↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダブルフェイス ―壊れた世界樹と虚構の天蓋―  作者: あらまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/30

20-信心深い溝鼠


 廃棄街(アール)の観光客が訪れない裏側の部分。

 そこは汚れた街並みが常だった。


 通りがかる者の服装も皆汚れ、フードを被り顔を隠す者も珍しくない。


 だからだろう。


 真新しい服を着ているという一点で、グリムは十分過ぎるほど不審者として奇異の視線に晒される。


 そんな視線に気にもせず、グリムは眉を顰め遠くを見つめていた。


 ――そりゃまあ、探していたのは事実だけどさ……こんなあっさり見つかるのは想定外なんだよなぁ。


 グリムの目線の先には、フードとマントで身体を厳重に隠す挙動不審な子供がいた。


 前回の時は急いでいたから気づけなかった。

 けれど、こうして落ち着いた状態だと、彼らがそういう存在(もどき)だと認識出来る。


 彼らを見ると、胸の奥にあった孤独が僅かにだが薄れるからだ。


 同族意識ほど強くない。同情とも違う。


 だれど――妙に気になる。


 ――ということは、俺もそうなのかもな。


 だから、彼らに共感出来る。


 そう考えると、これまで感じていた孤独にも、少しだけ形が見えた気がした。


 と言っても、彼らに感じるものはほんの僅か。水の一滴程度。

 孤独感は相変わらずそこに残り続けている。


 それでも、その一滴はグリムにとって砂漠での水の一滴に等しかった。


 すっと、子供が路地裏に消えていく。

 グリムは感覚を頼りに彼を追った。




 路地裏の奥までグリムが向かうも、子供の姿はそこになかった。

 見失った……なんてことはない。

 流石にただの子供を見失うほど間抜けだったなら、勇者どころか探索者を引退する必要が出て来るだろう。


 つまり……。


 隣に見える扉に、グリムは注目する。

 埃と木の軋み方から、つい数秒前に動いたであろうことが見て取れた。


 さて、どうするか。

 流石に人の家に突入するのは不味いだろう。


 そんなことを思っていると、グリムは背中に気配を感じ、何か鋭い物を押し当てられた。


「お、おとなしくしろ!」


 その背後の声の位置から、それが子供であるとわかる。

 声から、追いかけたのとは別の子供とわかる。


 まさか子供に背後を取られると思っていなかったがグリムは「ヒュゥ」とご機嫌に相手を称える口笛を一つ吹き、両手を挙げた。


 蹴り飛ばされて扉の先にグリムが押しやられる。

 そこには先に見た二人を含め、フードを被った五人の子供がいた。

 彼らはグリムを囲い、ロープでぐるぐる巻きにして、その場でごろんと転がせた。


「ねーちゃん! 言われた通りやったよ!」


 子供の誰かがそう言うと、グリムの前に誰かが近づく。

 他のフードより一回り背丈の高い、"ねーちゃん"と呼ばれる相手はどこかニヤついた笑みを浮かべていた。


 ちらりと、フードから淡い灰色の髪が見えた。


「さて……もし貴方が不幸にも偶然あそこに居ただけなのならば、我々は貴方に謝罪しないといけないだろう。けれど、そうじゃないと我々は確信している。さあ、貴方の目的を――」


 少女がグリムの顔を直視したその瞬間、少女の笑みが消える。

 きょとんというか、ぽかーんというか。

 あんぐりと口を開いて呆然として、ぶっちゃけ大分間抜け面となっていた。


 それからしばらく百面相を披露した後、強張った表情のまま、恐る恐る少女は口を開いた。


「あー、えっとすまないが……一つ確認だ。そんなわけがないと思うのだが……君の名前はもしかして……グリムヴァルド……だったりしないかい?」


 ダンジョンに潜り、世界に希望を届ける者。

 世界の平和と秩序のために存在する正義。


 それは同時に、もどきと呼ばれる彼らにとって処刑人に等しい。

 だから違うことを少女は願うが――。


「なんて答えたら君のためになるかわからないけど、一応グリムヴァルドって名前を持って生まれた自負はあるよ」


 少女の瞳が、絶望に染まった。


「貴方様がここに来たのが偶然ということは、ない……でしょうか?」


「偶然かどうかはわからないけど、俺の目的は叶った感じではあるかな」


「……はぁ。せめて子供たちだけでも見逃してくれたり――」


「ねーちゃん! 何こんな芋虫になってる奴にそんなビビッてんだよ! こんな奴……」


 子供が一人、グリムに近づこうとする。

 その瞬間、少女の怒声が響いた。


「やめろ!」


 ビリビリと空気は震えた。

 少女の絶叫は、怯えの色に強く染まっていた。


「頼むから……止めてくれ。こんな拘束、彼には何の意味もない。捕まったのは、我々の方だ」


 少女は絞り出すようにそう告げる。

 その声が正しいと証明するよう、グリムはするするっとロープをほどき当たり前のように立ち上がった。


 少女以外のフードが皆、距離を取る。

 いつでも逃げられるように、同時に、いつでもこちらに攻撃出来るように。


 出来るなら少女を助けたいが、無理なら見捨てる。

 その選択をためらうことなく出来るようになっている。


 そうやって彼らが今日まで生きてきたというその事実そのものが、グリムは妙に腹立たしかった。


「勇者グリムヴァルド様。貴方の目的、並びに要求を聞く前に、一つ私の能力について話させてくれないだろうか? これは命乞いであり、脅迫であり、そして頼みでもある」


「穏やかじゃないね。けど、それで俺と話をしてくれるのなら構わないよ」


「感謝する。その前に……」


 少女はフードを取り払う。


 可愛らしい少女の耳には大きな丸い獣の耳が付いていた。

 おそらく、ネズミだろう。


「信じてもらえないかもしれないが、私は限定的な未来予知が行える。能力名は『神託(オラクル)』。私がそう名付けた」


「すげーんだぞねーちゃんは。先月なんてたったの三人しか死ななかったんだぜ!」


 少年の嬉しそうな言葉を聞いて、グリムは憐憫の目を少女に向けた。


「そう……最適解を選び続けるなんて通常不可能なことが出来ても、私達はこのザマなんだ」


「最適解を選び続ける……。だから、能力開示が命乞いで脅迫となるのか」


 グリムは少女の言いたいことが理解出来た。

 少女は暗に『こちらの要求を断るならば、未来予知を持って抵抗する』と告げていた。

 そして、出来るならそれをしたくないとも。


「そう。追い詰められた鼠のささやかな脅迫(お願い)さ。この力は、敵対すれば厄介なものになる。けれど、敵対しないのなら――私は君の忠実なる予言者となろう」


 少女は、そこで一度言葉を切り、グリムを見つめる。

 真摯に、懇願するように。


「……だから、どうか頼む。せめて子供たちだけでも――」


 そう――少女もわかっている。

 己が能力を使ったとしても、勇者が本気になれば自分たちなんて一瞬で殺しきられる。


 だから、少女はここまでグリムを恐れていた。


 グリムは出来るだけ少女を怖がらせないよう、精いっぱい優しい笑みを浮かべてみせた。


「いや、最初から、君たちをどうにかするつもりはないよ。子供たちは当然、君にもね」


「……ならば、何故ここに?」


「んー……うまく説明することは難しいな。ただ……」


 グリムは少女に一歩近づく。

 びくっと、身体を震わせるも少女はその場に残り、グリムを見上げた。


 グリムは、にこっと微笑み、手を伸ばす。

 少女は怪訝な顔を見せるが、そんなの気にもせずに。


「俺はグリム。グリムヴァルド・リヴァイスだ」


「……モカ。……ただのモカ」


 そう答え、モカはびくびくとしながら、グリムの差し出した手を掴み、握手に答える。


 どこか挙動不審な様子で、怯えを隠そうとしない。

 それなのに、モカは何故か繋いだその手を離さなかった。


「……誰かと手を繋いだの、初めて」


 ぽつりと、モカは心の声を漏らす。


 直後「何でもない!」とモカは叫び、その手を振りほどく。


 グリムは微笑みだけ浮かべ、聞かなかったことにした。



ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。