5.
森の中。
沈黙が続いていた。
調査隊の五人は武器を構えたまま動かない。
目の前には、旅人のような青年――エル。
彼はまるで緊張していなかった。
むしろ、遠足の途中で立ち話をしているような雰囲気だった。
エリカが低く言った。
「……もう一度聞く」
「あなたは何者だ」
エルは少し考えた。
「難しい質問ですね」
彼は夜空を見上げた。
星が瞬いている。
「一番近い言い方をすると――」
エルは言った。
「管理者かな」
「管理者?」
「この星の」
隊員の一人が怒鳴る。
「ふざけるな!」
エルは肩をすくめた。
「怒られても困るけど」
エリカが静かに手を上げ、隊員を制した。
彼女はエルを見つめて言う。
「証明できる?」
エルは少し考えてから頷いた。
「いいですよ」
彼は軽く手を上げた。
その瞬間。
森の奥から、低い振動音が聞こえた。
ゴォォォ――
調査隊のセンサーが反応する。
「大型物体接近!」
「何だこれは!」
木々の上空を、何かが滑るように現れた。
黒い楕円形の機体。
翼もプロペラもない。
ただ静かに浮かんでいる。
隊員が叫ぶ。
「未知の飛行体!」
エリカが驚いた声で言う。
「反重力クラフト……?」
エルはあっさり言った。
「タクシーです」
沈黙。
「……タクシー?」
「うん」
彼は機体を指さした。
「旧文明の移動ポッド。まだ動くんですよ」
隊員たちは言葉を失った。
その技術は地下シェルターでも失われたものだった。
エルは言った。
「証明になった?」
エリカはしばらく黙っていた。
そして、決断した。
「……なぜ私たちに会いに来た」
エルは首を振った。
「逆」
「逆?」
「あなたたちが来たから」
彼は笑った。
「面白そうだった」
隊員の一人が呟く。
「こいつ……」
エルは続けた。
「それで」
彼はエリカを見る。
「地下シェルター、まだ動いてるんでしょ?」
エリカの目が鋭くなる。
「どうして知っている」
エルは言った。
「だって」
彼は足元の地面を軽く踏んだ。
「ここ、入り口の一つだし」
調査隊全員が固まった。
エリカが言う。
「……何?」
エルは森の奥を指差した。
「地下エレベーター、旧型だけどまだ使えるはず」
隊員が慌てて地形データを確認する。
「隊長!」
「この地点……確かに旧施設の座標です!」
エリカの背筋に冷たいものが走った。
この場所は、秘密裏に使っている出口の一つだった。
地上の人間が知るはずがない。
エルは言った。
「せっかくだし」
「案内してくれません?」
エリカは即答した。
「なぜ」
エルは答えた。
「地下を見たい」
「……観光か」
「半分くらい」
彼は少し真面目な顔になった。
「もう一つは」
静かに言った。
「点検」
「点検?」
「うん」
エルは夜空を見た。
エーテリオンの塔が光っている。
「この星のシステム」
彼は呟いた。
「ちょっと動き方がおかしい」
隊員の一人が言う。
「システムって……」
エルはあっさり答えた。
「グレイ・グー」
その言葉で、空気が凍った。
エリカが低く言う。
「あなたは……本当に」
エルは頷いた。
「多分」
そして、軽い調子で言った。
「最初の起点管理者ですね」
沈黙。
風が森を抜ける。
やがてエリカが決断した。
「……了解した」
隊員たちが驚く。
「隊長?」
「連れて行く」
「危険です!」
エリカは静かに言った。
「危険なのは最初からだ」
彼女はエルを見る。
「ただし条件がある」
「何です?」
「地下では私の指示に従う」
エルは笑った。
「了解」
彼は手を差し出した。
「ツアーガイド、よろしく」
エリカはその手を見た。
少しだけ迷い――
握った。
その瞬間。
遠くのエーテリオンで、塔の光が一段と強くなった。
まるで。
何かが次の段階へ進んだかのように。
数分後。
森の奥。
巨大な金属ハッチが開いた。
地下へ続く、深いシャフト。
エレベーターが待っている。
エルは覗き込んで言った。
「懐かしいな」
エリカが聞く。
「来たことがあるのか」
エルは答えた。
「いや」
少し笑った。
「作っただけ」
エレベーターが動き始めた。
地上から地下へ。
魔法文明の設計者と、地下文明の調査隊。
二つの世界が、初めて直接交わる瞬間だった。




