どれだけ引き延ばしても半年。
平均は一月と少し程度。
また、勇者を辞めるや友人を裏切るなど、特異な行動をした時は、大体すぐ命を失う。
そして、当然の話だが、生を重ねているのは自分だけ。
他の人はそうじゃない。
運良く誰かに師事したとしても、関係性ごとすべてリセットされる。
長くても数か月しか生きられない中では、非常に効率が悪かった。
それに気づいたのは、百の死を超えてからだった。
だから、途中から考え方をシフトした。
まず、生存能力を高める。
世界を学ぶにせよ、誰かに師事するにせよ、話はそれからだと。
武術、格闘術、護身術。
果てには、ただ生きることのみに焦点を置いた生存特化の技術まで。
そういう道に、グリムは進んだ。
時に立派な弟子となり、時に破門され、時には関係を築けず殺されて。
その過程で多くを学びながら、死を重ねていく。
歴史や政治と異なり、戦闘面には多少の才があったのか、学ぶという目的そのものは叶っている。
けれど……いや、着実に成果が上がっているからこそ、グリムは気づく。
どれだけ自分が強くなっても、経験する一度の生は決して伸びない。
これはもはや、天運や寿命といった、そういう類の物に等しい。
徒労。
そう思う気持ちを必死に抑える。
アレインのために頑張る。
アレインが笑っていられる世界にする。
ただそれだけ。
それだけが、今のグリムにある挫けない理由だった。
だから、頑張った。
頑張ってしまった。
幾たび重ねようとも、死そのものへの恐怖が薄れることはない。
目の前にある死を受け入れるということは、心を壊すことと同義だ。
何度も何度も何度も何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
ただ死を重ね、心が摩耗しても、グリムは耐え続けた。
アレインのため。
いつからだろうか――グリムはもう、自分のために頑張れなくなっていた。
数百を超える死を迎え、目を逸らすように、グリムはアレインのことだけを考え続ける。
考えて考えて……自分の苦しさを見ないようにして。
味覚を感じなくなったのは、もう随分昔のこと。
偽りの笑みを浮かべることが得意になりすぎて、いつの間にかアレインさえ騙せるようになった。
同じことの繰り返しで、毎日が既知感にあふれた。
知っていることばかりだから、頭より先に口が動くようにさえなって、気づけば自分で自分を演じ続ける日々。
誰かとの会話は、惰性となり果てた。
くり返しが千を迎える前に、いつしか、終わりを望むようになった。
周回の最後に、死という苦しみを安らぎと思うようになりつつあって――。
それでも永劫回帰に終わりの気配はなく、グリムの心は、限界を迎えた。
ありがとうございました。




