14-勇者を護る者
アレインが困った顔で笑っていた。
まるで駄々をこねる子供を相手にするような、そんな笑顔だった。
グリムは身体を小さくして、彼らの下す沙汰を待つ。
何が悪かったのかわからない。
けれど、彼らは明らかに、グリムに何か物申したそうだった。
「とりあえず、結論が出ました。グリム様」
三人での相談が終わった後、アレインはそう呟いた。
「はい。なんでしょうかアレインさん。追放ですか? 追放されるんですか?」
「しませんよ……どうして追放なんですか……。むしろ、逆です」
「逆?」
「グリム様、貴方がパーティープレイを忘れてます」
「いや、そんなつもりは……」
「いいや忘れてるね。というか、ちょっと考えたら当然のことだったけどな」
アレインに助け船を出すよう、アラドが会話に入り込んだ。
「グリム、あんたさ、俺たちのこと覚えてないんだから?」
「忘れて悪かったな、ナイスガイ」
「次忘れたら飯でも奢ってくれや。というわけで、知らない奴と連携なんてとれるわけないって話になる。後はまあ、連携以前の大前提も忘れてるんじゃないか?」
「大前提って?」
「お前は、死んだらいけない。死ぬとしても、お前は最後だ」
アラドはそう、はっきりと断言してみせた。
どう見てもチームのためなんて献身的なタイプには見えないのに。
アラドだって別に命を賭けて勇者様を――とか、使命のために殉じる――とか、そういう話をしたいわけじゃない。
それは極めて単純な理屈。
グリムが死ぬと、みんな死ぬ。
勇者がいなくなると、残った仲間は皆ダンジョンの防衛反応に晒される。
この三十階でさえ、防衛反応が起きたら、どのくらいの被害になるか想像も出来ない。
特に、アラドは戦闘力こそ優れているもの、探索者としての能力はあまり高くない。
防衛反応は相当激しいものとなるだろう。
だから、グリムは最後に死なないといけなかった。
一人でも、多くを生き延びさせるためには。
「おう。勇者は最後。理屈はわかる。わかるけどさ、それ、記憶があった時の俺出来てた?」
アラドは盛大に、わざとらしく溜息を吐いた。
悲しいことに、誰一人出来ていたと口に出来なかった。
「……とりあえず、三十一階からは後ろで俺とディートの動きを見てくれや。俺たちの出来ることが判ればまた昔みたいな連携も取れるだろう」
「うぃ。ということは……」
グリムはちらりとアレインの方を見る。
アレインは静かに頷いた。
「はい。私が代わりに前に出ます」
防衛者を倒した大部屋を四人は漁るも、何にも出なかった。
通常は高い確率で宝箱か武器、もしくは宝石の類が傍にあるのだが、今回は運が悪かったのかゴーレムの身体以外に何も見つからない。
防衛者補正のかかったゴーレムの身体だからこれはこれで金になるのだが、重くかさばるため今回は持ち帰りを断念しせざるを得ない。
そういうわけて報酬なしのまま、奥に見える階段を下って三十一階層へ。
そこでグリムとアレインはポジションを交代し、アレインが前に出た。
アレインは、これまで一切戦闘に関わっていない。
一応戦闘中は周辺警戒を行っていたが、それだけ。
役割は非常に薄かった。
それはアレインが戦えないからではない。
アレインの役割は、他の人と異なりただ一つに集約される。
特に、グリムがアレインを庇い半年意識不明となったことで、それはより顕著はなものとなってしまった。
『勇者を護る者』
勇者グリムヴァルドが持つ最大の力であり、絶対の盾。
それこそがアレインである。
ゆえに、アレインは勇者の身が危うくなるまで戦う必要はなく、ただいつでも力を震えるよう備え続けていた。
これまで戦わなかったからと言って弱いわけではなく、むしろ――。
アレインは誰よりも早く接近してきた敵に気づき、一歩踏み込む。
たったの一歩。
けれど、周りからは消え数メートル飛んだように見えただろう。
そして、正面の敵にまっすぐ拳を叩き込む。
目の前に居た敵はゴーレム。
先の防衛者ほどの巨体ではないものの、全身を岩で包んだ四メートルを超える巨体。
その巨体は、爆音と共に炸裂したかのように砕け散った。
コアを探すとか、そんな生ぬるいことをする必要もない。
足先から頭まで、すべてが完全に破壊されていた。
アレインの使命は、勇者の身を護ること。
ゆえに、戦闘に出るならば誰よりも早く、その危機を排除する責務を追う。
単純な破壊力だけならば、アレインはこの中の誰よりも高かった。
相変わらずの力――いや、相変わらずというか……。
「……なんか、パワーアップしてね?」
グリムは困惑した様子で呟く。
もしもゴーレムの隣に魔物がいれば、飛び掛かる破片だけで即死しただろう。
そのくらいの威力だった。
「そりゃあ……自分が守るはずの貴方が、自分を庇って半年寝たきりですよ? 思うところがないわけないでしょう」
ねちねちとしたディートの言葉に、グリムは気まずそうに頬を掻いた。
「唯一の懸念点であったスタミナの方も、半年の間で大分伸びたようです。なので、心配しなくてもグリムさんが前に出ることはもうないですよ」
自分がアレインのことを心配していたという内心を見抜かれた恥ずかしさから、グリムはそっぽを抜く。
「あーはいはい。わかりましたよ」
武器を弓に換装し、グリムは後衛の座に甘んじることを受け入れた。
ありがとうございました。




