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6.

 エレベーターは、音もなく落ちていった。


 落下ではない。

 だが、感覚としてはそれに近い。


 エルは壁にもたれ、腕を組んでいた。

 対照的に、調査隊の隊員たちは無言で立っている。ヘルメット越しでも分かるほど緊張していた。


 深度表示が変わる。


 −500m

 −1200m

 −2400m


 隊員の一人が小さく言った。


 「……こんな深かったのか」


 エリカは答えない。


 代わりにエルが口を開いた。


 「もっと深いですよ」


 「?」


 「主要層はだいたい三千メートルより下」


 彼はさらりと言った。


 「地殻安定層だから」


 隊員たちが一斉に彼を見る。


 「……どうしてそれを知っている」


 エルは肩をすくめた。


 「だから」


 少し困ったように笑った。


 「設計したから」


 沈黙。


 やがてエレベーターが減速した。


 低い振動音。


 そして。


 ドン。


 停止。


 扉が開いた。


 地下シェルター第七ゲート。


 巨大な空洞空間が広がっていた。


 白い人工灯。

 鋼鉄の通路。

 遠くに並ぶ居住ブロック。


 エルは周囲を見回した。


 「……へえ」


 少し驚いたような顔をする。


 「ちゃんと保守してるんだ」


 エリカが言う。


 「当たり前だ」


 「一万年以上ですよ?」


 「私たちはここで生きてきた」


 エルは小さく頷いた。


 「そりゃそうか」


 そのとき。


 警報が鳴り始めた。


 ビーッ ビーッ ビーッ


 隊員のヘルメットに通信が入る。


 『アルファ隊、応答せよ』


 エリカが答える。


 「こちらアルファ」


 『第七区域で未登録個体を確認』


 数秒の沈黙。


 『その人物を拘束せよ』


 隊員たちがエルを見る。


 エリカは目を閉じた。


 「……やっぱりか」


 エルはあっさり言った。


 「まあ、普通そうなるよね」


 通路の奥から足音が聞こえる。


 重い金属音。


 武装兵士が十数人、現れた。


 黒い装甲スーツ。

 電磁ライフル。


 先頭の男が言う。


 「エリカ隊長」


 彼はエルを見た。


 「その人物から離れてください」


 エリカは動かなかった。


 「命令は?」


 「拘束」


 兵士たちは武器を構える。


 照準がエルに向いた。


 エルはそれを見て、少し考えた。


 「質問いい?」


 誰も答えない。


 彼は続けた。


 「このシェルター、今何人くらい住んでる?」


 兵士が怒鳴る。


 「動くな!」


 エルはため息をついた。


 「まあいいや」


 彼は周囲の壁を軽く触った。


 次の瞬間。


 地下都市の照明が、一斉にちらついた。


 バチッ


 兵士たちの装甲スーツが警告を出す。


 「システムエラー!」


 「何が起きてる!」


 エルは壁を撫でながら言った。


 「懐かしいなあ」


 遠くで、低い機械音が響く。


 ゴォォォ……


 管制室。


 巨大スクリーンの前で、白髪の研究者が立ち上がった。


 「何が起きている!」


 オペレーターが叫ぶ。


 「中央AIが反応しています!」


 「反応?」


 「認証信号です!」


 研究者がスクリーンを見る。


 表示された文字。



 PRIMARY ADMIN ACCESS



 彼の血の気が引いた。


 「……まさか」


 地下シェルターでは、誰も使えない権限だった。


 理由は単純だ。


 その権限を持つ人間が存在しないからだ。


 第七ゲート。


 兵士たちのスーツが次々と停止していく。


 電磁ライフルも沈黙した。


 エルは困った顔をした。


 「壊してないですよ」


 「ただログインしただけ」


 エリカが呟く。


 「……ログイン?」


 エルは振り返った。


 「この都市の管理システム」


 彼は軽く言った。


 「俺のアカウントだから」


 兵士たちは完全に動けなくなっていた。


 エルはゆっくり歩き出す。


 通路の奥へ。


 「中央管理区ってどっち?」


 誰も答えない。


 エルは少し考えてから、天井を見た。


 「……あ、こっちか」


 彼は歩き出した。


 エリカは迷った。


 だが結局、後を追った。


 隊員たちも続く。


 通路の奥で、巨大な扉が開いていく。


 その先にあるのは――


 地下シェルター政府の中枢。


 そしてそこでは。


 白髪の研究者が、スクリーンを見つめていた。


 表示されたログ。



 ADMINISTRATOR ONLINE



 彼は震える声で言った。


 「……あり得ない」


 そのとき。


 中央管理室の扉が開いた。


 エルが顔を出した。


 「こんばんは」


 研究者と、設計者。


 一万二千年ぶりに。


 二つの時代が、真正面から向き合った。



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