表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

7.

 中央管理区は、異様な静けさに包まれていた。


 巨大なスクリーン。

 半円形に並ぶコンソール。

 その中心に立つ、白髪の研究者。


 そして入口には、旅人のような青年――エル。


 二人の視線が交わる。


 研究者が最初に口を開いた。


 「……君が」


 声がわずかに震えている。


 「最上位管理者権限の所有者なのか」


 エルは少し首を傾げた。


 「最上位管理者?」


 それから、ああ、と頷いた。


 「この施設の?」


 研究者は答えない。

 ただスクリーンを指した。


 そこには、ログが表示されていた。



 PRIMARY ADMINISTRATOR : VERIFIED



 エルはそれを見て言った。


 「間違ってないですね」


 あまりにも簡単に言う。


 研究者はゆっくり椅子に座った。


 「名前は」


 「エル」


 「……それが本名か」


 エルは少し考えた。


 「今は」


 沈黙。


 やがて研究者が言う。


 「君は、何者だ」


 エルは少し困ったような顔をした。


 「さっきも言ったんだけど」


 「管理者」


 研究者は机を叩いた。


 「違う!」


 声が響く。


 「そんな答えを聞いているんじゃない!」


 彼は立ち上がった。


 「人類は一万年以上、この地下で生き延びてきた!」


 「地上は魔法文明に支配され、世界は変わった!」


 「そして今、突然現れた君が――」


 彼は言葉を絞り出した。


 「すべてのシステムの管理者だと言う」


 エルは黙って聞いていた。


 怒りが収まるのを待つように。


 やがて、静かに言った。


 「質問していいですか」


 研究者は睨む。


 「……何だ」


 「あなたたちの歴史」


 エルは周囲を見た。


 「どこから始まってます?」


 研究者は答えた。


 「第三次世界大戦」


 「人類は壊滅し、生存者が地下シェルターに避難した」


 「その後、地上では制御不能となったナノマシン群、グレイ・グーが発生し――」


 エルは頷いた。


 「うん」


 「そこまでは正しい」


 研究者の目が鋭くなる。


 「そこまで?」


 エルは椅子を引いて座った。


 まるで講義でも始めるように。


 「その続き」


 静かに言った。


 「あなたたちは知らない」


 部屋が静まり返る。


 エルはスクリーンを操作した。


 古いデータが表示される。


 西暦。


 2091年


 研究者が呟く。


 「戦争の前……」


 エルは言った。


 「グレイ・グー」


 「あなたたちは事故だと思ってるでしょ」


 「違う」


 研究者の呼吸が止まる。


 エルは淡々と言った。


 「計画です」


 「……何?」


 「地球再設計計画」


 研究者は椅子を掴んだ。


 「そんなもの、記録には――」


 「残してないから」


 エルは言った。


 「機密だったし」


 彼は続ける。


 「21世紀の終わり、人類は一つの問題にぶつかってた」


 「地球環境の崩壊」


 「資源枯渇」


 「人口問題」


 スクリーンにデータが流れる。


 気候崩壊。

 生態系崩壊。

 社会崩壊。


 エルは言う。


 「このままだと、200年以内に文明が終わる」


 「だから」


 彼は軽く言った。


 「作り直すことにした」


 研究者は呆然としていた。


 「……何を」


 エルは答えた。


 「地球を」


 沈黙。


 エルは続ける。


 「グレイ・グーは制御されたナノマシン群です」


 「自己増殖型の環境改造装置」


 「惑星の環境を再設計するための」


 スクリーンに別のデータが表示される。


 大気組成。

 マナ濃度。

 エネルギー分布。


 研究者が呟く。


 「……マナ」


 エルは頷く。


 「魔法の正体」


 彼は言った。


 「ナノマシンエネルギー網」


 調査隊が息を呑む。


 「グレイ・グーが地球全体に広がり」


 「エネルギー循環システムを作った」


 「それがマナ」


 エルは静かに言った。


 「魔法文明は」


 少し笑った。


 「その副産物」


 研究者は震える声で言う。


 「……じゃあ」


 「人類は?」


 エルは答えた。


 「残した」


 「バックアップとして」


 地下シェルターのスクリーンに、設計図が表示される。



 HUMAN ARCHIVE PROGRAM



 研究者の手が震えた。


 「私たちは……」


 エルは言った。


 「観察保護対象」


 静かに。


 「文明がどう進化するかを見るための」


 研究者は椅子に崩れ落ちた。


 「そんな……」


 エルは少し申し訳なさそうに言った。


 「まあ、でも」


 彼は肩をすくめた。


 「計画は途中で止まった」


 研究者が顔を上げる。


 「止まった?」


 エルは頷いた。


 「原因不明」


 「グレイ・グーの進化が、想定より速かった」


 スクリーンに警告ログが表示される。



 SYSTEM DEVIATION


 AUTONOMOUS EVOLUTION DETECTED



 エルは静かに言った。


 「つまり」


 「この星のシステム」


 彼は天井を見上げた。


 「今、誰も完全には制御してない」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ